2021年01月11日22時54分掲載  無料記事
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長沼毅著 「生命とは何だろう?」  科学の本はこんなにも面白くなっていた!

  この正月休み、私は理系の高校から大学一般教養レベルの入門書や参考書の類を集中的に何冊か読みました。最近、私の周辺では生涯学習ということで大学に再入学したりする人が増えています。そういう人に刺激されて、私もすっかりさび付いてしまった理系時代に学んだことの何分の一かでも取り戻そうと思ったのです。長沼毅著「生命とは何だろう?」(集英社インターナショナル)は最初に手に取った一連の本でしたが、大当たり。とにかく、こんなに面白い科学の本を読んだことはありません。 
 
  何が面白いかというと、私が学生だった30〜40年前と比べて、科学の中身がはるかに総合的になっていたのです。生命の起源を科学史を交えつつ概説する本書は、生命だからといって生物学や化学だけでなく、まずは天文学が前面に出てきて、生命の起源が宇宙の構造といかに深く根源的に結びついているか、ということから、さらには地球環境の中の大気の組成の変化や、生物の進化、さらには大地の進化も語られます。昔にように化学は化学、物理は物理みたいな分け方が不可能なほど、この本では生命を考える時、いろんな分野の知見が動員されています。そして、それら1つ1つの説明がわかりやすく、しかも奥が深い。知らなかったことが満載でした。 
 
  著者は南極や北極、深海などの極限で生命の本質を見つめる仕事をしてきたとされ、その意味で、生命の起源を語るには適任者でしょうし、そうした個性豊かな好奇心がフルに発揮されています。私は無知でしたが、TVなどでもよく登場する方だと今更ながら知りました。 
 
  考えてみると、30年〜40年もたつと、科学は驚くほど進歩して、その知見も比較にならぬほど積み上げられているはず。何十年も前の学生時代のイメージで科学を考えること自体もうナンセンスなのです。そのことを考えると、高校や大学で学んだ知識をそのまま放置していたら、まったくさびついているばかりか、化石と化していることは間違いありません。そういう意味では仮に75歳まで働くとすると、このあたりで知識を刷新しておかないと、残りの後半戦の20年間が取り返しがつかないことになってしまう気がします。それは一個人の人生の歩みというミクロなこととは別に、今まさに地球環境の危機が訪れているわけで、それをどう見るか、どう考えるか、どう自分は行動するか、という時に過去の46億年あるいは何137億年の宇宙の歴史をつかんでおくことは無駄ではないばかりか、今後の思考の肥やしになると思えるのです。 
 
  今から四半世紀ほど前は理科系の学生が減って、理系の危機と言われていたのを覚えていますが、本書を読むと、こんなにも面白い科学の本が書かれているのですから、学生たちが面白いと思っていないはずはないと感じました。 


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