2020年09月27日16時56分掲載  無料記事
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検証・メディア

NHK広島放送局の差別ツイートについて  思い出した2つの過去の事例

  NHK広島が1945年の状況を当時、ツイッターがあったら、という想定で、実在の人物の手記をもとに、一連のツイートをしたことが大きな批判を呼んでいます。朝鮮人への差別的なツイートが発信されていたことがその原因です。新聞記事や批判する人々の声を読んでいると、過去の事例が想起されてきました。 
 
  1つは赤塚不二夫作のギャグマンガ「おそ松くん」の一連の話を後に復刻してまとめた漫画本の中に、南国から黒人が来日する話(「あつい国から お客さま」)があり、それが今から見ると信じられない程の人種差別的表現だったことです。黒人が腰みのだけの裸で来日して、変な言語を話しながらおそ松くん一家の周辺で騒動を起こす話です。セリフには人食い人種的な扱いもあります。初出は昭和38年(1963年)の少年サンデーで、今から57年前の作品です。 
  出版社の竹書房は、今日の人権擁護の基準に照らすと、不当や不適当な語句や表現があることを指摘したうえで、それが当時、差別助長を意図するつもりではなかったことや、当時の時代背景を考えたうえで収録することにした、と説明を付しています。これら一連の説明を出版社が付したことは妥当だと思いました。この漫画を見たことで、黒人をめぐる意識はこの57年で信じられない程変わったのだな、ということを改めて感じました。このエピソードを本に収録するかどうかについては議論もあるでしょうが、出版社の方針は理解できるものだと思いました。実際、人権意識は年々高まっていくもので、今日の最先端の人権基準で昔の作品を切り捨てて行ったら、漫画に限らず、小説であれ映画であれほとんどの作品が切り捨ての対象となるでしょう。それは文化的損失としては、大きなものになってしまうでしょう。 
 
  今回、NHK広島で問題になっていることは1945年の時点で朝鮮人への差別意識が存在していたとしても、ツイッターという形にアレンジした行為は、現在の表現行為と見なされることでしょう。赤塚不二夫の「おそ松くん」は過去に描かれたものであり、もはや文化史的な資料と言えます。現在の人々がその差別に新たな形の表現行為を加えるという形でコミットするかどうか、その違いは大きいと思います。 
 
  このことで私には、もう1つ思い出すエピソードがありました。私が若い頃学んだ日本映画学校にはドキュメンタリー実習という授業がありました。学生たちがいくつかのグループに分かれて、ドキュメンタリー作品を試作して発表し、みんなで見て合評する、というコマです。以下のエピソードはかれこれ30年も昔の話です。ある学生グループが盗撮魔の男のドキュメンタリー短編を作りました。公共のトイレで盗撮魔が撮影した女性の写真も何枚か試作にインサートされていました。記憶が定かではありませんが、多分モザイクとか、ぼかしなどはかかっていたのではないかと思います。使用された写真の1枚は女子トイレのドアの隙間から盗撮したもので、学生監督はその写真に小便を象徴するような水音を効果音としてかぶせていたのです。 
  これが問題を呼んだのです。ドキュメンタリー実習で別の班を担当した講師が<この作品を指導した担当講師を殴ってやりたい>と激怒したのです。盗撮魔の人生を描く、ということで男の写真を使う、ということが仮にありえても、そこに効果音をかぶせたら、最早まったく違った意味になる、とその講師は訴えました。写真に効果音をかぶせることで、学生監督は盗撮という行為を客観的に見つめる立場を放棄し、盗撮行為に自らコミットしたことになる、と言うのです。この実習は外部で発表するものではなく、学内で試写して合評自体がドキュメンタリーづくりの学習過程と言えます。盗撮魔のドキュメンタリーは私の作品ではなかったわけですが、この講師の怒りを今も私は生々しく覚えています。まだ当時は学生なので表現ということについても、ぼあ〜んとした意識しかなかったのですが、講師の怒りを見ることで、そこから学べたのです。 
 
  NHK広島の差別ツイートを考えると、このエピソードが浮かんできました。過去にそういう意識の人がいたとして、それを歴史的資料として示すことはあり得ても、そこに現在の職員が表現行為に参加しているのなら、それは現在の表現であり、現在の差別と見なされても仕方がないのではないかと思います。 


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