2021年08月13日21時30分掲載  無料記事
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『東京クルド』 あなたが入管職員だったらなんと言いますか?  笠原眞弓

 もう40年も前の事、東京YWCAからオレンジ色の小さな冊子が出版された。『入管体制を知るために』というタイトルだたと思う。田中宏さんが書いたものだ。その頃東京YWCAが留学生の在留制度の不備に対して改善を要請していた。その後わずかに改善されたのだが。 
 
 ところで難民の特別申請は、その頃から変わったとはとても思えない状況が続いているようだ。この前のスリランカのウィシュマさんの死亡事件の後、入管法の改悪はまぬかれたが、もともと日本のそれは世界レベルから見て、とんでもなく低い。 
 そんなことを考えながら、『東京クルド』を観た。 
 
 
 どこにでもいるような19歳と20歳の若者が、ボーリングをしている。他愛ないおしゃべりをしながら。 
 入管の前のバス停から大勢の外国人が下りて来る。先の青年のうちの1人が、建物からニコニコと出てくる。2か月の特別在留許可をもらったと。たった2か月だけ?なのに、あんなに喜んでいる。 
 
 彼らは、クルド人だ。6歳の時に両親に連れられて日本に渡ってきた。親戚のいるドイツに行きたかったけれど、ついたところは日本だった。小中の義務教育期間は、在留資格がなくても学校に行かれるが高校生ともなると、入管へ行って仮放免許可の申請、面接を受けなければならない。 
 
 難民として在留資格を得るまでは、働いてはいけない。では、どうやって生きていくの?だけが食事を提供してくれるの?と言えば、「そういう決まりだから!国に帰ってよ!いやだったらよその国にいってよ!よその国に」と言い放つ入管役人。 
 わかりますか? その言葉の意味? 私の知り合いの30代若者が「そういわれて当然だ」と言う。続けて、「運転免許だって、期限が切れたら言い訳はきかず、無免許で罰せられる。それが法というものだ」と。確かに。確かにそうだけど、これとそれとは、月とすっぽん。全く違う基盤で考えなくてはならない。 
 
 世界の戦争、紛争を彼は知らない。クルド人は国を持たない。一応トルコ人である。しかし、独立運動をしているから、いつ殺されるか、いつ収容されて酷い仕打ちを受け、屍となって退所するかもしれない状況なのだ。親戚などは、連座して逮捕される危険がある。独立派に物資を送る車を運転した彼の父親も、危ない。 
 彼らには、一緒に逃げてきた親きょうだい親戚がいる。マメに家事・育児を手伝い、将来の夢に向かって、勉強もしている。丁寧に映し出される家族との関わり。そして生きるために違法に働く、解体現場での肉体労働。今の日本の若者と、ちっとも変わらないまじめさと真摯な態度。自分がぐれたのは、やはり難民申請中の父親との関係がうまくいかなかったからと冷静に語る。家族の命をつなぎ、生活を安定させたい父と、自分の将来に黒い帳が下りているような状態の息子との互いの苦しさ故に行き違う。 
 
 私たちは、いったい何をしているのか。日本の入管法とは、いったい何なのか?この前の死亡事件で、少し一般の人たちに暴かれたとはいえ、まだまだ世界のレベルからも、「人には生きる権利がある」という生存権・人権という、人間の良心としてのレベルからも、かけ離れている日本の体制に、心を震わせて映画館をでた。 
 もう封切館の上映は終わる。上映をぜひ地元映画館に、働きかけてほしい。(レイバーネット日本から加筆・転載) 
 
監督:日向史有 103分 
シアター・イメージフォーラム(7/10からだっので、そろそろ終わるが、全国順次上映) 


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