2020年07月12日14時17分掲載  無料記事
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コラム

選挙と年末商戦  短期間のバーゲンセールで終わる選挙  

  この国の選挙はいつも思うことだが、年末のバーゲンセールによく似ている。バーゲンセールではせいぜい数週間前から広告が始まって音楽などとともに商戦の話題が世間に出てくる。そして広告代理店がイメージ戦略を行う。目玉商品は何か、割引はどうか、見た目の印象はどうか、などなど。有権者にとっては「選ぶ」だけのイベントであって、自分が主体的に行動する契機にはなりえない。 
 
●あまりにも短い選挙期間で報道も中途半端 
 
  選挙キャンペーンを行う人々を批判するために書いているのではなく、全体に選挙のデザインが良くないのではないか、と感じるのだ。それは今に始まったことではなく、もうずいぶん前からそう感じてきた。アメリカの大統領選が1年近くかけて候補者を予備選から市民集会や討論会を各地で行って政策に市民の意向も加えながら大きくまとめていくのと日本のあっと言う間におわる選挙では雲泥の差がある。 
 
  今回の都知事選でも2016年の都知事選から4年も時間があったのに、なぜ選挙のせいぜい1か月くらい前に候補者が決まって、一気に片が付いてしまうのか。こうした思いを抱く市民はかなりの数に上ると思う。あまりにも不条理だ。住民を排除するシステムの選挙が盛り上がるわけもないし、投票率も上がるわけがない。いかなる形であれ、自分がまったく関与しないうちに作られた政策を見せられ、投票せよと迫られる。 
 
  本来は市民全員が議会で討論すべきだし、行政に参加すべきだが、人数的に実現不可能なために、やむを得ず代表を選んでいるに過ぎない。それにも関わらず、今の有権者は選ぶ人でしかない。しかも、せいぜい2〜3週間で決めなくてはならない。むしろ、次のようにしたらどうだろうか。 
 
●住民が主役になって、面白がれる選挙を 
 
  市民がどのような政策が欲しいかを討論会を1年、2年、3年など、かなり前の段階から各地で行って、その意見を行政など諸分野の専門家の意見を通しながら集約していき、最終的に一番集約された政策パッケージを作り上げる。このプロセスでメディアの役割や自治体自身の役割が問われることになるだろう。住民が感じている不安や困りごと、希望などをできるだけ具体的かつ多角的に浮上させ公開していくのである。たとえば都知事選では様々な職種やバックグラウンドの人々1万人くらいの声を聞き取って問題点と課題を集約していくような作業である。このプロセスが最も大切ではないだろうか。都立大学や東京都、さらにメディアなども選挙管理委員会に参加し、市民から声を集め、政治の実情と課題を明示するような、総じて情報という見地で協力すればできるだろう。候補者のTV討論会、住民同士の超党派討論会も最低何回はやるというように決めておく。この段階では政策パッケージまでできなくてもよいかもしれない。ともかく、まずは課題を市民が主体的に把握できればよいのだから。そしてどのような解決策があり得て、それぞれが対立しあっているのかも把握できる。正しい情報がなければ選挙は不可能なのだ。その一番の原点を立て直す必要がある。 
 
●新聞もTVもパソコンもスマホもない人でも都政の情報が得られる仕組みを 
 
  まず政治の実情を有権者全員が(新聞を購読していなかったとしても)把握できる必要がある。だから、こうした冊子が最低でも選挙の1か月前には有権者全員に届いていることが望ましい。その上でメディアはそれぞれの社風に沿って記事を作ればよい。もちろん、冊子ができるのはたとえば半年前であってもよいのだが。 
 
  そして出来上がった政策パッケージを誰に託すか、という段階で候補者を探し、白羽の矢を立てるベクトルである。もちろん、政策パッケージは複数あってよいから、それぞれを託せる人を探す。ボトムアップというのは本来、こうしたプロセスだと思う。有権者の声を吸い上げ、精査し、統合していくプロセスである。あるいは市民が把握している問題や政策案を野党や候補者の側でパッケージ化してもよいのかもしれない。うまくパッケージ化し、よい候補者を立てたところに人々は票を投じればよい。もちろん、市民が行う情報共有の段階で、政党や候補者も並走していてもよいのだろうが。 
 
  いずれにしても最初に政党ありきになると、どうしても政党間の力学で物事が進んでしまい、結局、市民は選ぶだけの人となり、消費者でしかなくなってしまう。人生も命もかかった4年間なのだが、今の選挙は軽すぎはしないだろうか。それに最初から政策が上から降りてきて投票せよと呼ばれても、ワクワク感が今一つ起きないだろう。 
 
 
 
武者小路龍児 


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