2021年12月20日09時14分掲載  無料記事
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検証・メディア

米国政府の言論弾圧に沈黙するマスメディア  Bark at Illusions

 オスロのノーベル平和賞受賞式で「表現の自由」が祝福された同じ日に、ロンドンでは英国の高等法院(高裁)がウィキリークス創設者であるジュリアン・アサンジの米国への送還を認める判決を出した。米国政府は同国の戦争犯罪などを公にしたアサンジを “スパイ容疑” などで起訴し、英国政府に対して彼の身柄引き渡しを要求していた。判決が出たその日はまた、権威主義から民主主義を守るための“民主主義サミット”が米国政府主催で開催されていた日でもあった。なんという偽善に満ちた世界に我々は住んでいるのだろうか。 
 
 “民主主義サミット”で、米国の国務長官・アントニー・ブリンケン(Democracy Now、21/12/10)は、報道の自由に関連して次のように述べた。 
 
「私たちは各国政府に対して、自由で独立したメディアの強化や、メディアが直面する多様な課題に取り組むのを助けるための具体的な誓約を求めます。……私たちは、国内において報道の自由のための保護を強化しています。司法省は、7月、報道活動に従事するジャーナリストからメモや成果物などの情報を入手するための召喚状や令状、その他の捜査権限の行使を停止するための新しい方針を採択しました」 
 
 では、アサンジの件はどう説明するのか。 
 アサンジはイラクやアフガニスタンでの戦争犯罪や、電子機器のハッキングなど、米国政府の犯罪を暴いた罪で米国政府に訴追され、米国に送還されれば、最長で175年の禁固刑を受ける可能性がある。米国の中央情報局(CIA)はアサンジの暗殺まで計画していた(Yahoo! News、21/9/26)。 
 
 各国に報道の自由を擁護するよう求めておきながら、米国政府は、「自由で独立したメディア」を弾圧しているではないか。 
 この問題はウィキリークスとジュリアン・アサンジだけの問題にとどまらない。米国政府はスパイ活動法を根拠にアサンジを起訴しているが、1917年の制定以来、同法がジャーナリストに適用されるのは初めてのケースだ。これが前例となれば、米国で活動するジャーナリストにとっては、これまで憲法で保障されてきた報道の自由が脅かされることになるだろう。またアサンジはオーストラリア人で、ウィキリークスは米国国外の出版社だ。米国国外のジャーナリストや出版活動に米国の国内法が適用されるようなことが認められれば、真実を追求するために権力者と闘っている世界中のジャーナリストを委縮させることにつながるだろう。この問題は、アサンジとウィキリークスだけではなくて、世界中のジャーナリストと報道機関に対する挑戦なのだ。 
 
 アサンジの釈放を求める大勢の人が集まったロンドンの高裁の外で、国境なき記者団のクリストフ・ドゥロワール事務局長(Democracy Now、同)は、 
 
「私たちがジュリアン・アサンジを擁護するのは、彼がジャーナリズムに貢献した廉で訴追されているからです。そして彼の送還は、英国、米国、そして世界中の報道の自由に関して、長期にわたる深刻な影響を及ぼすことは明らかです」 
 
と警告し、世界中のジャーナリストに対して、 
 
「今何が起きているのか、今何が考えられているのか、完全に自覚するよう呼びかけます。ジャーナリズムを守るために、この事件でジュリアンを守るために、世界中の全てのジャーナリストにとって、今が本当に正念場です。だから、本当に、今すぐ行動してください。手遅れになる前に行動してください」 
 
と訴えている。 
 
 しかし、日本のマスメディアから、アサンジの件で報道の自由と正義を訴える声は聞こえて来ない。 
 英国高裁の判決のニュースはほとんど注目を浴びておらず、マスメディアは、英国高裁が「機密暴露などの罪」で起訴されている「アサンジ被告」の米国への送還を認めたなどと、短く報じているだけだ(例:毎日、21/12/11;日経、21/12/11)。ノーベル平和賞受賞式や“民主主義サミット”ニュースは大きく報じられていたが、その中で、米国による言論弾圧としてアサンジの件を関連付けて報じているニュースも皆無ではないだろうか。 
 
 NHKや民間の放送局、新聞社などのマスメディアで働く人たちは、ジャーナリストとして危機感を感じないのだろうか。 
 あーそうか。彼らは権力を監視し、真実を追求するジャーナリストではない。ジャーナリストではなくて、世界一の軍事力と経済力で影響力を行使している覇権国家アメリカ合衆国を中心とした国際秩序を維持するための世論工作員なのか。 


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