2020年12月18日12時00分掲載  無料記事
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コラム

出版人・ジャーナリスト、大江正章さんの早すぎる死  

  NPOのアジア太平洋資料センター(PARC)の事務局の方から、共同代表をつとめていた大江正章さんが亡くなったとの知らせを昨日いただきました。アジア太平洋資料センター(PARC)とは、武藤一羊氏や「バナナと日本人」を書いた鶴見良行氏らが1970年代に市民が社会問題を調査研究する時代を拓こうとして設立したNGOであり、現在はNPO法人でもあります。ベトナム戦争への反対運動を原点に、南北問題や農薬などの問題を市民の自発的な調査を通して研究してきました。大江さんはその共同代表をつとめていたのですが、その傍らでコモンズという出版社の代表もつとめており、常に多忙な生活を送っていたようです。いずれもオルタナティブな世界を市民目線から探求するものであり、大江さんの場合は農業のあり方が核になっていたようです。2018年に大江さんが出版した「ソウルの市民民主主義 〜日本の政治を変えるために」の場合も、大江さんの関心の核には韓国の有機農業運動を核とした民主化運動があったのだろうと推測しています。その意味では農業のあり方を問い直すことは民主主義を求めることとまっすぐにつながっていたのだと思います。 
 
  私は、今にして思えば大江さんの晩年になるでしょうが、「甘いバナナの苦い現実」というDVDの制作でご一緒させていただきました。フィリピンのバナナの島とも言われているミンダナオ島のバナナ農民たちの生活の実態を記録したものです。多国籍大企業のもとで農薬漬けになっている問題が核になっています。そこには消費者でもある日本人が関係しているわけです。まさに大江さんにとっては中心的なテーマだったと思います。アジア太平洋資料センター(PARC)の設立者の一人・鶴見良行氏の研究テーマを今日も継承し、今後も続けていくというPARCの意志を示すものでもあったと思います。実際、様々な専門家がこのDVD作りに参加し、多様な視点が注入されています。そして、今年の秋、同タイトルでDVDの監修をつとめた立教大学教授の石井正子氏が中心になって書いた「甘いバナナの苦い現実」という活字の本も出版されました。出版したのは大江さんのコモンズです。この本はまさに「バナナと日本人」から約40年後の現実を描いております。 
 
  大江さんの死は肺癌によるものだったと聞きましたが、まさかこんなに早く亡くなられるとは思ってみませんでした、享年63.謹んでご冥福をお祈りします。 
 
 
 
村上良太 


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