2020年02月03日13時59分掲載  無料記事
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検証・メディア

世界の平和を脅かす日米同盟を、安全保障の基軸として絶対視するマスメディア  Bark at Illusions

  日米安全保障条約改定から60年が経過したことを機に、マスメディアは「日米同盟」に関する多くの論説記事やインタビュー記事を掲載している。憲法第9条との整合性や「アメリカ第一主義」を前面に押し出すトランプ政権への懸念、あるいは日米地位協定や沖縄の米軍基地の問題を指摘しているものもあるが、共通しているのは「日米同盟」を日本の安全保障の基軸として絶対視していることだ。 
 
  例えば、『安保改定60年 安定と価値の礎として』と題する朝日新聞社説(20/1/19)は、憲法第9条との整合性や、日米地位協定によって住民の暮らしや権利が脅かされていることなどを問題視し、日米安保条約の前文で「擁護」すると宣言した「民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配」などの「普遍的な価値」が「踏みにじられてきた」と指摘するなど、多くの段落を現状の日米安保条約に対する批判に割きながらも、結局は、 
 
「中国の軍拡や北朝鮮の脅威など、日本を取り巻く環境の厳しさを考えれば、日米安保の重要性はこれからも変わるまい」 
 
と述べて、日米安保条約を「安定と価値の礎として」、「安定した国際秩序」を築くために、日本は主体的な外交を行うべきだと論じている。 
 
  毎日新聞(社説 『日米安保条約改定60年 激動期に適合する同盟に』 20/1/19)は、西アジアへの自衛隊派遣や沖縄の米軍基地問題を例に挙げて、合衆国への依存が「対米追従」につながっていると指摘し、「対米追従」からの「脱却」や日米地位協定の改定などを求めているが、 
 
「日本が再び戦禍を被ることがなかったのは、平和主義の理念だけでなく世界最強国との同盟が結果的に抑止力となったからだろう」、 
「日本にとって米国との同盟が安全や経済の利益を最大化する基盤であることに変わりはない。同盟の維持と強化は最も現実的な選択だろう」 
 
と述べて、「現実の世界に適合する同盟を構築する」ために、「不断の手入れが重要」だと論じる。 
 
  読売新聞(社説 『安保改定60年 日米同盟強化へ不断の努力を』 20/1/19)は、「アジア・太平洋の平和と安定を維持する上で、日米同盟の重みは増している」と指摘して、「世界の警察官」であることに消極的な「内向き志向」の合衆国との「同盟関係を安定的に機能させる」ためにも、自衛隊の役割を広げるなどして抑止力を高めるべきだと主張。 
  産経新聞(社説(主張)『日米安保改定60年 同盟発展が平和もたらす』 20/1/19)は、「日米同盟」が「世界の平和と安定の礎としての役割を果たしている」と主張して日米安保条約を「国際公共財」だと表現し、日本の平和は憲法第9条ではなく、「外交努力」や「自衛隊」、「日米安保に基づく駐留米軍」の「抑止力」によって保たれてきたと断言して、読売新聞と同じように、新たな時代に対応するために日本の役割を増やすべきだと訴えている。 
 
  まず確認しておきたいのは、日本に駐留している米軍は有事の際に必ずしも日本を防衛するわけではないという事だ。ここに挙げた各紙の社説も含めて、ほとんどのマスメディアが60年前の日米安保改定によって合衆国に日本防衛が義務付けられたということを前提にしているのだが、これは正しくない。改定された現在の日米安保条約の第5条は、「自国の憲法上の規定および手続きに従って、共通の危険に対処する」と述べているのであって、有事になればどんな場合にでも米軍が出動して日本を防衛すると言っているのではない。 
 米軍が安全保障上の「抑止力」になるというのは極めて疑わしい。読売新聞(同)は、 
 
「ミサイルを搭載したロシアの原子力潜水艦の活動領域は、オホーツク海に限定されている。米軍による抑止効果にほかならない。 
  96年の台湾海峡危機で、米国は空母部隊を台湾近海に派遣し、中国による威嚇を封じ込めた。 
 米政府が、沖縄県の尖閣諸島は対日防衛義務の対象であると明言していることは、中国へのけん制につながっていよう」 
 
などと述べて、「条約改定が正しい選択だった」と主張しているが、仮にロシアの原子力潜水艦の活動領域がオホーツク海に限定されているとしても、ロシアは昨年7月に中国との共同警戒監視活動で竹島付近の空域に軍用機を飛行させていたし、日本が返還を求めている国後島や択捉島などに軍事施設を建設し、軍事活動も行っている。台湾海峡危機は20年以上も前の話で、その後中国は軍拡を行い軍事力は飛躍的に増大している。尖閣諸島については、合衆国政府の「けん制」にもかかわらず、中国公船が頻繁に周辺海域を航行している。 
 
  合衆国の外交・軍事政策に詳しいアメリカン大学のデイヴィッド・ヴァイン教授が指摘しているように、米軍の存在は抑止力になるどころか、逆に地域の緊張を高めている(『米軍基地がやってきたこと』原書房)。 
 
  それは地球のどの地域でも同じことで、東アジアでも沖縄県辺野古の米軍新基地建設や、米軍と一体となった自衛隊の南西諸島の基地建設、或いは地上配備型迎撃ミサイルシステムの配備計画などが中国やロシアを刺激し、両国の更なる軍拡や軍事的連携の強化を駆り立てて、地域の緊張を高めている。ロシアとは「日米同盟」が障害になって、隣国であるにもかかわらず、未だに平和条約を結ぶことができていない。 
 また米軍は単に地域の緊張を高めるだけでなく、実際に世界の平和を壊している。日米安保条約で日本が合衆国に提供している基地からも、米軍は朝鮮半島やインドシナ半島、西アジアの国々を侵略し、何百万人もの市民を殺害した。 
 
  日本の米軍基地から出撃した米軍がイラクを侵略した結果、イラクに平和がもたらされただろうか。アフガニスタンはどうか。いずれの国でも米軍の侵略で数多くの市民が犠牲になり、イラクではその後宗派対立が激化して国内は不安定化した。アフガニスタン紛争は未だに終結していない。そして不安定化はイラクやアフガニスタン国内にとどまらず、過激派の温床となってイスラム国などの台頭を招き、現在でも世界各地でテロ攻撃が起きている。ベトナムやラオス・カンボジアでは未だに数多くの人が枯葉剤や地雷など、合衆国政府による戦争犯罪の後遺症に苦しめられている。朝鮮戦争が始まったのは日米安保改定前だが、米軍は日本の基地を拠点に朝鮮を破壊し尽くし、現在でも日本が提供する基地から、ある時は自衛隊とともに朝鮮を威嚇している。 
 
  このような現実を前に、日米安保条約が「安定と価値の礎」だとか「同盟発展が平和もたらす」などと、よくも言えたものだ。 


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