2020年05月24日13時54分掲載  無料記事
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講談社 「英語で読む日本国憲法」 ~ 保守という言葉の本質を考える〜

  日本は1980年代の円高で外国旅行の機会が増え、企業の海外進出も増えたことなどを背景に、講談社から1990年代に一連の日本語と英語のバイリンガルの本が出版されました。日本の事象や社会・行政などを英語でどう表現すればよいのかが参照できる画期的な事件でした。このシリーズの1冊に「英語で読む日本国憲法」があり、日本国憲法が勉強できるだけでなく、英語でどう表現できるかも記されていて、一石二鳥の本です。しかも、「英語で読む日本国憲法」は単に憲法のテキストとその英訳だけでなく、ところどころに様々な写真や資料が挿入されていて、退屈せず、豊かにいろんなイメージを自分の中で持ちながら読んでいけるように編集者の工夫が垣間見えるのです。 
 
  もう1つの特徴は第二部として、日本国憲法の作成にGHQの将校として立ちあい、後に帰国後、比較政治学者となるセオドア・H・マックネリー博士(メリーランド大学名誉教授)のテキストが納められていることです。この憲法作成の経緯は本書の魅力でしょうが、気になるのは明治憲法を尊重して旧憲法に戻すことを推奨している人々は「保守勢力」=conservativesと記載されていることです。結党直後の選挙が終わって以後、立憲民主党の枝野代表たちは自分たちは「保守」ですと盛んにアピールしてきましたが、これはマックネリー教授の言語感覚で言えば国民主権を否定する側の論者と誤解される可能性があるのではないでしょうか。欧米ではゆっくりと一歩一歩段階を踏んで進歩していく立場を指すには「プログレッシブ」という言葉があります。急激な変化を求める立場は「ラディカル」です。保守と言った時に、歴史の時間軸をどう取るか、という歴史意識が国民に共有されていないと混乱を招いてしまうでしょう。 
 
  先日、立憲民主党の福山哲郎幹事長と社会学者の宮台真司氏のインターネット討論の際に、「保守」には社会保守や経済保守、思想的な保守など3つの「保守」の分類があり、どの保守かを明確にしないと議論がややこしくなると言っていました。庶民からすると、こんなにいろんな保守があり、それぞれ大きく与野党で立場が異なるような場合に「私たちは保守です」と言われても、その言葉を受ける側はかなり戸惑うでしょうし、外国の報道では誤訳されて、立憲民主党は野党の中で自民党に近い立ち位置かと勘違いされてしまう可能性もあるかもしれません。外国の人が政界におけるコンサバティブ(保守 ※)という言葉で単純にイメージするのは、英国の保守党と労働党のケースのような保守政党でしょう。安倍首相がいかにラディカルな変革をしようとしたとしても、安倍首相の歴史的な立ち位置は歴史修正主義であり、つまりは旧憲法の守旧派に近い存在ではないのでしょうか。要するに再配分を減らす政策の安倍首相は昔の階級社会、そして改憲によって国民主権のなかった戦前・戦中のような日本に戻したいのではないか、ということなのです。つまり、戦後レジームからの脱却です。それが私が考える「保守」ということであり、安倍首相が「革新」でも「ラディカル」でもない理由です。何千年に及ぶ人類の歴史を見れば国民主権も、所得再配分も、身分制社会の克服もつい最近ようやく始まったばかりです。男女平等とか、女性の社会進出などもそうです。安倍首相は「日本を取り戻す」という言葉で<昔の価値観と社会を守りたい>ように私には思えます。 
 
  もし長期的に歴史を俯瞰する視点を持ちえなかったら、「保守」と言う言葉は誤解を招きがちで、立憲民主党に関して言えば、結果的にマイナスに作用するのではないかと筆者には思えます。立憲民主党は2017年秋の衆院選挙で選挙直前に結党しながら熱い興奮と感動を巻き起こして奇跡のような極めて高い当選率を成し遂げました。しかし、その後、いかに安倍政権の支持率が下がっても立憲民主党はどこか伸び悩んでいて、立ち上げ時の熱狂が感じられません。私は枝野代表が「保守」をアピールすればするほど、有権者が冷めていくのではないか、と感じています。「保守」と言った時に、2012年の民主党の鵺的な政党の幻影が、そこに野田首相のフラッシュバックとともに、有権者の脳裏にかぶさってくるからです。それは立憲民主党の立ち上げ精神とは正反対の印象を有権者に起こし、何か裏切られた印象を与えるのです。あの立ち上げの時、「皆さんが作る政党」と言っていたように思えるのに、選挙が終わったら選挙の時の支援者たちに意見を聞くわけでもなくいきなり、「俺は保守が好き」「これは俺様の政党」みたいな印象を与えたわけです。「保守」の定義も一方的に「上から」押し付けるだけでした。戦後の長い間に培われてきた日本語の歴史を無視する形でです。 
 
 
 
※保守(コンサバティブ) ウィキペディア 
「「コンサバティブ」には「保守的な」という意味に付随して「伝統的な」「古くさい」といった意味・ニュアンスもあり、ファッションの分野では派手さの対極に位置する控えめな・クラシックな装いを指す表現として「コンサバ」の語が用いられる。ちなみに英語のconservativeの対義語にあたる表現はprogressive(プログレッシブ)である。」 
 
 このプログレッシブは少しずつ進歩していく立場。立憲民主党は世界のプログレッシブな潮流から離脱して家父長制社会を守る立場であると受け取られるだろう。保守を掲げると、長期的スパンで負のインパクトとなっていく可能性がある。おそらくその鍵を握るのは女性の政治参加となるだろう。以下の説明もされている。 
 
 「保守(ほしゅ)または保守主義(ほしゅしゅぎ、英: conservatism)とは、従来からの伝統・習慣・制度・社会組織・考え方などを尊重し、革命などの急激な改革に反対する社会的・政治的な立場、傾向、思想などを指す用語。また、そのような政治的な立場を奉ずる人物、勢力も保守、あるいは保守主義者(英: conservative)と呼ぶ。対義語はリベラル、進歩、革新など。非社会主義国において保守主義は、左翼・右翼の政治的スペクトルでは、通常は右翼に位置づけられる。ただし、保守と保守主義では意味において若干の相違がある。」(ウィキペディア) 


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