2021年09月24日10時18分掲載  無料記事
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教育

都立高の男女別定員撤廃論・3 「親ガチャ」が問う「点数は平等か」 石川多加子

「都立高校の男女別定員制度及び男女別合否判定の撤廃を求める意見書」は、「合格基準点の男女格差がある限り、個人が性差別をされない権利や、入試で公正に評価される権利という具体的な権利を侵害するものであり、個人の能力やそのために費やした努力の評価においても男女を不平等に扱うことにほかならない」とする。それでは、学力検査で得る点数は、受験生「個人の能力やそのために費やした努力」のみの結果なのであろうか。 
 
▽東大生の多くは高収入家庭 
 とりわけ名門校、難関校に合格するには、学校で授業を受けて自習するだけでは中々叶わないように思える。児童の頃から学習塾・予備校に通う、家庭教師を頼む、度々模擬試験を受けたりすることが当然となっている。参考書等も揃えなければならない。当然費用が嵩むので、裕福な家庭の児童・生徒ほど受験の為の充分な環境?を整えられることとなる。 
 そればかりではない。自分の部屋に専用の机があって、幼児の頃から百科事典や様々な書籍に囲まれ、日常的に社会や科学、芸術を談ずる両親乃至親族等の中で成長する子どもは、学習する下地─「文化資本」─に恵まれているのである。2021年度の「全国学力・学習状況調査」 (質問紙調査)では初めて、「あなたの家には、およそどのくらいの本がありますか」と尋ねたが、冊数の多い児童・生徒ほど教科の正答率が高い傾向が分かった。蔵書数をそれぞれ0〜10冊、501冊以上と答えた子どもを比較すると、国語は小学生で17.4ポイント、中学生で14.6ポイント、算数・数学は同じく18.2ポイントと15.5ポイントの差が生じたのである(国立教育政策研究所「令和3年度 全国学力・学習状況調査報告書 質問紙調査」126頁)。 
 受験にも当然有利で、「東大生の多くは高収入家庭」なのは最早常識であろう。東京大学が2018年6〜8月に実施した調査によると、年収950万円以上の親は60.8%に上り、1,550万円以上が16.1%を占める結果となっている(東京大学「2018年(第68回)学生生活実態調査報告書」41頁https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400131321.pdf 2021年8月15日取得)。余り経済的に余裕の無い世帯の子どもは、かようにスタートラインが異なる中で“自由な”競争に臨まなければならず、端から平等ではない。元来差のある出発点を埋めるべき社会権が、充分に機能していない。 
 内申点に関しても、状況は同じである。先に触れたように、都立高一般入試に於いて音楽・美術・技術/家庭・体育科の内申点は、5段階評価の数値を2倍した点となる。楽器や書画、運動用具等が家に備わり、音楽や絵画といった芸術分野の習い事、水泳、サッカー等のスポーツクラブ等に通える生徒の方が有利であろうことは想像が付く。 
 最近の高校生等が「親ガチャ」(「偶然生まれた家庭環境によって子どもの人生が大きく左右される」)という語を使うと知り(NHK首都圏ナビWebリポート「私立高校入試も女子が不利?」https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20210713.html  2021年8月16日取得)、身につまされる思いである。 
 
▽大学進学率の男女差は縮小したが… 
 「親ガチャ」は未だ、時として男子よりも女子に多くのしわ寄せを及ぼすのでは無いだろうか。実際に、「大学に進学するか否かの振り分けの指標は、学業成績以上に家庭の経済力によって決定づけられ」、「特に女子には家庭の経済状況の影響を増大させ、 教育アスピレーションを冷却する働きをしている」とする論文がある(中村三緒子「高学歴既婚女性の職業経歴分化に関する考察−短大卒者と大卒者を比較して−」白鴎大学教育学部論集9巻2号、2015年11月、383頁)。 
 「男女共同参画白書 2020年版」は、「女子の大学(学部)への進学率は平成期を通じて大きく上昇した」としながら、「なお、男子より低く、理学、工学で女子学生割合が特に低い」ことを指摘する。2019年度の大学(学部)への進学率は、女子が50.7%、男子は56.6%であった。女子は、全体の7.9%が短期大学(本科)へ進学している。専修学校(専門課程)への進学率は、女子が27.1%、男子は20.6%である。大学(学部)卒業後直ちに大学院へ進学する者の割合は、女子が5.5%、男子は14.3%となっている(内閣府男女共同参画局、「2021年版 男女共同参画白書」124頁)。 
また、「2021年度 学校基本調査」によれば、高等教育機関における女子在学者の比率は2020年5月1日現在、大学(学部)で45.5%、大学院で32.6%、短期大学で88.0%、高等専門学校で20.5%、専門学校で56.8%である(文部科学省「2020年度学校基本調査学校基本調査(確定値)の公表について」2020年12月、https://www.mext.go.jp/content/20200825-mxt_chousa01-1419591_8.pdf 2021年8月16日取得)。 
 他方、上記進学率の男女差は、女性の高学歴が必ずしも歓迎されない日本社会の風潮とも無関係では無いと推測する。東京大学では、2021年度学部入試の合格者に占める女子学生比率が過去最高!の21.1%に達した旨報じられた(朝日新聞デジタル2021年3月10日16時4分https://www.asahi.com/articles/ASP3B56VMP3BUTIL00D.html 2021年8月29日取得)。前年度まで20%を超えたことが1度も無かったので、快挙?らしい。 
 筆者は、高校卒業を前に両親から「短大に行って好きな文学でも勉強したらどうだ」と言われたことが忘れられない。この原稿に取り組みながら30〜70代の知人数人に問うてみたところ、「男は大学だが、女は短大ぐらいで丁度良い。第一結婚にも就職にも不利だ」といった固定観念?が、幾星霜を経た今でも依然として根強いのに気付いた。中でも或る社会人学生(60代男性)が「女を大学に行かせては体裁が悪い」と言ってのけたのには、魂消た。 
 学歴と未婚率に係る研究でも、男性の場合は高卒より大卒の方が低いのに対し、女性では反対の結果となる。総務省の調査では2017年10月1日現在、30〜40代の男性未婚者が高卒は32.2%、大卒は27.5%である一方、女性はそれぞれ21.2%と24.5%となっている(舞田敏彦「日本の高学歴女性は未婚率が高いが、特にその傾向が強い地方は・・・」ニューズウィーク日本版2021年3月10日15時30分https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/03/post-95792.php。なお、総務省統計局「2017年就業構造基本調査」の「第7―1表 男女、配偶関係、教育、就業状態・仕事の主従・従業状の地位・雇用形態、年齢別人口(15歳以上人口)―全国、全国市部、都道府県、都道府県市部、政令指定都市」https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200532&tstat=000001107875&cycle=0&tclass1=000001107876&tclass2=000001107877&tclass3val=0 2021年8月17日取得 等を参照されたい)。 
 NHK放送文化研究所の調査によると、「もし自分に中学生の子どもがいたとして、どこまで教育を受けさせたいかを、男の子の場合、女の子の場合、それぞれについて尋ねた」のに対し、2018年に「大学まで」と回答したのは、男の子の場合が72%に上ったのに対し、女の子の場合は61%である。もっとも同調査が開始した1973年にはそれぞれ、64%と22%であったから、女子の高等教育に対する意識は大きく変化したようではある(NHK放送文化研究所「放送研究と調査」2019年5月号、14頁)。 
 
▽根強い男女の役割分担意識 
 日本社会で男女平等が立ち遅れている主因の一つは、性別による役割分担の因習から抜け出せない現実にあると感じる。デジタル化によって従来の仕事が無くなり「技術的失業リスクにさらされる」働く女性の割合は、日本の場合、男性の3倍を超えるとのIMFの試算は、衝撃的である。韓国やイスラエルよりも多い。この要因について、「デジタルで代替可能な補完的業務を主に女性が担ってきた」ことが指摘されている(「女性の失業どう防ぐ 学び直し、少子化日本の成長左右 リスキリングで挑む(下)」日本経済新聞2021年8月13日)。 
 2021年6月末の新聞に、学生対象の就職講座でグループディスカッションの練習をしたところ、2回とも“自然に”「司会は男子、書記は女子で進めようとした」ので講師が中断させたとの体験談が掲載されていて(上田品美「就活のリアル」日本経済新聞2021年6月29日夕刊)、未だにそうかと仰け反った。また、最近の報道で、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に反対と答えた日本人男性の割合は54.9%に達することを知った。スウェーデンの95.3%、フランスの75.7%、ドイツの63.5%には及ばないが、過半数を占めている。それでいて、夫と妻の家事・育児に費やす時間を比べると、日本男性は諸外国に比べ図抜けて!短い。 米・英・仏・独・ノルウェー・スウェーデンで夫が家事・育児をする時間は妻の4〜6割強となるのに対して日本はたったの2割に届かず、然もありなんである。要するに頭?と口だけで、行動が伴っていない(吉野次郎「あなたの隣のジェンダー革命#5 男女平等指数で世界120位の惨状(上)」日経ビジネス2021年8月17日https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00340/081600007/。なお、内閣府「2020年度少子化社会に関する国際意識調査報告書【全体版】「国別クロス集計表 問25」https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/r02/kokusai/pdf/zentai/s5_1.pdf 
2021年8月17日取得等を参照されたい)。 
 ソニー生命が2020年9月末に行った「女性の活躍に関する意識調査2020」によると、有職婦人の66.8%が「女性が社会で働くには不利な点が多い」と思っており、29.8%は「本当は専業主婦になりたい」と感じている。一方、専業主婦の58.4%は「現在の生活に満足している」ということである(https://www.sonylife.co.jp/company/news/2020/nr_201027.html  2021年8月23日取得)。就労の場に於いて女性自身が不利を感じること自体、性別による役割分担の因習が根強く残っている証左であろう。 
 就学の面でも、男女で異なる傾向が顕著である。高校の理数科、大学の理・工学部の在籍者は、いずれも男子の比率が高い。例えば、埼玉県立大宮高等学校の場合、男子が79名であるのに対し女子は42名(大宮高校ホームページhttps://ohmiya-h.spec.ed.jp/学校概要  2021年8月29日取得)、同じく新潟県立新潟高等学校では147名と95名(新潟高校ホームページhttp://www.niigata-h.nein.ed.jp/school/gaiyou_ennkaku/ennkaku.html  2021年8月29日取得)、島根県立出雲高等学校では70名と46名(出雲高校ホームページhttps://www.izumo-hs.ed.jp/schoolinfo/32997 2021年8月29日取得)である。高等教育機関に於いては、「大学の理学部における女子生徒の割合は約28%。工学部に至っては約15%にとどまる」(日本経済新聞2021年8月22日2時1分https://www.nikkei.com/article/DGXZQOKC29DH10Z20C21A7000000/ 2021年8月29日取得。なお、前掲「男女共同参画白書2021年版」127頁の「I−5−3図 大学(学部)及び大学院(修士課程)学生に占める女子学生の割合」を参照されたい)のが現状である。 
 旧学制下、高等女学校では中学校と比べて外国語とともに理数科の授業時数が少なかったことは前述した。その当時の女子学生の苦手意識?が今も残るのか、或いは理系を選択するのは「女らしくない、不利」との先入観が影響する為であろうか。TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)、PISA(生徒の学習到達度調査)の結果等を分析し、「日本では算数・数学の学力や学習態度に男女差があること」・「特に、学習態度においては、小学校 4 年生でみられた性差が、中学2年生で拡大していることを見出しており、女子が数学に対する自信や意欲を否定する傾向が強くなっている」と指摘する研究があり(森永康子「女性は数学が苦手−ステレオタイプの影響について考える−」心理学評論60巻4号、2017年、50頁 
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/60/1/60_49/_pdf 2021年8月29日取得)、多方面からの考察が待たれる。 
 さて、男女別定員制をめぐって、「共学化が進められた時代には必要な制度だったかもしれないが、もう役割を終えた」として廃止を求める立場から、「『男女のバランスが大事』と支持する声もあるが、バランスをとろうとする背景には、男女に求める役割が違うという考え方がないか」との意見がある(「研究会」の会見に於ける男性教員の発言。朝日新聞EduA 2021年6月20日 
https://www.asahi.com/edua/article/14369733%E3%80%80 2021年8月23日取得)。男女共学を導入した目的である男女平等が今以て確立していない以上、男女別定員制が「役割を終えた」と軽々に判じるべきではなかろう。 
 前述した「家庭科の男女共習をすすめる会」会報には、1989年2月初めに開かれた「2889人のナミダ──都立高男女別定員差別を問う集会」で男女別の定員枠「はずしは平等につながるかどうかが討論された。会場の声は現状で枠をはずしたら旧ナンバースクールにはもっと男子が集中したりして差別は拡大されるであろう。1日も早くすべての都立高が男女半々になることが差別解消の一歩であり、同じ教室で共に学ぶことこそが性別役割分業を変えていくことになるのではという意見が圧倒的に多かった」(中嶋、「前掲書」6頁)とある。「性別役割分業」の状況は今尚改善途上であって、両性の平等を確立するには、学校でも実社会になるたけ近い男女比とすることが望ましいと思う。 
(つづく) 


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