2021年07月01日12時28分掲載  無料記事
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欧州

ゲイプライドパレード、「ザン法案」に思うこと〜チャオ!イタリア通信  

 6月26日は世界各地で「ゲイ・プライドパレード」が開催され、ここイタリアでもミラノとローマで多くの若者たちが集まり、盛大に行われた。 
 現在、イタリアではLGTB(性的少数者)に対する差別や差別に基づいた暴力を罰する法律案「ザン法案」が議論を呼んでいる。ザン法案は、昨年11月に下院で可決されたが、その後上院では議論の対象にもなりつつも、そのまま放置されている状態だ。しかも、「同盟」と「フォルツァ・イタリア」の2党が、法案への訂正案を出しており、そのままの形で可決されるのかも議論の的だ。 
 
 ちなみに、「ザン法案」とは、下院議員であるアレッサンドロ・ザン氏が作成した法案ということで、「ザン法案」と呼ばれている。ザン氏は自身がホモセクシュアルで、イタリアで初めて事実婚を役所で登録したことでも知られている。ザン氏の場合、事実婚とは同性間による事実婚で、それもイタリアで初めてのことだった。 
 
 ここ数日の話題は、バチカンが非公式ではあるが「ザン法案」に対する抗議の文書をイタリア政府に送ったことで、特に若者の中には怒りと失望が広まっている。というのも、現在のフランシスコ法皇は同性愛者に対する寛容な発言をしており、多くの人たちに「開かれた教会」「開かれたバチカン」という好印象を与えてきたからだ。 
 ある神学者は新聞のインタビューで、こうした法皇と法皇を取り巻く人たちとの対立を懸念している。結局、フランシスコ法皇は在位して8年間、バチカン市国のいわゆる「官僚」「役人」たちを変えることはできなかったということを示したことになると。この文書をバチカン市国のイタリア大使館に届けたのは、ポール・ギャラガーというバチカン市国の外務大臣を務める、高位聖職者である。 
 
 私はイタリアに来て初めてゲイの人たちと出会った。その二人ダリオとロベルトはゲイカップルで、一緒にバールを経営している生活上でも仕事上でもパートナーなのだが、すでに70代近い二人である。一目見ると、ゲイとは気づかない、二人とも普通の男性だ。夫から、二人はゲイでパートナーだよと言われるまで、私は全く気付かなかった。夫が通っていたバールが彼らのバールだったので、夫と知り合ったころに彼らとも知り合った。もう16年の付き合いになる。 
 私の性格として、誰とでも話せるタイプではないのだが、彼らとは会った時からすんなりおしゃべりができて、一緒にいて居心地がいい人たちである。そのためか、夫が言うには彼らが作るコーヒーはたいして美味しくないが、彼らと一緒におしゃべりするのが楽しいからバールに行くと。確かに。彼らのバールには、馴染みのお客さんがたくさんいて、仕事の合間や仕事帰りにコーヒーを飲みに来て、おしゃべりもして楽しんでいる。そこで知り合ったのが、日本人ガイドのHさんだった。ダリオとロベルトのバールの上に住んでいて、その人もゲイだった。そのHさんとも会えば、色々とおしゃべりして楽しかったが、私が仕事を変えたり、引っ越したりしたこともあり、しばらくは会わないでいた。1年前ぐらいに、1度目のロックダウンが明けたころにバールに行ったら、Hさんはガンで亡くなったよと聞かされた。ロベルトはHさんを見舞いに病院に行ったそうだ。Hさんは静かに自分の最期を受け止めているようで、穏やかだったと。 
 余談なのだが、私が知り合ったこの3人のゲイの人たちは皆素敵な人。優しくて、ありのままを受け止めてくれる抱擁力がある感じ。ちなみに、フィレンツェはゲイが多い街と聞くのだが、なぜなのかはいまだ解明できていない。 
 
 バチカンの話が出たので、もう一つ余談だが、カトリック教会の神父さんも色々な考えを持っている人がいる。皆、一律の考えで硬直しているという訳ではない。というのも、子どもの洗礼式の際、必ず名付け親が必要になるのだが、家の近所で義理の両親がミサに行く教会の神父は名付け親になるには、ゲイはダメ、結婚してないとダメ(事実婚者はダメということ)などと言ってきた。私たちが子どもの名付け親を頼んでいたカップルは事実婚カップル。そこで、別の教会に行ってみると、そこの神父さんは何も制限することなく、すんなりと受け付けてくれた。前者の閉鎖的な神父さんは、昔街で河川が氾濫した時、住民を助けるどころか教会に入れてくれなかったと、義理の母が言っていた。その話を聞いた時、どうしてこういう人が神父になれるんだろうと、つくづく不思議に思った。 
神父だからといって、すべての神父が博愛の精神を持っているとは限らない。日本でもそうだと思うが、神父、僧侶を単なる職業として捉えている人もいる訳である。 
 
 話を「ザン法案」に戻すと、「ザン法案」が通った場合、バチカンは同性愛者を認めていないわけで、カトリック教徒が差別をしたとして法的措置が取られるのか心配している。また、「ザン法案」では、5月17日を「ホモフォビア、レズフォビア、バイフォビア、トランスフォビアに反対する国民の日」に定めるとしており、その趣旨に沿ったイニシアティブが組織されるとなっている。そこで、学校でもこの国民の日を機会に、差別に反対する活動ができるとしているが、バチカンは「ザン法案」で言われる「学校」がカトリックの学校も含められた場合を懸念している。ザン氏は、これに対して法案は差別を扇動する行為や暴力を扇動する行為を罰則対象としており、各々の意見を述べることに対する罰則ではないとしている。また、それぞれの学校の自主性を尊重する立場であると発言している。 
 
 私は「国民の日」を設定することに、どれほどの意味があるか分からないが、「ザン法案」は性的少数者のみでなく、女性や障害者への差別にも言及しており、様々な形での差別をなくすことにつながればと思う。親の立場としては、現在イタリアの学校には様々な国の人たちがいる。私のように親が外国人の子どもたちもたくさんいる。それに対しての偏見や差別、またいじめにつながる差別などが子どもたちの世代では、少しでもなくなっているように、学校が何らかの活動に取り組むことは大切だと思う。 


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