2020年09月18日13時42分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202009181342185

農と食

感染症を媒介する蚊がネオニコに抵抗性 農薬を撒けば撒くほど抵抗性が強まるイタチごっこをどう断ち切るか

 感染症を媒介する蚊の防除にはピレスロイド系などの殺虫剤が使われてきた。こうした殺虫剤に対する抵抗性が蔓延し、有効でなくなってきていることから、WHOは2017年、室内散布用として新たにネオニコチノイド系のクロチアニジンを選定した。しかし、農業で使用されていることから、ネオニコチノイド系に抵抗性を持つ個体群が出現している。WHOも有効性がいつまで続くか懸念を持っているという。研究者は、殺虫剤に対する抵抗性についての事前の確認が必要だという。(有機農業ニュースクリップ) 
 
 カメルーン感染症研究センター(CRID)の研究グループはこのほど、首都ヤウンデの都市部と周辺の農業地域において、感染症を媒介するハマダラカがネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジンに対する抵抗性を獲得していると発表した。WHOのガイドラインに沿った試験を行ったところ、都市部では蚊の死亡率は100%だったが、農場近辺では半数近くが生存したという。WHOが感染症予防のために推奨するクロチアニジンの濃度の5倍と10倍の濃度での死亡率は、それぞれ37.5%および77.5%であったという。WHOのガイドラインによると、5倍濃度、特に10倍濃度で抵抗性が確認された場合、運用上の障害となる可能性が高いとされているという。 
 
 研究グループはまた、WHOが認定している住友化学のイミダクロプリド剤SumiShield 50WGに対する抵抗性を試験したところ、ヤウンデ郊外の農場の個体群では、7日後の死亡率は75%と4分の1が生存し、イミダクロプリでへの抵抗性を示したという。SumiShield 50WGはWHOの推奨濃度の24倍に相当し、研究グループは、この個体群が高濃度のクロチアニジンに抵抗性を持っていて、クロチアニジンの室内散布による防除は困難であるとしている。 
 
 この研究結果に対して、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のコリーヌ ・ グフォーさんは、マラリアを媒介する昆虫のクロチアニジンへの明確な抵抗性獲得の最初の報告ではないかという。そして、「これ(抵抗性)はとても早く広がり、数年以内にこの新しい殺虫剤(クロチアニジン)はマラリア媒介昆虫の防除にはほとんど役に立たなくなるかもしれません」と警告しているという。 
 
 カメルーン感染症研究センター(CRID)の研究グループのカムデンさんは、農業でネオニコチノイド系農薬を使ってきたことがこうした抵抗性個体群を産み出したと指摘し、「こうしたデータがあればWHOはクロチアニジンを推奨しなかっただろう」という。 
 
 WHOは、この論文が査読前であることを理由に検討していないという。一方で、クロチアニジンの効果がいつまで続くか懸念を持っているともいう。WHOは2017年、ピレスロイド系殺虫剤の効果が薄くなっているとして、マラリアなどの感染症予防用の室内散布剤に住友化学のクロチアニジン製剤SumiShield 50WGを認定している。 
 
 ・bioRxiv, 2020-8-7 
  Resistance of Anopheles gambiae to the new insecticide clothianidin associated with unrestricted use of agricultural neonicotinoids in Yaounde, Cameroon 
  https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.08.06.239509v1 
 
 ・Science, 2020-8-31 
  Some mosquitoes already have resistance to the latest weapon against malaria 
  https://www.sciencemag.org/news/2020/08/some-mosquitoes-already-have-resistance-latest-weapon-against-malaria 
 
 ・WHO, 2017-11-2 
  WHO prequalifies indoor residual spray for vector control 
  https://www.who.int/pq-vector-control/WHOprequalifies-spray-for-vector-control/en/ 
 
 住友化学は自社のSumiShield 50WGの紹介ページで、従来防除に使われてきたピレスロイド系殺虫剤に抵抗性を持つ蚊が現れ、《アフリカではピレスロイド系薬剤への抵抗性が蔓延》と、ピレスロイド剤の効果のなさを認めている。ピレスロイド系殺虫剤の代替品として、このクロチアニジン剤の優位性を強調している。その一方では、ピレスロイドを練りこみ、薬剤が徐々にしみ出して《防虫効果が3年以上持続する》と自賛する蚊帳オリセットを世界80か国へ輸出しているともしている。住友化学としては、どちらも売れれば良いかのようだ。 
 
 ・住友化学 
  SumiShield 50WG 
  https://www.sumivector.com/sumishield-50wg 
 
  住友化学のマラリアへの取り組み 
  https://www.sumitomo-chem.co.jp/sustainability/social_contributions/olysetnet/initiative/ 
 
 WHOのお墨付きをもらったクロチアニジンも、抵抗性を持つ個体群が登場して防除の効果がなくなる。専門家は、すぐに拡がるだろうという。このようないたちごっこを続ける限り、新たな殺虫剤で一時的に抑えられたとしても、抵抗性を獲得した個体群が登場してくるサイクルに変化はないだろう。「低負荷」や「持続可能性」が一つのキーワードとなってきている今、こうした殺虫剤を使った絶滅戦略に代わる、ヒトや環境に影響を与えない方法が求められる。殺虫剤で絶滅させる戦略そのものが問われている。 
 
 感染症防除に殺虫剤を使わない方法も出てきている。カリフォルニア大学バークレー校の研究グループはこのほど、ボルバキア菌に感染したネッタイシマカを放出することで、放出した地域のデング熱が77%減少するとの研究結果を明らかにした。この研究は、ワールド・モスキート・プログラム(WMP)がインドネシアのジョクジャカルタ市で行ったもので、市内を24の区域に分割し、半数の区域にボルバキア菌に感染したネッタイシマカを放出してデング熱の発生状況を調べたものだという。この方法では、ボルバキア菌に感染した蚊は正常に繁殖するため、一度感染した蚊を放出するだけで済むという。研究グループは、デング熱に絞って調査したが、他のウイルス性の感染症にも有効だとみているという。この方法は、先ごろ米国で実施が承認された、不妊化した遺伝子組み換え蚊を放出して蚊の個体群を絶滅させようというやり方とは真逆のものだ。 
 
 ・UC Berkeley, 2020-8-26 
  Breakthrough in eliminating dengue, other mosquito-borne diseases 
  https://news.berkeley.edu/2020/08/26/breakthrough-in-eliminating-dengue-other-mosquito-borne-diseases/ 
 
【関連記事】 
 ・米国 遺伝子組み換え蚊の放出承認 住民投票は拒否 
  http://organic-newsclip.info/log/2020/20081056-1.html 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。