2021年05月20日22時56分掲載  無料記事
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難民

入管法改正案の採決見送られる 事実上の廃案に

 今月18日、今国会に提出されていた入管法改正案について、政府が成立を見送る方針を示した。今年3月に名古屋入管でスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件に関して、野党が真相解明を求める中、「内閣支持率のこれ以上の低下は避けられない」と、与党が判断したものと見られる。 
 
 本改正案について、政府は改正の目的を「入管施設における長期収容の解消」と説明してきた。しかし同案は、難民申請を3回以上行った者への強制送還を可能にし、これを拒む者に対して刑事罰を科することを認めるなど、送還を前提にして制度設計がされており、適用対象となる在日外国人や支援団体などからは、「難民条約に反する」「人権侵害である」と反発の声が上がっていた。国連機関からも同様の指摘がされ、この声が、野党議員の他、一般市民や著名人にまで広がり、今回の成立見送りに繋がることとなった。 
 
 
▽ 成立見送りは歓迎するが 
 今国会での法案成立見送りを受け、国会前でシットインを継続してきた市民団体・移住者と連帯する全国ネットワークや各種集会などで同改正案の問題点を指摘してきた全国難民弁護団連絡会議などから、声明が公表された。いずれの声明も、事実上の廃案を歓迎しつつ、入管行政の在り方そのものに疑問を投げ掛けている。 
※ 移住連声明https://migrants.jp/news/voice/20210519.html ※全難連声明http://www.jlnr.jp/jlnr/?p=5084 現行の入管法については、その運用が恣意的であることから、多方面から「収容の可否を司法機関にゆだねるべき」との指摘がされてきた。また、収容期間にも上限が設けられておらず、この点も、「国際標準に沿っていない」との意見が挙がっている。このような制度の在り方そのものがウィシュマさんの死亡に繋がったのだとすれば、制度を根本から変えなければ同様の事案を発生させかねない。 
 
 
▽ ブラックボックス化する収容施設 
 同日、ウィシュマさんのご遺族が上川陽子法相や出入国在留管理庁の佐々木聖子長官と面談をしている。その際、ご遺族は「入管施設内でのウィシュマさんへの処遇を記録したビデオの開示」を求めたが、上川法相は改めてそれを拒んだという。このような対応に支援団体関係者からは「不都合な事実があるから、開示ができないに違いない」と、疑念の声が挙がる。 
 
 実際、入管施設内では毎年のように死亡事案が発生している。2019年に長崎の大村入管でナイジェリア人男性が亡くなった事案などは記憶に新しく、その際も入管は事件の真相を中々公表しようとしなかった。ある支援団体関係者は、「そもそも入管は被収容者の状況をしっかり把握できていない。だから、真相を公表するのにも時間がかかる。そのような状況下で、収容をすることそのものが人権侵害だと気づくべきだ」と語る。不適切な管理体制の下で、何が起こったかすら把握していないのだとすれば、それは正にブラックボックス状態にあるといえる。このような、不都合な収容体制にあることも含めて、入管は公表したくないのかもしれない。 
 
 
▽ 人権意識の低い入管行政にノー 
 今回の入管法改正案に対し、これだけ多くの人々から声が上がったことは、政府にとって予想外であったに違いない。世論の反発を予想できたのであれば、法案の提出自体がされないか、もう少し早い段階で法案が取り下げられたはずである。くしくも1年前の5月18日には、検察庁法改正案の成立が見送られており、今回の入管法改正案もそれと全く同じ流れを辿ることとなった。強引な手法で法案を通そうとすれば、世論が納得せず、その声がSNSやYouTubeなどの様々な媒体から発信されるような時代である。国民総発信時代において、政治主導を履き違え、国民を無視し続けるようであれば、その反動は顕著に現れる。 
 
 今回の法案の見送りで、人権意識の低い入管行政にノーが突きつけられたことになるが、この国民の声を政府が今後どこまで行政に反映させるかは不透明だ。政府が恣意的ではない、国際基準に沿った制度を再構築するまで、声を上げ続けなければ変わらないのであろう。小さな変化であっても、その積み重ねが大きな変化に繋がる。今回の改正案見送りは、その変化の第一歩である。 


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