2020年07月19日16時02分掲載  無料記事
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検証・メディア

日韓対立の責任はマスメディアにもある  Bark at Illusions

 朝日新聞論説委員の箱田哲也は、日韓両政府は「対韓強硬政策」や「扇動的な日本批判」などで相手国の世論を刺激して互いの政権を支援し合う共生関係にあると主張し、「市民だけが政治に振り回される日韓相利共生の現状」だと嘆く(朝日20/7/12)。しかしその責任は、日韓の「歴史問題」に関して日本政府に都合の悪い事実に言及しない日本のマスメディアにもある。 
 
 日韓請求権協定(1965年)で個人の請求権は消滅していない。強制労働など、大日本帝国時代の日本の植民地支配の犠牲者は未だに救済されておらず、問題解決の責任は日本側にある。 
 現在の日韓対立の原因である「慰安婦」問題や「徴用工」問題を理解する上で最も重要かつ基本的な事実だが、マスメディアがこのことに言及するのは稀だ。日本政府が韓国への輸出規制強化を発表してから1年を迎えるにあたって書かれた最近の朝日新聞(20/7/2)社説も、この事実に触れずに、 
 
「韓国政府は、日韓請求権協定や歴代政権の見解を踏まえた上で、元徴用工らと直接話し合って打開策を模索すべきだ」 
 
などと主張して、問題解決の一義的な責任が韓国政府にあるかのような書き方をしていたし、箱田哲也も「徴用工」問題は日韓請求権協定で解決済みだという立場だ。 
 
「日韓協定で解決済みの問題だとして閣僚が『暴挙』『国際秩序への挑戦』と反発を強める日本。法や協定はそれとしても人間の尊厳はおとしめられぬと揺れる韓国」(箱田哲也 朝日18/11/16) 
 
「徴用工問題での韓国政府の態度にしびれをきらした安倍政権は、半導体材料の輸出で刀を抜いた。 
…… 
 今日の事態は韓国政府の無策が招いた」(箱田哲也 朝日19/7/14) 
 
朝日新聞が現在の日韓関係を憂慮して企画したインタビュー連載「隣人」(第1部「日本からの視線」、第2部「韓国からの視線」、第3部「葛藤を読み解く」、第4部「理解の手がかり」)も、日韓請求権協定で個人の請求権が消滅していないことに言及したのは17本中1本だけ(逆に日韓請求権協定で問題は解決済みだと主張している記事もいくつかある)で、日韓関係改善に向けて、加害者である日本政府・企業の責任を問題にするよりも、民間交流や相手国を理解することの大切さなどに焦点が当てられた記事が目立つ。 
民間交流が重要でないとは言わないが、問題の本質は被害者が救済されていないということなのだから、加害者が被害者に対して謝罪や賠償をしなければ、いくら両国の市民が交流したところで問題が解決するはずがない。深刻な人権侵害を犯しても加害者がお咎めもなしでのさばるような低俗な文化であるならいざ知らず、そのことを理解するのに両国間の考え方や文化の違いなど問題になるだろうか。 
 
 朝日新聞ばかりを例に挙げたが、こうした傾向は他のマスメディアも同じだ(日刊ベリタ18/11/7、19/1/16、他 参照)。 
 
国家間の条約で個人による請求権を消滅させることはできないというのが国際社会の共通認識であることを伝え、大日本帝国時代の犠牲者が救済されずにいるという現状をマスメディアが示していれば、たとえ韓国政府や韓国市民社会が加害者である日本政府や日本企業の対応を批判したとしても、被害者らの謝罪や賠償請求を不当に拒み続ける安倍晋三のようなソシオパス(社会病質者)の支持率など上がるはずがない。 
あるいは、日本の文化レベルはその程度のものなのか。 


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