2021年04月20日12時37分掲載  無料記事
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環境

日本政府は気候正義に基づき気候変動目標・対策の強化と実施を〜NGO団体が緊急声明を発表〜

4月20日、国際環境NGO FoE Japanは日本政府に対して、国内における温室効果ガスの排出削減努力と抜本的な社会変革を行うことなどを求める声明〈日本政府は気候正義に基づき気候変動目標・対策の強化と実施を〉を発表。同声明は主に6つの観点から、日本政府に対して早急な気候変動対策を実施するよう求める内容となっている。 
 
以下、声明全文。(FoE ホームページから) 
https://www.foejapan.org/climate/policy/pdf/210420.pdf 
 
2021年4月22日に、米国バイデン大統領が主催する気候変動に関するリーダーズサミットに日本の菅義偉首相が招待されています。サミットでは、気候変動の緊急性や対策の重要性について、各国の気候変動目標の強化についても議論される見通しです1。 
 菅首相は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル(炭素中立)」を宣言していますが、コストやリスクの大きい原子力の活用の他、CCUS(炭素回収貯留・利用)、アンモニアや水素混焼を利用した化石燃料の利用継続が議論されています。 
 地球の平均気温は産業革命前とくらべすでに約1℃上昇しており、その影響は世界各地で顕著になっています。日本国内でも気候変動により激化する災害の影響で、住まいや仕事を失う人々や、その後の回復がままならない世帯も増えています。そして何より、これまでほとんど温室効果ガスを排出する生活をしてこなかった途上国の貧困層が最も深刻な影響を受けています。 
 日本は気候変動への歴史的責任の大きな国として、「気候正義ーClimate Justice」の考え方に基づき、国内での削減努力と抜本的な社会変革を行うことが求められます。 
 
気候正義の視点を政策に反映し、責任に見合った削減目標設定を 
 少数の裕福な国や人々、企業がエネルギーを大量に消費し、環境や先住民族、社会的に弱い立場の人々を蔑ろにした経済発展を推し進めてきたことで、気候危機が深刻化しています。 
 気候変動で異常気象が多発し、とくに農業や漁業等、天候や気象災害の影響を受けやすい生計手段に依存して生活する人が多い途上国では、気候変動による被害にすでに苦しんできました。また災害に対する備えが十分ではなく、ガバナンスも弱い地域では、ますます貧困化が進んでしまっています。今後も気候危機が進めば、その損失と被害はさらに大きくなると予測されています。 
 気候正義(Climate Justice)とは、先進国に暮らす人々が化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした気候変動への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生物多様性の尊さを重視した取り組みを行うことによって、不公平さを正していこうという考え方です。つまり、化石燃料を大量に消費して今日の富を築いたという歴史的な責任の大きさに見合った削減努力と、人権や公平性を重視した対策や途上国支援が求められます。 
 日本政府が現在検討している削減目標は「2030年までに2013年比で40%台削減」と報道されており2、従来から見直されたものの先進国の責任に見合うものではありません。シンクタンク「クライメート・アクション・トラッカー」は、パリ協定の1.5℃目標の達成のためには、日本は国内のみで2013年比60%以上の削減が必要だと試算しています3。さらに、歴史的責任を加えた「フェアシェア」の観点でみれば日本は本来、2025年頃には国内排出量をゼロにしなければならないほど、先進国としての責任は大きいことを示しています4。 
 行動が遅れれば遅れるほど、今後の削減が難しくなってきます。また、温室効果ガス排出削減(緩和)努力だけでなく、すでに日本国内で生じている気候変動被害への対応も急務です。インフラ整備や各自治体の防災計画や都市計画、さまざまな側面に気候変動対策の視点が盛り込まれることが必要です。 
 
排出削減に繋がらず、新たな問題をも生み出す「誤った気候変動対策」や、行動を先延ばしにするだけの「カーボンニュートラル」は否定されるべき 
 菅首相がネットゼロ宣言(2050年までに実質排出量ゼロを達成)を行った所信表明演説中、「安全性を重視して原子力政策を推進」と強調されました。しかしリスクが大きく、コストも不確実性も高い原子力発電を、気候変動対策として位置付けるべきではありません。 
 また、バイオマス発電についても「炭素中立」とされていますが、これは国際ルールの抜け穴によるもので、輸入バイオマスを燃料とすれば石炭火力に比べるほどの排出量となります。現在、海外からのバイオマス用燃料の輸入が急増していますが、燃料生産のために森林伐採や泥炭地開発などを伴うことも多く、結果的に大量の温室効果ガスを排出しています。 また、輸送においても大量の温室効果ガスの排出を伴います。現在の炭素勘定のルールでは、燃料生産地が海外の場合、こうした生産地や国際輸送における温室効果ガスの排出は日本の排出量としては計上されません。こうしたバイオマス発電を専焼・混焼に関わらず推進するべきではありません。 
 原発や化石燃料に代わり、再生可能エネルギーが期待されています。しかし、再生可能エネルギーも開発の仕方で、地元社会や生態系に大きな悪影響をもたらしかねません。再エネ事業の推進にあたっては、地域住民に対する事前の十分な情報公開と協議に基づく合意が大前提であり、あくまでも地域のニーズに沿ったものでなくてはなりません。 
 再エネや電気自動車(EV)等の導入によるバッテリーの需要増加で、鉱物資源を巡る乱開発も懸念されます。日本は鉱物資源の大部分を海外からの輸入に依存していますが、その開発現場では、先住民族が先祖伝来の土地を奪われ、伝統的な生活・文化を続けられなくなったり、生物多様性の豊かな森林が伐採されてきました。気候変動対策を進める中で、こうした鉱山開発の影響を受ける先住民族等の権利が軽視されたり、生態系が破壊されたりしてはなりません。 
 さらに、日本政府は「カーボンニュートラル」を目標に掲げていますが、海外との排出量取引やバイオマス発電など様々な方法で排出を見かけ上相殺(オフセット)し、実際には多くの排出を許してしまうということにつながります。いまだに技術が確立せず実用化・商用化する見込みのない炭素回収貯留(CCS)や化石燃料由来の水素・アンモニア、次世代原子炉などの技術「イノベーション」を期待し、気候変動対策の中に位置づけています。今現在実用化がなされていない技術や、排出削減にすらならずむしろ新たな社会・環境問題を生み出してしまうような「誤った解決策」に依存することない、抜本的なエネルギー消費の削減や持続可能な再エネへのシフト、生態系の保全を中心とした気候変動対策を掲げなければなりません。 
 
石炭火力発電の全廃、化石燃料依存からの脱却に向けた道筋を示すべき 
 温室効果ガスの排出削減のため、排出の多いエネルギーセクター、とくに電力部門の脱炭素化は急務です。パリ協定の1.5℃目標達成のためには、OECD諸国で2030年までに全ての石炭火力発電所の廃止、そして途上国でも2040年までには廃止する必要があります。 
 4月9日に昨年7月の梶山大臣の呼びかけで始まった石炭火力ワーキンググループの中間取りまとめが発表されました。しかしその内容には、2030年に石炭火力ゼロはおろか、2030年の主力電源として発電に占める石炭火力を26%にすることを前提に、「高効率」のものは維持拡大し、「非効率」な発電所もバイオマス混焼などを用いて延命させる策が盛り込まれています。バイオマスやアンモニアを燃料に混ぜることで、CO2を実際に排出しているのにもかかわらず、削減しているかのようにみせかけ、2030年以降も動かせるような制度設計を進めています。石炭火力発電は「高効率」のものでも、化石燃料の中で最も多くの温室効果ガスを排出します。日本政府は2030年までに全ての石炭火力発電所を廃止する方向性とロードマップを打ち出すべきです。 
 また、2050年の社会の脱炭素化に向けて、石炭以外の化石燃料についてのフェーズアウトも方針として明確に掲げ、その道筋を示すべきです。 
 
気候正義と人権の視点に基づいた途上国「支援」を 
 日本政府はこれまで、「高効率」で「質の高い」日本の石炭火力発電や原発などのインフラ輸出を国策で推進してきました。日本政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」(2019年6月閣議決定)で、「海外におけるエネルギーインフラ輸出を、パリ協定の長期目標と整合的に世界のCO2排出削減に貢献するために推進していく」と定めています。パリ協定の長期目標を達成するためには、途上国であっても2040年までに石炭火力発電所の運転を完全に停止する必要があるため、新規の石炭火力発電所の建設は、たとえ次世代型の高効率技術を用いる場合であっても、パリ協定との整合性がとれません。 
 日本政府は、2020年7月に石炭火力発電所の輸出についてはを原則として公的支援は行わない方針を示しました。しかし、この方針も抜け穴を残したままで、実際2020年末にはベトナム・ブンアン2石炭火力発電事業への国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)を通じた公的支援を決定しています。また、国際協力機構(JICA)も現在インドネシア・インドラマユ石炭火力発電事業とバングラデシュ・マタバリ2石炭火力発電事業の建設に向けた支援を続けています。前述の通り、石炭火力発電事業については公的支援を続ける妥当性はもはやありませんが、それにもかかわらず日本が支援するあらゆる大規模インフラ事業では、必要性、妥当性、経済性、環境社会配慮の適切性などの検討が不十分である案件が多く見られます。 
 石炭火力発電以外の事業でも人権や地元の声を無視した「開発」が、支援の名の下に行われています。気候正義の観点にたち、途上国支援は、環境や人権を重視し、地域住民のニーズに基づく持続可能な再エネへのシフトや省エネなどの分野で行うべきです。 
 
気候変動・エネルギー政策策定のプロセスを民主的に行うべき 
 現在、地球温暖化対策計画の見直しとエネルギー基本計画の見直しが行われています。産業界に関係する委員が大勢を占める審議会での議論と非常に限定されたパブリックコメントでは、民主的なプロセスと言うことはできません。 
 気候危機の現実を目の当たりにし、若い世代を含む多くの市民が、日本の気候変動・エネルギー政策に大きな関心を寄せています。こうした市民団体や環境団体のヒアリングや公聴会を実施すべきです。またすでに370以上の自治体が「ゼロカーボンシティ宣言」をし、国に先駆けて野心的な政策を打ち出しているところもあります5。これらの市民や自治体に十分な情報提供を行い、意思決定の重要なステークホルダーとして位置づけ、ともに具体策をつくっていくべきです。 
 
コロナ禍も踏まえた抜本的な社会構造の転換(システム・チェンジ)を図るべき 
 気候正義の視点を重視した削減強化は、社会構造の抜本的な変革なしには達成できません。FoE Japanが考える気候危機への解決策は、多国籍企業等の利益や大量生産・大量消費の経済を前提とする社会から、自然や自然と共に生きる人々を中心にすえた持続可能で民主的な社会への抜本的な変革(システム・チェンジ)です。 
 地球に生きるすべての人が、お互いに配慮しあい、ともに豊かに生きることができる社会をめざすべきです。資源が有限であることを考えれば、消費を促進する経済ではなく、循環を基礎としたものに変えていく必要があります。エネルギー、資源、製品など、全体的な需要を抑えるための対策が必要です。 
 大幅な温室効果ガスの削減に加え、今ある社会の格差・不平等を解決しない限り、気候正義は達成されません。コロナ禍により、日本国内でも格差が広がっています。また南北の格差も広がる一方です。お金のある人だけが気候危機やコロナ禍に対する防護策を講じることができて、それ以外の人が取り残されるような社会であってはなりません。 
 産業構造の転換や社会構造の転換のためには多くの取り組みや努力が必要です。その転換に誰も取り残されないような、トランジションプランを策定していく必要があります。 
 
以上 
 
脚注 
1. White House “President Biden Invites 40 World Leaders to Leaders Summit on Climate” https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2021/03/26/president-biden-invites-40-world-leaders-to-leaders-summit-on-climate/ 2021年3月26日 
2. 共同通信「30年削減目標、40%台で調整温室効果ガス、35〜45%案も」https://this.kiji.is/752507850379165696?c=39546741839462401 2021年4月7日 
3. Climate Action Tracker “1.5°C-consistent benchmarks for enhancing Japan’s 2030 climate target” https://climateactiontracker.org/documents/841/2021_03_CAT_1.5C-consistent_benchmarks_Japan_NDC.pdf 2021年3月 
4. フェアシェア(公正な分担)とは、FoEインターナショナル含む気候正義を求める市民団体がストックホルム環境研究所の協力で開発した、気候正義に重点をおいた国別の排出削減目標を図る指標。産業革命以降の歴史的責任(累積排出量)と対策能力(経済力)を基に各国責任の公正なレベルを算出しています。https://climateequityreference.org/ 
5. 環境省「地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況2021年4月16日時点」https://www.env.go.jp/policy/zerocarbon.html 2021年4月19日閲覧 


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