2020年06月09日14時44分掲載  無料記事
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コラム

アベノマスクと日本の匠

  新型コロナウイルスで様々な日本の政治と行政の実態が国民の目に露になってきましたが、中でも多くの人が「?」と思ったのは一世帯にマスク2枚の配布に実質2か月もかかったことでしょう。多くの人にとって、衝撃的な事件だったと思います。というのも、近代以後の日本の神話が剥がれ落ちてしまったからです。その神話と言うのは次のようなものになるでしょう。 
 
「日本は匠が支え、通産官僚が企画運営する技術立国である」 
 
 どんな複雑な形状の部品でも、匠たちが集結すれば作れないものはない、と言われた日本の製造業。そして、一部の特権企業でなく、農村を抱える地方を含めた全域の発展を支援した通産官僚たち。これが日本の発展を支えたいわば神話の中核にありました。しかし、実態を見ると、マスク2枚すら2か月もかかる国になってしまったのです。 
 
  まず、感染症の非常事態だったことを考えると、スピードを最優先しないといけなかったことは明らかです。この場合、企業に生産を任せるのではなく、国がマスク製造の技術や経験を持つ人々を直に集めて3日で設計図を完成させ、3日でプロトタイプ(サンプル)を生産する、というようなことが必要だったのではないでしょうか。3日というのは筆者が適当に挙げた数字に過ぎませんが、大切なことは国の省レベルで責任をもってできるだけ早くマスクの製品企画を作り、それをいくらで納入する、という買取価格も決定したうえで、日本国内で生産に乗り出す企業を募るべきだったことです。輸出入は外国政府の一存に依存することから、日本国内で生産すべきだったのは明らかです。もちろん、衛生基準も国で定めて。 
 
  そもそも、国民の健康に責任を負う行政当局であれば、本来ならこのような想定を〜省庁間の連携も図りつつ〜事前にしておくことが必要だったはずでしょう。少なくとも1月から新型コロナウイルスの報道が始まっていたことも含めて、安倍首相がマスク配布を国家政策にするしないに関せず、国内でマスクが大量に必要になるであろうことはわかっていたはずです。 
 
   生産に乗り出す国内企業を増やすには企業にとってもメリットのある価格で、かつ、税金の業務なので高すぎない適当な価格という落としどころになるでしょう。これまでさんざん伝えられてきた日本の匠の技術があればできないことはなかったはずです。あるいはもし経産省などでマンパワーが足りなければ、実際の企業集めは地方自治体に委ねる手もあったでしょう。 
 
  このマスク事件は世界的に日本の官僚機構と物づくりのレベルが30年前と比べて劇的に落ちてしまったことを世界に証明してしまいました。また昔で言うところの「通産官僚」が日本の生産企業を実態として把握できていないらしいことも見えてきました。厚労省の実質賃金のデータ改ざんなどで、世界から「日本の官僚は適当にやっている」とその統治システムが疑問視されていたところへ、それが映像として、形として実証されてしまったのが今回のマスク事件だと思います。 
 
 
 
■ジャン=ジャック・ルソー著「社会契約論」(中山元訳) 〜主権者とは誰か〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401010114173 
■ハンナ・アレント著 「革命について」 〜アメリカ革命を考える〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401201800171 
■テキサスという土地 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201305160719114 
■フアン・ルルフォ著 「ペドロ・パラモ」 
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