2020年07月20日13時56分掲載  無料記事
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コラム

翻訳書とスーパーリッチ

  今の日本では出版不況と言われて久しいですが、特に外国の書籍の翻訳はもっと厳しいのではないでしょうか。出版社も経営を成り立たせないといけませんから、一定数の売り上げ(販売部数×定価)を見込めないとなかなか翻訳出版の企画を通すことが難しいことはよくわかります。 
 
  こうした風潮はどこかで、マスメディアの「日本はすごい」キャンペーンと通底しているのではないでしょうか。もう外国から学ぶことはなくて、これからは日本が発信する時代・・・そういう言葉を若いエリートから耳にしたことがあります。外国なんか行ってもしょうがないですよ、という言葉も耳にしました。そういう発想が主流になってくると、外国書籍を読んで学ぼうという気風がなくなっていくのもよくわかります。面白そうな本は毎年たくさんありますが、翻訳企画を通すのは難しいのです。 
 
  そうなってくると、僕の中にある妄想が浮かぶのです。それは超リッチな人々が、自宅に自分のお抱えの料理人を持つのと同様に、自分のお抱えの翻訳家を何人も擁して、自分一人のための翻訳をさせることです。翻訳権を何年も独占的に買い取って〜たとえば10年間あるいは20年間〜その間、翻訳はさせるけれど、出版はさせずに寝かしておく。すると、その言語あるいはその国でその本の翻訳書は出ることがありませんから、超リッチな人が一人だけその本の中身を独占できるのです。ライバルたちにその情報が届かないように。そして、その超リッチな人に認められた一部の人々だけがその豪華な秘密のライブラリーを訪れることができるというわけです。あるいは出版社が翻訳出版しそうにないものであれば、翻訳権を取らずに、ただ単に個人的に翻訳してくれ、ということもあるかもしれません。 
 
 
村上良太 


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