2020年10月04日13時23分掲載  無料記事
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政治

菅義偉首相は秋田で農業をやったらどうか    苦労人を自称する政治家は地方の庶民の生活と向き合うべきだ

  菅義偉首相は秋田の農家のせがれだったとか、苦学生だったとか、麻生元首相や安倍前首相らのような政治家一家の出身とは違う育ちであることが記事で強調されています。しかし、それは格差社会を肯定する新自由主義者であることを隠す煙幕に過ぎないと思えます。政治家としてこれまでやってきたことは安倍前首相や竹中元経済大臣ら新自由主義の政治家と同じ歩みをしてきた、というに尽きます。 
 
  もし、秋田の農家の出身をアピールするのであれば、秋田で農業体験を首相になった今、あえてやってみるべきでしょう。今、秋田に帰省して農業体験をしてみれば、自身がその代弁者だったアベノミクスが秋田の郷里の農民や市民に何をもたらしたかを理解できるはずです。菅首相は輸出できる農業が農業振興策だと信じているようですが、そのような思想でこの20年来、日本の農業は活性化できたのでしょうか。後継者は増えたのでしょうか。食料自給率は増えたのでしょうか。輸出できる農業でトヨタ車の輸出のように、農業が儲かると思っているのでしょうか。日本国内の自動車工場がどうなったか、日本人はみんな知っているはず(※)。輸出できる農業が成功できるなら、輸出できる自動車工場も国外移転する必要はなかったのでは。もちろん、一部の農民は潤うかもしれませんが、大切なことは国内の農業および食料自給の全貌です。菅義偉首相は国民を飢えさせない、という政治家として最低限の自覚を持っている人かどうか。秋田の農家のせがれが、農作物の輸出振興策で日本の農業は生き返る、などと信じているとしたら、菅義偉首相の頭脳は安倍首相に勝るとも劣らず、かなりな程度、お花畑だと言わざるを得ないでしょう。そもそも、もし、その方向性に日本農業全体の勝算が実際にあったのなら、そうした農業像がメディアで盛んに提唱されていた1990年代から30年間が過ぎた今、日本はとっくに農業輸出大国になっていてもおかしくなかったはずです。ところが実際には世界第一位の食料輸入大国なのです(2013年の統計※)。さらに農業と命の基礎である種子すら農民は失いつつあります。こう考えると、歴代政権は日本の農民に対して戦争をしかけてきたと言っても過言ではないでしょう。 
 
  すべからく政治家は農業、建設業、コンビニやスーパー、飲食店、小中学校といった現場で職業体験を1か月やってみるべきなのです。そうすることで初めて庶民の生活を知ることができるのです。 
 
  そうした庶民の生活は今日、新聞記事ではほとんど読むことはできません。というのも新聞記者自身が記者の二世、三世が増え、政治家と同様に庶民の生活を理解できない、ということにあります。新聞記者は庶民を装いつつ、実際は自身の出自であるところの富裕層や既得権者の利益を代弁することが多いのです。したがって、それゆえ、社会の本質を描かない表層的な記事が量産されるのみです。政治学者もそうではないでしょうか。今日、学者も二世や三世が増えているのです。どんなに格差拡大に警鐘を鳴らしていたとしても、本当の庶民の暮らしが見えていません。だからどんな言葉も口先だけに響き、届いてこないのです。新聞が面白くない、学者に迫力がない、ということの本質がここにあります。そのことが菅義偉首相の描き方に何より象徴的に表れているのです。新聞が書く「秋田の農家のせがれ」という言葉には、菅義偉政権は農民の味方である、とするイデオロギーが潜んでいるのです。このことは自民党の規制緩和が目下、農業と国民健康保険を標的としている以上、注意しなくてはならないはずです。 
 
 
●菅首相が庶民の見方かどうかを判別する3つの決め手 
 
1)学費を軽減できるか(政治的な条件をつけず) 
2)農業従事者を増やし、食料自給率を高められるか 
3)最低賃金を上げ、派遣労働を減らせるか 
 
 
武者小路龍児 
 
 
参考 
 
※日本車の5台に3台は海外産 法人税を大幅に引き下げても自動車産業の空洞化は止まらない(2013 Gendai ismedia) 
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/36286 
 
※日本の食料輸入の推移データ「我が国の農産物貿易収支は大幅な赤字となっている」 
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/annual/2014/pdf/iii_1.pdf 
 これはアベノミクスの始まった2013年の政府データだが、説明として日本の農業が集約されず生産価格が高いため、輸出が伸びないかの印象を与えている。しかし、それなら集約化の進んだはずの自動車産業の生産工場がなぜ空洞化していくのか、その説明ができないだろう。 
 「 USDA(米国農務省)の資料を用いて、国別の農産物の輸出入バランスをみると、我が国の農産物純輸入額(輸入額−輸出額)は拡大傾向で推移し、農産物輸入額では米国、中国に次いで第3位であるが、農産物純輸入額では世界第1位となっている。」 
  論より証拠、この統計に出てくる食料の輸出量と輸入量の推移のグラフを見れば、その圧倒的な格差から「輸出できる農業」というスローガンが、いかに見せかけかが一目瞭然だ。 


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