2021年02月23日00時44分掲載  無料記事
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欧州

コンテからドラギへ〜チャオ!イタリア通信

 2月13日、新しい首相マリオ・ドラギ氏が就任した。テレビでその就任式を見たが、実はイタリアに住んで14年目になるが首相就任式の中継を見るのは初めてだった。場所は、いわゆる日本の首相官邸のようなローマ市にあるキージ宮殿。首相や閣僚が仕事をする場所だ。そこで、前首相のジュゼッペ・コンテ氏からドラギ氏に小さな鐘が渡され、コンテ氏は宮殿から去っていった。宮殿の中庭には赤いカーペットが敷かれ、コンテ氏はそこを歩いていく。そこには昔ながらの兵隊服を来た近衛兵のような人たちが並んでいた。その一人がコンテ首相を宮殿の入口まで付き添っていく。コンテ氏が立ち去る前に、宮殿の窓から職員たちが拍手を送る。コンテ氏はそれに応え、皆に手を振って、車に乗って去っていった。宮殿の外でも、コンテ氏を見ようと集まっている人垣がいた。(コロナ禍では、人が集まることは禁止されているのだが)この人垣からも、コンテ氏に声がかかっていた。 
 
 私の夫曰く、「こんな風に、拍手で見送られるのを見るのは初めてだ」とのこと。惜しまれて首相を退任したのは、明白だ。前首相のレンツィ氏が率いる「イタリア・ヴィーヴァ」の閣僚が辞任を表明したための退任劇。しかしながら、そこで総選挙という道はあり得なかった。以前民主党の書記長を務めたワルテル・ヴェルトローニ氏はテレビ番組で「学校が閉鎖されているのに、総選挙は行うというのはあり得ない」と発言。確かに、コロナのため幼稚園、小学校は開放されているが、中学2年生以上はオンライン授業を強いられている。人が集まるのを避けるため公園で遊ぶのも禁止、劇場や映画館も閉鎖、レストラン、バール、ジェラート屋もテイクアウトのみ。子どもたちは学校と家の往復のみ。オンライン授業の子たちは家にいるだけ。総選挙を行えば、投票所となる地域の学校は開けることになるが、授業のためではなく投票のため。投票は2日間だけだが、本来の学校の役割は何なのか。腑に落ちないのは、私だけではないだろう。 
 
 コンテ氏は2018年6月に就任して、2021年2月に退任するまで、結局コロナ対策に追われた首相だった。汚職や私利私欲に走ったベルルスコーニ氏に変わり、若い風を吹き込んだレンツィ氏に失望した市民が新しい政党「五つ星運動」に変化を求め、その「五つ星運動」の主導で生まれたコンテ内閣だったが、「五つ星運動」が反対の立場にある「同盟」と組閣したのは無理がありすぎた。今回、ドラギ首相が信任されたことにより、「五つ星運動」の内部でドラギ首相へ賛成か反対かの投票が行われたが、結果は賛成59.3%、反対40.7%となった。圧倒的賛成という訳ではなく、「五つ星運動」の国会議員の中でも戸惑いが見られ、意見が分かれている。国会でのドラギ内閣への信任、不信任投票では、「五つ星運動」内部でドラギ首相賛成が決まったにもかかわらず、不信任に投票した議員もいたからだ。彼らの言い分としては、「同盟」や「フォルツァ・イタリア」の閣僚がいるのに、信任投票はできないというものである。「五つ星運動」が生まれた経緯を考えれば、その論理は納得だ。ベルルスコーニ氏が汚職にまみれ、私利私欲から勝手に法律を変えて、それに反対するような形で生まれた「五つ星運動」だから、この基本路線を守れなければ、結局今までの政党と同じで、政権に食い込みたいだけの市民からかけ離れた政党になり下がるのは目に見える。 
 
 「同盟」と組閣した時点で、私はすでに「五つ星運動」に失望した。政党であるから、政権を取り、政策を実現していくというのは理解できるのだが、結局誰にどこに依存していくのか、その相手は「同盟」ではなく、市民であるべきだったのではないか。今後、「五つ星運動」の中から分かれて新しい勢力が生まれてくる可能性もありそうだ。 


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