2020年11月05日22時39分掲載  無料記事
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欧州

イタリア現代史ミステリー 第一弾「イラリア・アルピの死」(その8)〜チャオ!イタリア通信

(前回記事) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202010101155236→(イタリア国営放送局記者のイラリア・アルピの死から26年。彼女はなぜ死ななければなからなかったのか。事件の経過を振り返る) 
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 違法な有害廃棄物や放射性廃棄物の処理や武器売買に関しては、物的証拠はないものの、かなり真実味のある証言が残っている。マルコ・ザガネッリという獣医が1987年から1990年にソマリア滞在中にイタリア空軍の飛行機がボサソに武器を下ろしているのを見たと証言している。ザガネッリ氏はソマリアの大学に行った関係で、その後ソマリアやアフリカに滞在し、イタリアのソマリアへの経済援助が始まると、農業関係の援助活動に関わっていた。ボサソは港だけでなく、小型飛行機が着陸できる立地でもあったのだ。武器の輸送については、1993年から1994年にソマリアに滞在したイタリア軍の将軍カルミネ・フィオーリ氏も「内戦の時期、武器の輸送が船や小型飛行機によって、モガディショに運ばれていた」と証言している。さらに、ポリサリオ戦線(西サハラで独立国家建設を目指す武装、政治組織)が支配する地域でアメリカとイタリアの情報機関のために働いた人物、ジュリオ・ガレッリ氏も武器輸送があったことは認めている。 
 
 前述のザガネッリ氏は、1987年から1990年にソマリア滞在した際にマロッキーノ氏と知り合いになった。ザガネッリ氏は、イタリアからの廃棄物を処理する仕事に携わった際、マロッキーノ氏からソマリア側の人物を紹介してほしいと頼まれたと証言している。ソマリア側の人物とは”Mugne(ムグネ)”という人物で、”Shifco (シフコ)”の社長である。「シフコ」は、イタリア政府がソマリアへの経済援助として贈った、漁業のための船団がもとになっている会社である。バーレ政権当時、その船団は公共企業として政府により運営されていた。その経営に関わっていたのがオマール・ムグネ・サイード「ムグネ」なる人物である。彼は、1964年から1994年までイタリアに滞在しており、ソマリア人としてイタリアのパスポートを所有していた。バーレ政権の外務大臣とも知り合いで、バーレ政権が崩壊した後は、船団の一部を所有し、国際的な武器売買や廃棄物処理を行っていたとされる。ザガネッリ氏の証言では、マロッキーノ氏が廃棄物処理の仕事を依頼したイタリア側の人物は、この仕事を公式にソマリア政府に認可してもらうことを念頭に置いていたようである。つまり、ボサソやその地域に廃棄物を処理するために、何かしらの書類が存在していた可能性が高い。 
 
 書類と言えば、検察側の証言者であるスイス・ルガーノ市の弁護士事務所で働いていたフランチェスコ・エルモ氏は、この時期に廃棄物処理と武器売買に関連する書類が事務所で処理されていたと証言している。この書類によると、武器はソマリアだけでなく、エリトリア、イエメンやスーダンなどの地域、パレスチナ兵士、アイルランド兵士やバスク兵士にも送られていたという。また、エルモ氏の備忘録には、1994年に社会党系のグループがリビアの武器をソマリアに販売していたという記述と併せ、武器以外のものを輸送するルートも示されていた。ルガーノ市といえば、スイスではイタリア語圏の都市である。イタリア側からの人物が利用するには、都合のいい場所と言える。これらの書類が今もって存在しているとは考えにくいが、もし、イラリアがこれらの書類の一部を手にすることができたとしたらどうだろうか。 
 
 最後のソマリア滞在で、イラリアはボサソに6日間滞在した。そこで、ボサソの権力者スルタンのボゴール氏にインタビューをしている。ボゴール氏によると、ミランが撮影したこのインタビューは、2時間半から3時間も続いたという。撮影を途中で止めることもなく、ビデオカセットを3回取り換えることになった。しかし事件後、イタリアに届けられたミランのビデオカセットは6本で、その中でボゴール氏のインタビューはたったの20分だった。イラリアの友人のビデオ編集者は、インタビュービデオを見て、インタビューが途中で切られ、映像が変わっていることに気づく。ミランのビデオカセットは事件直後は20本あったが、イタリアに二人の所有物が到着した時には、6本になっていたのを覚えているだろうか。事件後に誰かがビデオカセットを盗んだ上で、中身をチェックしたのは明らかである。行方不明となったビデオの中身が、公表されては困るものであったことも明らかであろう。 
(次回に続く) 


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