2019年09月17日18時46分掲載  無料記事
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コラム

ニューヨークタイムズのデジタル化戦略?

  もう今から何年か前になるけれど、外国の旅行から帰ってみると、ポストに定期購読のニューヨークタイムズと並んでジャパン・タイムズが入っていた。最初は配達の間違いだろう、と思った。ところが、そうではなかったのだ。新聞にニューヨークタイムズとジャパンタイムズが提携して、両紙が一緒に配達されることになったと折込のチラシに書かれていた。 
 
  僕はジャパンタイムズにかつては悪い印象は持っていなかった。伝統のある優れた英字新聞だ。しかし、英字新聞を2紙も読む必要はないのだ。僕が頼んだわけでもないのに、どうしてそんなことを勝手にできるわけ?と大いに疑問だった。驚いたことに、その後、さらにジャパンタイムズは経営者が変わり、政治批判を書いてきたコラムニストたちが外されたと聞いた。そして、政府寄りの新聞に転換したのだ。つまりは、今日ではニューヨークタイムズとジャパンタイムズの親和性はないと読者の僕は思っている。状況は変わった。それでも、一緒に配達されてくるし、読みたくない右翼的な新聞の購読料まで支払わないといけない。 
 
  これってどう考えても納得できない! 
 
  たとえて言えば(前にも書いたように思うけれど)、とんかつ定食600円を食堂で注文したら、カレーライスも一緒につけられて出てきて、レジで900円の支払いを求められたような感じだ。たとえを引いたのは、普通の社会ではほとんどありえない事態だからだ。僕がそういうセットを自分から注文したのなら別だが。 
 
  もちろん、人によってはジャパンタイムズの変化をよく思う読者もいるかもしれない。政府よりの記事を読んで幸せな人もいるかもしれない。しかし、僕はそうではないのだ。そもそも、記事の良しあし以前にまったく読まない新聞が配られることは資源の無駄である。僕は日本の新聞も購読しているから、そもそもジャパンタイムズの記事とは情報的にかぶってしまう。新聞はリサイクル化を進めているが、一番大切なことはそもそも無駄を作らないことだ。これを考えても、理解不能な提携だと思う。 
 
  それで僕はついに、ニューヨークタイムズの東京支局に電話をして、誰が何のためにこのような決定を行ったのか、尋ねてみた。すると、決定したのはニューヨークの本部であって、東京支局の記者や支局長らとはまったく異なるセクションで決定されたそうだ。しかも、提携と言っても編集上の提携はまったくなかった。最初僕は国際記事はニューヨークタイムズが、日本国内の記事はジャパンタイムズが担当するのか、と思ったがそういうことでは全然ないと言う。要は紙面的にも編集的にもまったく関係ない新聞を新聞業界の都合で買わされている、ということだ。東京支局で働く彼女は日本の購読者が2紙を購読させられることで、いったいいくら料金を上乗せされているか、その値段を知らなかった。彼女は、もしジャパンタイムズを読むのが嫌であれば、デジタル版を購読されたらどうですか?と僕に言うのだった。 
 
  なるほど、そこでハタと僕は気がついた。もしかすると、ニューヨークタイムズはジャパンタイムズの方針が大変化するのを見越して、提携したのではないか、と思ったのだ。ニューヨークタイムズの僕のような購読者はきっと2つも新聞を読むのを拒んで、デジタル版に移行するだろう、と思ったのではないか。というのもニューヨークタイムズは世界でデジタル化を進めているのだ。僕にとって新聞はまずは紙であり、英字新聞を読みながら時々不明の英単語の意味を辞書で引いて余白に書き込むのが好きだ。デジタル版ではそうならない。でも、ニューヨークタイムズにとって日本での配達網を維持するのは面倒らしいのだ。そう思ってみると、ジャパンタイムズとの提携は妙にタイミングが良すぎるように思えてきた。ニューヨークタイムズとまったく異なる新聞と無理やり組み合わせて買わせることであたかも読者をあぶりだすように紙の新聞からネットへ誘導する・・・。もちろん、僕の思い違いなのかもしれないが・・・。リッチ素子東京支局長、あなたの決定ではなかったのでしょうが、この件についてはもっと読者への配慮とか説明がいるのではないですか。 
 
 
村上良太 


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