2021年08月30日17時23分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202108301723301

国際

アフガニスタンでの米国の屈辱的敗北 学ぶべき教訓は何か チャンドラ・ムザファー(マレーシア人権活動家)

 欧米の主流メディアはこの数日、タリバンの勝利をうけてカブールから逃げ出そうとする人びとのニュースでいっぱいだ。若者も年寄りもわれ先にすしづめの飛行機に搭乗しようとする劇的な映像は、確かに大きな衝撃をもたらす。映像がつたえるメッセージは、アフガンの人びとが集団的恐怖にとらわれ、「抑圧的で残忍な体制」の冷酷な支配から逃れようとしているというものである。映像はまた、自由と安全が欧米の首都でこれらの逃亡難民を待ち受けていることを暗示している。 
 
 多くの人は、これらの映像がもうひとつの気の遠くなるような現実、つまり20年間にわたるアフガニスタン占領の果てに米国とその同盟諸国が被った屈辱的な敗北から注意をそらす役割をしていることに気づかない。ブラウン大学の戦争のコスト・プロジェクトによると、それは、2.26兆米ドルを食い尽くす占領だった。最大時には、それによって77万5000人の米国の軍務要員が雇用された。米国と北太西洋条約機構(NATO)は、その指揮下に世界で最も殺傷力のある先端武器を配備していた。それでも、2322人ほどの米軍の死者が出た。アフガニスタンとパキスタンにおける米国とNATOの軍事作戦の結果、24万人の死者が記録された。アフガン民間人の死者は4万7245人と推定され、パキスタン民間人の死者は2万4099人に達した。2020年末には350万人のアフガン人が国内避難民となり、250万人のアフガン難民がいた。 
 
 対照的に、タリバンはかぎられた攻撃力しか持っていなかった。ペペ・エウコバルが言ったように、「彼らは、カラシニコフ、ロケット推進手榴弾、トヨタのピックアップだけに頼っていた、ここ数日でドローンやヘリコプターをふくむ米軍の兵器を捕獲する前までは」。「中核を除いて、彼らのゲリラは基本的な軍事訓練しか受けていなかった。タリバンには7万8000人の戦闘員がいて、そのうち6万人が活動していたと推定される。パキスタンにも何人かの戦闘員がいたとはいえ、タリバンに対する国際的支援は大きくなかった。それでも、2021年8月の中旬までには、タリバンの共同創設者ムラー・バラドゥール・アフンド率いるアフガニスタンのイスラム首長国が支配権を握っていた。 
 
 タリバンが成功を収めた理由な何か。多くのアナリストは、イスラムに対する彼らの熱烈な信仰を圧倒的に重要な要因とみている。この信仰は、自分たちの土地に対する彼らの愛と深く結合している。いかなる外国勢力もこれまでアフガニスタン征服を維持できなかったのは、このためである。英国はこのことを19世紀半ばに発見した。ソ連は10年間の占領と6万人の将兵の喪失の果てに1989年、アフガンの人びとに打ち負かされたとき、この真実を受け入れた。今アメリカ人は、アフガニスタンが「帝国の墓場」と表現されてきたことがなぜ正しかったのかを知っている。 
 
 信仰とは別に、タリバンは地域の首長や草の根コミュニティとの連携を着実につくり上げていく賢明な戦略も進めてきた。こうした連携が、駐留米軍への地域レベルの抵抗の砦となっていった。タリバンは、多数派コミュニティと共鳴するパシュトゥン人主体の集団だが、タジク人やウズベキスタン人、ハザラ人などの少数派民族も取り込もうとした。このネットワークが抵抗運動全体の立ち位置を高めた。 
 
 タリバンと米国の支援を受けた政府、アフガン軍とを比較すると、前者と後者に対する国民の見方がいかに異なっているかが理解できるようになる。米国とつながりのある民間人と軍のエリーはいずれも、外国勢力の「操り人形」「傀儡」と見られた。彼らはほとんど信頼されなかった。さらに悪いことに、一部のエリートは汚職と権力乱用に現を抜かすことによって、エリート階級の基盤をさらに掘り崩した。アフガン国民に与えられる外国からの援助のかなりの部分が腐敗したエリートによって、彼らのふところを肥やすために吸い上げられたといわれる。そのような不正行為が、一方ではエリートと彼らの外国支援者との信頼の溝を、他方でアフガン大衆とエリートとの溝を深めた。 
 
 また、占領者たちは往々にして、アフガン社会、とりわけ地方の人びとを律する規範や価値観への無神経さをさらけ出した。「テロリスト」捜索のため、米国とNATOの兵士たちがときどき、深夜に農家に押し入るが、その時間帯だと女性はベールをかぶっていないかもしれない。彼らは、(見知らぬ人の前で顔を見せてはならないという)女性の礼儀作法をそれとは知らずに冒とくしているのである。報告の指摘によれば、そのような事例が女性と男性双方を激怒させ、必然的に外国人闖入者に対する怒りを増大させていった。 
 
 もし占領とそれに伴う文化への無神経や腐敗などの悲哀に特徴づけられたアフガンの歴史の悲劇的な一章が終わったなら、われわれは新しい章が始まるのを期待できるだろうか。われわれが新しいアフガニスタンの輪郭についてじっくりと思い巡らすことができるようになる前に、軍事的征服と占領はいかなる問題の解決にもならないことを、何度も何度も強調することが重要である。それは、アフガニスタンあるいはそれ以外でテロリズムを根絶できなかった。それは、アフガンの人びとに発展も意味ある進歩ももたらさなかった。多くの場合、占領者自身が自らの議題、覇権的支配と統制という独自の議題を追求しようとして、保証人となり、資金を調達し、訓練を施し、テロリストを防御するのが明らかだというのに、どうしてそれが人びとに恩恵をもたらすことができよう。 
 
 われわれすべてが、アフガニスタンの大失敗から学ぶことができる教訓が何かひとつあるとすれば、それは支配と覇権の罪悪とその悲惨な結果である。デモ、集会、メディアの動員などの大衆行動をつうじて、とりわけ米国の人びとはこのメッセージを彼らのエリートたちの頭と心にたたき込むべきだ。他国の政権を力と暴力によって追放するな。他人の土地を占領するな。じつに残念なことに、第二次世界大戦の終結以来、米国のエリートたちはこのことを何度も何度も繰り返してきた、ベトナムで、イラクで、リビアで。彼らはシリアで試みて失敗した。彼らは学ばないらしい。 
 
 こうしたエリートたちの狂気をやめさせることができるのは、民主的に表現された人びとの意志だけである。 
 
*チャンドラ・ウザファー氏はマレーシアの知識人、人権活動家。国際NGO「ジャスト・ワールド」代表。イスラムの立場から文明間の対話活動を進めている。マハティール政権下で国内治安法で逮捕歴がある。 
 
*原文はhttps://countercurrents.org/2021/08/humiliating-defeat-in-afghanistan/ 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。