2021年02月25日21時51分掲載  無料記事
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検証・メディア

日韓関係 問題は司法に対する認識の違いではなく、人権に対する認識の違いではないか  Bark at Illusions

 毎日新聞論説委員・澤田克己(毎日21/2/18)は、「[司法判断と日韓関係]認識差、冷静に直視を」と題する論説記事で、日本政府に対して大日本帝国時代の性奴隷被害者への賠償を命じた今年1月のソウル中央地裁の判決が、「国家は他国の裁判所に裁かれない」という「主権免除」の「原則」を認めなかったことに「日本は強く反発している」と述べて、韓国の司法判断を問題視。そして背景には「司法が果たすべき役割についての両国の認識の違いがある」と分析し、その起点は「1987年の民主化に伴う韓国社会の意識変化にある」と指摘する。 
 
 「民主化でいきなり『裁判官の独立』と言われて戸惑った」という韓国の元判事の言葉も紹介しながら、澤田克己は、独裁政権下で「人権無視の捜査と裁判が横行」していた韓国司法は、民主化で、「国民からの不信を意識させられ」たと説明する。その結果、「時に世論を意識しすぎだと批判」されるまでになった韓国司法は、「徴用工問題」は日韓請求権協定で「解決済み」というそれまでの日韓「両国政府の共通見解」も「あっさりと否定」し、「徴用工」訴訟で原告は協定の「対象外」だと判断するなど、「物議をかもす」司法判断が相次ぐようになったのだと言う。 
 そして澤田克己は、「司法判断は時代に応じて変わりうる」が、「韓国の変化はあまりにも激し」く、「韓国司法の判断が日韓関係の根底を揺るがしている」と述べて、韓国政府に対して「司法判断を尊重しつつも外交関係を破綻させないための国内対応を探る」よう求めている。 
 
 澤田克己は司法の役割についての「両国の認識の違い」を問題にしながら、日本の司法について何一つ説明していない。日本の司法の方が正常だとでも考えているのだろうが、日本の司法が「統治行為論」や「第三者行為論」などの詭弁を用いて、米軍駐留についての司法判断を避けたり米軍機の騒音訴訟で飛行差し止め請求を却下したり、あるいは安保法制について憲法判断を回避するなど、独立した司法としての役割を放棄していることを考えると、「司法の役割」について言うなら、日本は韓国を見習うべきだろう。 
 
 しかし大日本帝国の強制労働者に関する問題は、日韓の「司法」についての「認識の違い」よりも、人権に対する日韓の「認識の違い」を問題にすべきだ。今問題になっているのは、日本の植民地政策による被害者の人権救済の問題だということを、日本社会は認識する必要がある。 
 「慰安婦」や「徴用工」と呼ばれる強制労働被害者は、日韓国交正常化後も、公的な謝罪も賠償も受けずに置き去りにされてきた。日韓請求権協定で問題が「解決済み」というのは、国家間の取り決めであって、国家間の条約で個人の請求権まで消滅させることはできないというのが国際的な共通認識である。日韓請求権協定で個人による請求権は消滅していないということは、日本政府も認めていることだ(例えば、1991年8月27日の参議院予算委員会での外務省条約局長・柳井俊二の答弁)。澤田克己が「慣習国際法の原則」だと説明する「主権免除」は、国家の主権的行為のみに適用され、それ以外の私法的・商業的な行為については免除を認めないというのが現在の国際社会では一般的になっている。それは日本の最高裁判所も同様だ(最高裁第二小法廷、06//7/21)。 
 
 つまり人道的にも法的にも、大日本帝国の強制労働者の救済問題は解決していない。 
澤田克己は韓国政府に対して日韓関係改善のための対応を求める一方で、日本政府に対しては「韓国側をいたずらに突き放し、対話の道を閉ざす姿勢は避けなければいけない」と述べているだけだが、この問題は加害者である日本政府が解決しなければならない問題だ。 
 毎日新聞(21/2/17)も伝えているように、今月16日に韓国政府に対して国際司法裁判所(ICJ)への提訴を要請したことを明らかにした性奴隷被害者のイ・ヨンスさんは、 
 
「お金をくれというのではない。完全な(事実)認定と謝罪を受ける必要がある」 
 
と述べている。 
 日本政府が誠意ある謝罪をすれば、日韓関係改善に向けて道が開けるのであり、それなしでは問題は解決しない。 
 
 過去の暴力や人権侵害の問題を解決するためには、加害者が被害者の納得のいくまで謝罪し、被害者が真に救済されなければならない。 
 これは文化の違いに関係なく、万国共通のことではないだろうか。 


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