2021年02月04日23時52分掲載  無料記事
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芳沢光雄著「新体系 高校数学の教科書(上下)」

  数学者の芳沢光雄氏が講談社のブルーバックスというシリーズから出している「新体系 高校数学の教科書(上下)」は文系に進んで、数学と縁遠くなった社会人がもう一度、高校の数学全体を復習するにはもってこいの2巻本です。本書が初めて出版されたのは2010年だから、およそ10年前にあたる。上下巻の構成は以下のようになっています。 
 
上巻 
1章 数と式 
2章 方程式・不等式と論理 
3章 平面図形と関数 
4章 順列・組み合わせと数列 
5章 指数・対数と数列 
6章 三角関数と複素数平面 
補章 整数と数学的帰納法の応用 
 
下巻 
7章 ベクトル・行列と図形 
8章 極限 
9章 微分とその応用 
10章 積分とその応用 
11章 確率分布と統計 
 
  前に触れた2005年に「天文学入門 星・銀河とわたしたち」を書いた天文学者たちは学校教育の教科書に対して不満というより、むしろ危機感を抱いたことが執筆の動機だったとされますが、芳沢氏もまた、現状のアラカルト方式になって裁断されている高校の数学のあり方に強い危機感を抱いたことが執筆の動機だったとしています。 
 
「検定教科書には『面白い生きた題材』がほとんどなく、また、細分化されすぎて高校数学の全体像が全く見えないのである」 
 
  確かに、今日の高校数学は書店に参考書を見に行くと、数学気ら掘△気蕕A、B、Cと分類されていて、部外者からすると、どういうことか全貌がわかりにくくなっています。芳沢氏はこのアラカルト方式の分断を避け、互いの関連を意識しながら、全体像が読者につかめるように構成をしたと言っています。実際に、本書を手にすると、問題が現実の中から取られていて、抽象的な世界だけでなく、現実にどう活用できるのかが見えることが、大きな魅力になっています。たとえば三角関数であれば、空港上空を角度3度で飛ぶ飛行機は周辺の建物から何メートル離れて飛んでいるか、といったことを計算させられます。あるいは、等差数列の章では、大作小説を15日間、一定のページ数だけ読む量を毎日増やしながら読み続けると、全部を読み終えられるかという問いを出しています。 
 
  日常との接点を意識化して現実との関連を視野に入れながら数学を考える方法は〜これが本書の最大の魅力になっていますが〜私にはデジャヴュの感覚がありました。伊藤元重著「入門経済学」を想起したことです。1988年に出版された大学の教科書「入門経済学」は、まさに現実生活と経済学の関係にたっぷり記述を割いたことで、かつては無味乾燥だった経済学のテキストが非常に面白いものに化けたのです。芳沢氏の「新体系 高校数学の教科書」もまた、それによく似ていて、画期的な本であることを確信しました。 
 
 2005年の「天文学入門」、さらに2010年の「新体系 高校数学の教科書」ともに、理系の参考書が飛躍的に面白くなっていったことをうかがわせます。そして、それらの裏側には強い危機感があったこともわかります。私が伊藤元重氏の「入門 経済学」で経済学を勉強するきっかけになったのと同様に、「天文学入門」や「新体系 高校数学の教科書」は、学生時代に不幸な出会いをしてしまった大人たちにとって、もう一度、やり直しのきっかけを与えてくれる本になりえると思います。 
 
 
■伊藤元重著「入門 経済学」(日本評論社) 
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