2020年11月12日14時46分掲載  無料記事
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難民

日本の入国管理制度はどこへ向かうのか〜入管法改正案を考える〜

 国連人権理事会・恣意的拘禁作業部会から、日本政府に対して「日本の入国管理制度は国際人権規約に反する」旨の見解が示されたのが9月末。当初は現在開催されている臨時国会で入管法改正の議論がされると見られていたが,恣意的拘禁作業部会からの見解を受けてか、今臨時国会における改正案の提出は見送られる公算が大きくなった。 
 
 政府が押し進めようとしている改正入管法では、難民認定申請者の本国への送還を停止する「送還停止効」について、複数回申請者を対象に例外措置を設けることが検討されている。これはつまり、難民申請中であっても強制送還を可能とする制度に作り変えるということを意味する。これについて在日クルド人支援に携わる弁護士の一人は、「難民申請を複数回行っている者は、本国に帰国すると命が脅かされるという止むに止まれない事情がある者が多い。クルド人などがその典型で、強制送還されると取り返しのつかない事態になる」と警鐘を鳴らす。また、同じく在日クルド人支援に携わる関係者は、「日本の入管制度は国際標準ではない。当たり前のように人権を侵害する今の日本の制度を放置すれば、世界的な信頼を失う」と制度改善の必要性を訴える。 
 
 実際に人権侵害の当事者となった在日クルド人のデニズ氏は,10月に開催された記者会見で「入管は私たちのことを犯罪者であるかのように扱う」と改めてその窮状を語っている。デニズ氏が入管職員に制圧された際の状況については,YouTubeなどで動画も公開されているが,入管職員が複数人で一人の人間を押さえつける様子は,デニズ氏が主張するように犯罪者に対する扱いと大きな差はない。 
 
 改正入管法では,本国への送還を忌避した者に対する刑事罰の創設も検討されていることから,デニズ氏のように難民申請を複数回行う者については、刑法犯として扱われうる可能性がある。しかし、このような扱いは,難民申請者などへの入国拒否や強制送還を禁ずる「ノン・ルフールマン原則」に反し,難民条約でも禁止されているものである。同条約には日本も加入しているが,これまでクルド人が難民として認定された事例はなく,政府の難民認定への姿勢は消極的である。 
 
 今臨時国会での入管法改正案の提出が見送られたとしても,入管法の改正自体が取り止めとなったわけではなく,政府は,来年1月から開始される通常国会に向け,水面下での調整を進めているといわれている。改正案の中には「監理措置(仮称)」という新たな制度の導入も含まれており,この制度で,入管が許可した「監理人(仮称)」の監理下において,難民申請者などの日本での生活が一部容認されると見られている。監理人には,支援団体関係者,弁護士,知人などを想定しているようであるが,これについて支援団体関係者からは「難民などの在留外国人の立場に立ち,入管に物を申さなければいけない支援者が,『入管により認められた』監理人になれば,『入管のスパイなのではないか』と支援対象となる外国人から疑われかねない」と,制度の在り方を疑問視する声も上がっている。 
 
 日本はこれまで「全件収容主義」を掲げ,退去強制する理由があるすべての外国人を強制的に収容してきたが,世界的な人権意識の高まりもあり,このような人道上問題のある扱いに対して,国内外から少しずつ声が上がるようになってきた。政府は、このような声にどのように耳を傾け,入管法の改正をどう具体的に進めていくのか。今後の舵取りが注目される。 


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