2020年02月05日13時06分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

「表現の不自由展・その後」中止問題を経て〜シンポジウム「公共政策におけるアートの位置を問いなおす」

 愛知県で3年に一度開催される国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」。2019年は8月1日から10月14日の期間で行われ、津田大介氏が芸術監督を務める中で企画された「表現の不自由展・その後」では、慰安婦問題、植民地支配、政権批判などの公共の施設でタブーとされがちな内容が扱われたことで、世間から注目を浴びることとなった。この展示内容に対しては、外部から脅迫を受けることとなり、開催から3日で企画展が閉鎖されるとともに、9月末にはトリエンナーレに対する文化庁の補助金が全額不交付となる事態にまで至った(その後、閉幕1週間前に企画展再開)。一度採択された補助金を不交付とすることについては、「国家による検閲にあたる」という見解もあり、国や地方公共団体と文化・芸術の関り方が問われている。 
 
 トリエンナーレが開催されてから半年ほどが経過した2月2日、東京都内で行われたシンポジウムでは、今後の公共政策における文化やアートの位置づけについて、関係する様々な分野の代表者により意見が交わされた。シンポジウムを主催するAMSEA(社会を指向する芸術のためのアートマネジメント育成事業)の明戸隆浩氏は、シンポジウムを開催した経緯について、「トリエンナーレが開催されて半年が経過するタイミングで、今後この問題をどう扱っていくかを考える必要があると感じた」と述べている。また、表現の不自由展に作品を出展したアーティストの一人である小泉明郎氏は、今回のトリエンナーレで起こった事態を「初めてのことではない」とし、「アーティストはこれまで何度となく表現の自由の委縮に繋がるこのような事態と闘ってきた」と、表現の自由を取り巻くこれらの問題が繰り返されている状況を語った。 
 
 実際、昨年10月27日から11月4日に川崎市共催で開催された「KAWASAKIしんゆり映画祭2019」でも、慰安婦問題を題材として扱った映画「主戦場」について、係争中を理由に川崎市が上映に懸念を表明し、これにより主催者が一時的に上映を中止する事態が起こっている(その後、11月4日に上映再開)。これも8月に「表現の不自由展」が一時的に中止となったことを受け、主催者側に「抗議が殺到するかもしれない」という「委縮」が生じた結果であるといえる。これについて、武蔵野美術大学教授の志田陽子氏は「文化芸術政策における法的ルールの整備は、委縮の連鎖を止めて『表現の自由』をあるべき路線に戻すということにも繋がる」と法的手続きの必要性について語った。 
 
 愛知県名古屋市の河村たかし市長は、2月3日の記者会見において、次回2022年のトリエンナーレ開催に向けた市の負担金を「今の状況からすると払えない」と、2020年度予算に計上しない考えを示している。このような姿勢を市が示し続ける限り、表現の自由に対する萎縮の連鎖を止めることは難しい。千葉大学准教授の神野真吾氏はシンポジウムの中で「今後は、どのように『覚悟を持った表現』が受け入れられる社会をつくっていくかが大切となる」と述べたが、日本にはまだまだそのような社会に向けた土壌があるとは言い難い。だからこそ、国や地方公共団体にはその土壌づくりが求められており、市民の側も覚悟を持って声を上げ続けることが重要となってくるのではなかろうか。 


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