2020年08月07日14時31分掲載  無料記事
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コラム

大阪市立大学と府立大学の合併を前に  都市の大学とは何か、今一度考える

  今、大阪は維新の会が府政も市政も与党となり、ネオリベラリズム的諸改革を行っています。大阪市立大学と大阪府立大学の合併もその1つです。両大学は公立大学ながら歴史も異なっていますが、何より両大学を合併することで「縮小」、「萎縮」あるいは「後退」につながらなければよいが、と思っています。私がこう思うのは東京都立大学が首都大学東京に再編される頃、取材したことがあり、人文学部とくに仏文科の教授たちが抵抗していたことが記憶にあるのです(※)。戦後の民主主義の時代に開花した伝統ある人文学部が解体され、カルチャーセンター化してしまうことは文学や人文社会学への冒涜と言ってもよいものでしょう。当時、都知事だった石原慎太郎氏はフランス語は数も満足に勘定できない言語だという意味の中傷発言を行ったこと(※)も記憶にあります。 
 
  私は大阪市立大学の卒業生の一人ですが、入学時の学生の平均的な偏差値は京都大学や大阪大学に及びません。しかし、教授たちは一概に優れていました。少なくとも私が在籍した30数年前は京都大学教授になる前の研究者や京大教授を退官後に名誉教授となって着任する教授が少なくありませんでした。私が在籍した刑法ゼミの中山研一教授も瀧川幸辰の弟子で、京大名誉教授でもありました。言葉は悪いのですが「京大の植民地」とすら呼ばれていたのです。要するに学生さえ触発されてやる気になればそれに応じていくらでも学習できる大学だったのです(やる気にならなければどれだけでもサボれる大学でもありました)。 
 
  記憶では教官一人に学生数も私立のマンモス大学に比べると格段に教官の目のよく届く比率でした。入学へのハードルは低い反面、教育の中身は良かったのです。さらに69年の学生運動の歴史も踏まえて在日コリアンのことを考える研究会や部落のことを考える研究会、こういった自主ゼミ的な勉強会もありました。 
 
  また大阪市立大学の場合は都市研究に特徴があり、都市財政論や都市社会学、貧困問題、移民の問題など独自のカリキュラムがありました。これらは国家一般ではなく、都市という空間における具体的な状況をベースに、都市の政策を考えるものでした。こうした特徴はかつて旧帝国大学と呼ばれた大学群とは異なる伝統だと思います。昔は「都市国家」とか「ポリス」という言葉をよく耳にしましたが、国家という単位よりも都市という市民の自発性が主となる自治的な行政単位にこだわる、という点で「市立」は首都・東京から見ると劣等なイメージなのかもしれませんが、むしろ私はそこに面白さを感じていたものです。国家という大文字の行政ではなく、都市という小文字の身近な社会のあり方を考える点で大学に特徴がありました。そこにはかつての堺の商人たちの自治の歴史なども注ぎ込んでいるのです。都市の大学とは、都市自体が大学であることでもあります。つまり、都市の中に研究の対象が無限にあり、またそこに研究成果が還元されるべきです。 
 
  しかし、近年、文科省の知恵袋になっている財界人やアドバイザーらが大学を二系統に分けて、東大や京大のような偏差値の高い旧帝大系には文学や政治学、社会学などの講義を置く一方で、地方の大学では簿記や観光のような経営技術やそろばん勘定的技術の習得をやらせればよいのだ、という意見を述べています。しかし、私の言っている「都市の大学」というのは、地方の大学では簿記や商品開発の勉強をやればよい、という発想とは無縁です。そのようなすぐに陳腐化する技能ではなくて、文学や社会学、法学あるいは理工学や医学といった基礎的な研究を行う分野も都市の大学には必要です。総合的な視点を持てない人間に都市づくりはできません。「アベノミクス」などと言って派手な言葉で推進してきた不毛な国家的経済政策などより、福祉を行いながら1つの都市経営を成り立たせることは実際にははるかに難しいことです。どんな都市を作るか、と考えると、人間への理解や社会のあり方への洞察、さらには世界経済の先行を見る力も必要です。そう考えると、小手先の技だけやっていればよい、ということにはなり得ません。そういう意味で、悪しきデザインに基づく、悪しき合併にならないことを祈るのみです。 
 
 
※石原都知事の「仏語侮辱」発言訴訟、東京地裁が訴えを棄却(AFP) 
https://www.afpbb.com/articles/-/2325873?fbclid=IwAR1Yp1VArkkF-fKduoaEEk5TF_Mu0-KVKNvHY3Ka3tTcEBPVn2r4iZygUbo 
 
※ある大学の死(ゆずりは通信) 
https://yuzuriha-info.com/daigakunoshi/ 


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