2020年10月22日15時17分掲載  無料記事
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農と食

インド農民 農薬の販売中止と賠償を求めてシンジェンタを提訴

 2017年、インド中部のマハーラーシュトラ州ヤバトマルで綿花農園で使用した殺虫剤が原因で800人以上が農薬中毒となり20人以上が死亡したと、スイスのNGOのパブリック・アイ(Public Eye)が発表した。パブリック・アイは、原因はシンジェンタの製造した殺虫剤ジアフェンチウロン剤(商品名Polo)だとしていた。この時の死亡者の遺族2人と中毒した農民が原告となり、スイスの裁判所に賠償とジアフェンチウロン剤の販売中止を求めて、9月17日に提訴した。スイスの製造物責任法の3年の時効が迫る中、ぎりぎりでの提訴だったという。(有機農業ニュースクリップ) 
 
 この提訴には、パブリック・アイのほか、国際農薬行動ネットワーク・インド(Pan India)やマハラシュトラ州農薬中毒者協会(MAPPP)、欧州憲法人権センター(ECCHR)が協力した。 
 
 これまでシンジェンタ社は、中毒事件の責任の所在について、繰り返し口を閉ざしたり、全面的に否定したりしてきたという。 
 
 ジアフェンチウロン剤について欧州化学品庁(ECHA)は「吸入すると毒性がある」「長期または反復暴露により臓器に損傷を与える可能性がある」としているという。ジアフェンチウロンは、EUが2002年に禁止し、スイスも2009年に禁止した。 
 
 この提訴の原因となったヤバトマルでの中毒事件は、「国連・特別報告者 貧困国への危険農薬輸出停止を求める」の具体例だといえる。 
 
・Public Eye, 2020-9-17 
  Yavatmal poisonings: Syngenta’s pesticide far more heavily involved 
https://www.publiceye.ch/en/topics/pesticides/yavatmal-poisonings-syngentas-pesticide-far-more-heavily-involved 
 
・Public Eye, 2020-9-17 
Farmers’ poisoningswith the pesticide Polo, a product of Syngenta AG andSyngenta India Ltd 
  https://www.publiceye.ch/fileadmin/doc/Pestizide/20200917_ECCHR_PAN_PublicEye_OECD-COMPLAINT.pdf 
 
・Hindu Business Line, 2020-9-18 
‘Pesticide poisoning’: 3 Maharashtra farmers sue Syngenta in Basel 
https://www.thehindubusinessline.com/economy/agri-business/pesticide-poisoning-3-maharashtra-farmers-sue-syngenta-in-basel/article32636924.ece 
 
・PAN India, 2017-10 ※PAN Indiaの報告書 
Pesticide Poisonings in Yavatmal District in Maharashtra: ntold Realities 
http://www.pan-india.org/wp-content/uploads/2017/10/Yavatmal-Report_PAN-India_Oct-2017_web.pdf 
 
・Public Eye, 2018-9-18 
A Syngenta pesticide produced in Switzerland is implicated in deadly poisonings in India 
https://www.publiceye.ch/en/media/press-release/a_syngenta_pesticide_produced_in_switzerland_is_implicated_in_deadly_poisonings_in_india/ 
 
・Public Eye, 2018-9-21 ※Q&A 
Syngentas alternative facts 
https://www.publiceye.ch/de/news/detail/sygentas-alternative-facts 
 
日本におけるジアフェンチウロン剤の登録は1997年で、現在、シンジェンタの1種類だけが登録されている。2018年には30トン余りが輸入されている。この数年、徐々に増加している。日本の規制も緩いことは間違いない。 
 
(参考) 
● ジアフェンチウロン剤輸入推移 [t,Kl] 
  ------------------------------------------------ 
      輸入量*1 生産量*1 出荷量*1 出荷量*2 
  ------------------------------------------------ 
  2016年  15.5   13.0   24.3   12.15 
  2017年  27.4   23.8   29.7   14.85 
  2018年  31.2   31.5   30.5   15.25t 
  ------------------------------------------------ 
  *1 『農薬要覧 -2019-』 (11461) 製剤輸入量 
  *2 国立環境研究所 化学物質名称検索 原体換算量 
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/NOU00386 
 
※『農薬要覧 -2019-』によれば、ジアフェンチウロンの輸入は製剤だけである。輸入量と生産量の関係は、輸入量はバルクで輸入した製剤の量で、生産量は小分けにして個別の製品にしたものと思われる。ジアフェンチウロン剤は活性成分が50%であるため、国立環境研究所の化学物質名称検索のデータは原体に換算した50%の量となっている。なお、『農薬要覧 -2019-』のデータを見る限り、ジアフェンチウロン剤の輸出はない。 
 
● 作用機構(環境省資料より) 
ジアフェンチウロンは、チョウ目、半翅目、アザミウマ目害虫に対して効果を示すチオウレア系の殺虫剤であり、その作用機構は、生体内で脱硫され、その生成物であるカルボジイミド体がミトコンドリア内膜のタンパク質と特異的に結合し、呼吸阻害作用を生ずるものと考えられている。本邦での初回登録は1997年である。 
 
・環境省 
ジアフェンチウロン 
https://www.env.go.jp/water/sui-kaitei/kijun/rv/diafenthiuron.pdf 


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