2020年01月22日11時42分掲載  無料記事
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検証・メディア

問題を棚上げにするなら、いくら意思疎通を活発化させても、本当の意味で日韓関係を改善することはできない  Bark at Illusions

 ニュースウオッチ9(20/1/15)は2020年の世界を展望するシリーズ番組のひとつとして、日韓関係についての特集を放送した。日本のマスメディアが「徴用工」問題に言及する時はいつもそうだが、この番組も問題解決の責任は韓国政府にあるという前提に立っており、日韓関係改善のための本当の解決策を知ろうとするなら、この時点でこの番組を見る価値はない。日本政府も認めている通り(例えば当時外務大臣だった河野太郎の2018年11月14日の衆議院外務委員会での答弁)、日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していないのだから、未解決である大日本帝国時代の強制労働の問題を解決する責任が加害者である日本政府や日本企業にあることは、人道的観点からだけでなく、国際法の観点から見ても明らかだからだ。しかし解説に当たったNHKソウル支局長の高野洋は、これまでの日韓関係について的確な指摘をしている。ただし、いくらか補足説明が必要であり、本当の意味で日韓関係を改善するためには、導き出される結論も違ってくるけれども……。 
 
 ニュースウオッチ9は番組の前半部分で、韓国人やムン政権が「今年、日本とどう向き合おうとしている」かを探るためにキャスターの有馬嘉男がソウルを取材し、経済の低迷や保守派の反発などでムン・ジェイン大統領が苦境に立たされていることを紹介した後、番組の後半部分で高野洋がムン政権の政策や日韓関係ついて解説する。 
 ムン政権のスローガンである「積弊の清算」(保守政権下で積み重なった弊害を正して公正な社会を目指す)と「未来志向の日韓関係」の構築は「相矛盾」するように見えると質問する有馬嘉男に対して、高野洋は、 
 
「ムン大統領の頭の中では……整合性が取れている」、 
「これまでの保守政権がやってきた事というのは、正すべきものであると。その最たるものは、日本との間で結んだ日韓基本条約。これは不平等な条約だったんだという認識がムン大統領にはあるんだろうというふうに思います。一方で……未来志向の日韓関係と言っているのは、この1965年に結ばれた日韓基本条約を元にした日韓関係……を見直すことも視野に入れているという事なんだろうというふうに思います」 
 
と解説。 
 
 そして「日本からすると受け入れにくい話だ」、「日韓関係を根本からもう見直すと、こういうことなんですか」、「日本との関係を根本から見直していくっていう事になりますと、韓国の外交の軸足ってのも、これ変わってくるように思う」、韓国の外交は「日米韓の連携の枠組み」から「北朝鮮・中国・そしてロシア……に軸足が移っていくのかなというふうにも見える」などと尋ねる有馬嘉男に対して、高野洋は、 
 
「日米韓3か国VS中国・北朝鮮・ロシアというような捉え方、考え方というのは、冷戦時代の古い遺物だろうと、古い考え方だろうということ」、 
「日米に縛られない形での多国間での連携というスタンス……多国間安保という考え方」、 
「(日米だけでなく)北朝鮮の話にも耳を傾け、友好国である中国やロシアとも関係を深めていく、そうような発想」 
 
だと説明。 
 
 その後「最も注目しているポイント」を尋ねられた高野洋は、「この春の徴用を巡る問題の動き」だと答えて、「徴用工」訴訟で差し押さえられている日本企業の資産が現金化されれば、「戦後の日韓関係の根幹が崩れてしまう」、「修復困難」になる位の「打撃」が「日韓関係に襲い掛かる」と指摘。そして日韓関係を改善させるためには、問題を「棚に上げ」て両国の意思疎通を活発化させるべきだと、次のように主張する。 
 
「日韓関係というのはこれまでもお互いが知恵を出し合って、うまく管理してきたという関係なんです」 
「これは決してネガティブな意味ではなくて……お互い難しさが分かった上で、どうやったらうまくいくかという事のアイディアを形にするものだ。お互いが100%納得するっていう事は、これはもう無理なんですね。でもそれを言ってたら進まないので、それはある意味、棚に上げて、外交当局はもちろんだけれども、民間交流も含めて……いろんなレベルでのコミュニケーション、意思疎通っていうのをより活発化させていくっていう事が、……ますます必要になってるんじゃないかというふうに思いますね」 
 
 「積弊の清算」と「未来志向の日韓関係」の「整合性」やムン政権の外交スタンスの説明はもちろん、日韓両政府が日韓関係を「管理」してきたとか、問題を「棚に上げ」てきたという指摘も正しいだろう。高野洋は日韓両政府がどのように日韓関係を「管理」してきたかということについては説明していないが、パク・チョンヒ大統領(当時)が反対する市民を弾圧して日韓基本条約に調印したことや、パク・クネ大統領(当時)が被害者の声を無視して帝国時代の日本の性奴隷制度の問題の「最終的かつ不可逆的」な解決を日本政府と合意したことなどが具体例として挙げられる。日韓両政府は経済を優先し、植民地時代の被害者の救済を「棚に上げ」て日韓関係を「管理」してきた。 
 
 しかし、これまでと同じように問題を「棚に上げ」て「管理」することでは、本当の意味で日韓関係を改善させることはできない。日韓関係を改善するためには、大日本帝国の植民地政策による被害者の真の解決を図る必要がある。「積弊の清算」と「未来志向の日韓関係」はムン・ジェインの「頭の中」でだけ「整合性」が取れているのではない。被害者の救済なしに「未来志向の日韓関係」を築くことはできないということは、国籍を問わず公正で健全な社会を求める全ての人々にとって当然の認識だろう。 
未だに苦しんでいる被害者の救済を妨げるものであるなら、反対する市民を弾圧して独裁者が成立させた日韓基本条約は破棄されて然るべきだ。そして「冷戦時代の遺物」から脱却して、多国間による安全保障体制を構築することも、東アジアの平和のために、今後求められるべきだろう。 


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