2021年01月19日23時34分掲載  無料記事
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コラム

俳優のジャン=ピエール・バクリさんが亡くなる

  ついこの間、フランスの俳優のクロード・ブラッスールさんが亡くなったことを書いたと思ったら、残念なことに1か月とたたないうちに、今度はジャン=ピエール・バクリさんが亡くなった。ガンによる死だという。享年69.フランス人の友人や知人たちの多くが悲しみをいろんな形で表している。バクリさんもブラッスールさんと似て、2枚目俳優ではなく、3枚目の俳優だった。バクリさんには脚本を一緒に書く奥さんで、女優で、監督でもあるアニエス・ジャウイさんだ。この二人がコンビで脚本を書いた「ムッシュ・カステラの恋」(‘Le gout des autres‘、2000年 )は本当に素晴らしかった。二人は共演し、監督はジャウイさんがつとめた。テーマの見つけ方、人間を描くときの深さなど、心に焼き付く作品で、私は10回以上見た。たたき上げで芸術とは無縁に見える、あるいは無教養に見える社長と、英語の個人レッスンに訪れた舞台女優との間の恋を描く物語で、住む世界が一見遠く離れているかに見えた二人が次第に距離を近づけていく物語は力があった。 
 
  バクリさんは美男子とは程遠いが、この映画で主演を見事に果たし、多くの人を感動させた。私がバクリさんを初めて映画で見たのはジャン=シャルル・タケラ監督の「C階段」(1984)という映画だった。これはパリの1つのアパートに住む何人かの男女のそれぞれの物語を描く、「グランドホテル」形式の映画だが、まだ若い日のバクリさんも出演している。この映画でも才知に富む美男子役の主演俳優とは対照的な、パッとしない役どころだった。「C階段」では、厳しい現実の中、様々な住人たちの人間模様が温かい目線で描かれていた。先述の才知に富む美男子の男もまた、深い悩みを抱えて懊悩していることが明らかになり、みんなが支え合う形の人間賛歌で終わる。80年代半ばの映画ながら、1930年代のフランス映画の黄金時代を思い出させた。 
 
  フランスの人たちがバクリさんの死をこんなにも悲しんでいるのは、バクリさんが俳優として、そして映画人として作ってきた世界が素晴らしいものだったからに他ならない。冥福を祈ります。 
 
 
※アニエス・ジャウイさんとジャン=ピエール・バクリさんの出演するTV番組(インタビュー番組) 
https://www.youtube.com/watch?v=Ur9YkT_uVGE 
 
 
■フランスの女性映画監督たち 〜時代の転機を先取りしてヒット作を作ってきた〜 
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