2020年06月01日13時41分掲載  無料記事
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教育

コロナ禍と大学(3)遠隔授業の現状と問題点 石川多加子

 新型コロナウイルスの感染防止のための緊急事態宣言が解除された後も、多くの大学では登校制限や遠隔授業がつづいている。その様子はメディアでも一部報じられているが、遠隔授業の実際は、一般には余り理解されていないのではないだろうか。現状の問題点とともに、遠隔事業の一般化によって明らかになった懸念、特にプライバシーの権利などについて考えながら、議論を広げていく必要があるだろう。 
 
▽「同時双方向型」とは異なる実態 
  安倍首相が新型コロナウイルス感染症蔓延の防止策として全国の小・中学校・高校及び特別支援学校に対し臨時休校の要請を決定したのは、初の緊急事態宣言より1箇月以上遡る2月27日であった。この頃大学は春季休業中で、講義は行われていない。それから1箇月程の間に多くの大学で、2020年度前期(若しくは第1クォーター)の授業開始延期、対面授業の禁止と遠隔授業での代替等を決定した。緊急事態宣言が全て解除された5月末現在も、登学を制限する状況が続いている。 
 
 コロナ禍によって長期の休校を已む無くされ、遠隔授業を採り入れる高等教育機関は確実に増加しました。第37回未来投資会議(2020年4月3日)で配布された「基礎資料」によれば、2017年12月〜2018年2月の調査で実施していると回答したのは758の国・公・私立大学の内541校・26.5%のみであった。しかし、文科省が2020年4月13日に公表した「新型コロナウイルス感染症対策に関する大学等の対応状況について」(調査時点 同年4月 10 日16 時 00 分)では、国・公・私立大学及び高等専門学校859校の内427校(47.4%)が実施、333校(37.0%)が検討中、未定が41校、翌月12日の公表分では(調査時点 2020年5月12日20時00分)、1046校の内708校(66.2%)が実施、14校(24.6%)が検討中との結果になったのである。 
 
 では、長期化する登学制限によって大半の高等教育機関が実施中乃至は実施予定としている遠隔授業の実際は、どうなっているのだろうか。 
 「大学設置基準」(1956〈昭和31〉年10月22日文部省令第28号)25条は、授業方法について以下のように定めている。 
 
 第25条 授業は、講義、演習、実験、実習若しくは実技のいずれかにより又はこれらの併用により行うものとする。 
2 大学は、文部科学大臣が別に定めるところにより、前項の授業を、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる。 
3 大学は、第一項の授業を、外国において履修させることができる。前項の規定により、多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させる場合についても、同様とする。 
4省略 
 
 また、通称「メディア授業告示」(2001〈平成13〉年文部科学省告示第51号大学設置基準第25条第2項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業等について定める件等の一部改正2007〈平成19〉年7月31日文部科学省告示第114号)は、「同時双方向型」(1号)と「オンデマンド型」(2号)とに類別している。 
 
 通信衛星、光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に 扱うもので、次に掲げるいずれかの要件を満たし、大学において、大学設置基準第25条第1項に規定する面接授業に相当する教育効果を有すると認めたものであること。 
 一 同時かつ双方向に行われるものであって、かつ、授業を行う教室等以外の教室、研究室又はこれらに準ずる場所 (大学設置基準第31条第1項の規定により単位を授与する場合においては、企業の会議室等の職場又は住居に近い場所を含む。)において履修させるもの 
 二 毎回の授業の実施に当たって、指導補助者が教室等以外の場所において学生等に対面することにより、又は当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うものであって、かつ、当該授業に関する学生の意見の交換の機会が確保されているもの 
 
 「多様なメディアを高度に利用」なぞとあると、講義室で教員が受講生に接しているかのようにカメラに向かって話し、学生達はそれぞれ居室等でパソコンやタブレットを前にインターネットにより配信されて来る動画を視聴しつつ質問や議論をする先端的な!「同時双方向型」を思い描くかも知れない。一部には、zoom(米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ)やTeams(米マイクロソフト)を初めとするWeb会議システムや、2000年代初頭から無料の電話通話等を可能にしたSkype(米マイクロソフト)等を利用し複数の学生と遣り取りする教員も間違い無く存する。 
 
 しかし現状は、あらゆる授業が常時「同時双方向型」で行われているがの如きイメージとはかなり異なる。勤務先では2020年4月末、教育担当理事・副学長から学生に宛て、遠隔授業はオンデマンド型で実施するとの文書が発出された(スーパーグローバル大学なのに!?)。要するに、「学習時間を固定的に設定せず、学習管理システムを通じて、履修者に対して教材(音声データ・PDF ファイル、課題等)を提示し、授業内容を教授する」(学習院大学長「遠隔授業実施のガイドライン2020年4月20日」学習院大学ホームページhttps://www.gakushuin-ol.com/download/onlineclassGL20200420.pdf)「オンデマンド型」が多く採られていると推測出来ます。筆者の遠隔授業も、WebClass(大学独自の学修管理システム)を通して課題を提示し、また、授業の音声のみを掲載するというやり方である。 
 
▽「データダイエット」の呼びかけ 
 2020年5月中〜下旬にかけ、複数の大学でサーバーがダウンしたとの報道があった。東海大・早稲田大・青山学院大・國學院大等の名が挙がっていた。これは、多くの大学が遠隔授業を開始した日時に「想定を超えてアクセスが集中した」(2020年5月21日日本経済新聞)のが主因のようである。 
 
 国立情報学研究所は、「データダイエットへの協力のお願い:遠隔授業を主催される先生方へ」に於いて、「情報通信回線は全国民が共有する有限の資源です。通信量が情報通信回線の限界を超えるとすべての利用者が大きな影響を受けます。1600万人の生徒・学生が、この世界的な災禍の中でも十分な学習ができるように、『データダイエット』に協力しましょう」と呼び掛けると共に、具体的な“ダイエット法”を提示しています。「授業の全ての部分をライブで行う授業の全ての部分をライブで行う必要はありません」とした上で、「授業時間を、教員と学生との双方向のやり取りを行う(ライブ)部分、教員からの一方向の情報伝達の部分、学生が問題を解くなどの主体的な学びを行う部分」に分け、双方向の遣り取りを短くするといった対策である(大学共同利用機関法人情報システム研究機構国立情報学研究所ホームページ 
https://www.nii.ac.jp/event/other/decs/tips.html)。 
 
 勤務先でも、遠隔授業の増大に対応する為にWebClassに掲載する教材のファイルサイズを小さくする要請があったし、緊急メンテナンス(高速化、ストレージ容量拡大、ストリーミング機能拡張)は既に複数回実施されている。 
 なお、文科省は、3月末に発出した「令和2年度における大学等の授業の開始等について」(元文科高第1259号 2020〈令和〉2年3月24日) に於いて、2020年度当初は新型コロナウイルス感染症に対する対応等の影響に鑑みて、補講や課題研究等と並んで遠隔授業を活用すること、各授業科目の授業は、「10週又は15週にわたる期間を単位として行う」(大学設置基準23条)授業期間を弾力的に扱って差し支えないことを認めています。かつ、通常の対面授業に代えて遠隔授業を行っても、大学が試験を実施した上で学生に単位を付与すること、「試験」には、定期試験だけでなく、「レポートの活用による学習評価等,到達目標に応じた適切な成績評価手法を選択することができること」を通知している。 
 
 問題は、サーバーダウンのみではない。他にも、経済的困難を抱える学生が通信環境を整え得なかったり、送受信方法に疎い学生及び教職員が少なくない現実がある。けども、多くの大学がパソコン等の貸出しや、送受信方法等に関する講習を行う等して、改善に努めている。それに、教育効果の減少も軽視出来ないが、補講等によって補うことは可能であろう。さらに、通信や機器に係る費用は誰が負担するのか、もっと広く議論されなければならない。 


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