2019年12月21日09時50分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201912210950496

みる・よむ・きく

フランソワ・ドゥノールとアントワーヌ・シュワルツ著「欧州統合と新自由主義 〜社会的ヨーロッパの行方〜」

  英国の欧州連合からの離脱に関する記事を読むとき、日本ではほとんど報じられてこなかった視覚があることをいつも感じてきました。つまり、欧州連合の組織的・構造的欠陥です。欧州連合の統合のあり方が単なる「単一市場」であるなら、それは新自由主義を加速させる装置でしかない、という視覚です。本書でも引用されている「ヨーロッパは我々の構造調整プログラムだった」という言葉がすべてを表すかのようです。 
 
  フランソワ・ドゥノールとアントワーヌ・シュワルツが書いた「欧州統合と新自由主義 〜社会的ヨーロッパの行方〜」(論創社刊、小澤裕香・片岡大右訳)はその歴史をひも解いた貴重な分析であり、フランスではピエール・ブルデューが設立した出版社であるレゾン・ダジール社から出版されたものです。今はなき社会学者のブルデューは欧州連合のこうした新自由主義的な統合に警鐘を鳴らし、なんと来日講演でも遺言のように日本の若い人たちを前に語っていたものでした。 
 
  フランスの現代史で見るなら、最も重要なターニングポイントは1981年に誕生した社会党のフランソワ・ミッテラン大統領とその内閣が早々と社会主義政策の裏側で、その政策に歯止めをかける欧州連合への統合案を進めていたことであり、その推進者はジャック・ドロール(初代の欧州委員会委員長)でした。フランス現代史で最も謎めいた重大なポイントがここにあると思います。欧州連合を進めるにあたって、その財政赤字に対する共通目標を導入することは各国政府の政策を、とりわけ社会民主的な政策に歯止めがかかることに外なりません。実際に、それは2008年のリーマンショック以後に悪夢的な形でフランスやその他の国々に公務員の削減や労働市場の規制緩和などの形で襲い掛かることになりました。つまり、社会主義的な経済政策を不可能にしたのです。今日も続いている「黄色いベスト」の原点はここにあります。 
 
  本書では新自由主義の最初の源として、1938年8月にパリで開かれたウォルター・リップマン・シンポジウムとか、ドイツのオルド自由主義などにも触れられていて、今日の新自由主義のバックグラウンドを知ることができることも魅力です。 
 
  英国の離脱に関して言えば、離脱するかどうかの国民投票を実現したのは皮肉にも本心は離脱したくなかった保守党のデビッド・キャメロン首相(当時)その人でした。この時、英国の金融街シティは欧州市場のデジタル統合を夢見ていたのです。そして、英国はその市場の実現に向けつつ、大陸側の社会民主的諸政策をできる限り受け入れたくないという要求を出していました。たとえば財政難の南欧諸国に対する支援とか、難民の受け入れなどです。キャメロン首相は英国の離脱を可能にする国民投票をちらつかせることで、欧州連合本部に圧力をかけ、英国の要求を瀬戸際で飲ませようとしていたのでした。ところが、ふたを開けてみると、離脱が多数になり、自分たち自身の目論見の土台自体を吹っ飛ばしてしまったのです。 
 
  これを見れば新自由主義化を一段と進めたかった英国と、それに歯止めをかけ一定の大陸側の社会民主主義的な価値を欧州連合に残そうとしていたフランスとドイツとの拮抗がその背景にあると見ることができます。とはいえ、ドイツ自身も新自由主義化の旗振り役ではあったのですが。 
 
   フランソワ・ドゥノールとアントワーヌ・シュワルツが書いた「欧州統合と新自由主義 〜社会的ヨーロッパの行方〜」は日本のメジャーなメディアが極力、日本に紹介すまいとしてきた情報がまとまっています。なぜまた日本のメディアが紹介したくなかったかというと、筆者の推測ですが、大学の学費無料など様々な社会民主主義的政策を日本に根づかせたくないからでしょう。そういう政策を日本に導入したら、自らの出身階層が優越するその土台を切り崩すことになるからでしょう。フランスの書籍の中では、なかなか日本で翻訳されない部分が一定量ありますが、本書はその意味では稀有な勇気ある翻訳だと思います。 
 
 
※レゾン・ダジール出版 
http://www.raisonsdagir-editions.org/ 
 
 
村上良太 
 
 
 
■英国のEU離脱国民投票  英国経済の明暗は?  キャメロン首相の胸の内 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201606231947004 
「ここで彼は欧州連合の問題点と改善点を指摘している。問題点として大きく3つあげている。 
 扮儿颪六臆辰靴討い覆い)共通通貨ユーロの通貨管理が不安定である 
欧州の競争力がアジアやアメリカに比べて低下している 
2そO合間に経済格差があり、経済が不調の国々への支援に先進国の国民が嫌気がさしている 
  キャメロン首相はこれらの問題に対して、5つの対策を挙げている。これらを要約すれば以下のようになる。 
  競争力を上げる対策を行う事。その柱は欧州連合が1つの自由市場であること。つまり規制緩和し自由市場を欧州域内に作れば加盟国内の競争が激しくなり欧州の競争力が高まる。その結果、アジアやアメリカに対しても競争力が高まるということ。」 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。