2021年12月30日11時47分掲載  無料記事
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検証・メディア

映画監督ロマン・ポランスキーにレイプされた少女の現在 〜30数年前に見たNHKのポランスキー監督の特集番組〜

  映画監督のロマン・ポランスキーと言えば、私が学生時代にファンだった映画監督で、「テス」や「吸血鬼」、「ローズマリーの赤ちゃん」、「チャイナタウン」など数々の傑作を連打していました。さらに、ユダヤ系だったため両親がアウシュビッツで殺されたという彼の痛ましい少年時代や女優だった妻のシャロン・テートが子供を身ごもったまま、チャールズ・マンソンという男とその仲間たちに惨殺されたといった悲劇的なエピソードも聞いていました。彼の自伝も原書で読んだことがありました。 
 
  NHKがかなり以前にロマン・ポランスキー監督の特集番組を作ったことがあり、番組を見た記憶では「フランティック」という新作の映画について触れていたので1988年かその翌年あたりの番組だったと思います。この番組に解説者として映画評論家の川本三郎氏が登壇し、ポランスキーについて語っていたのですが、1つだけ忘れがたい話があったことについて触れたいと思います。それはポランスキー監督が、最近も何度も報じられていますが、少女をレイプしたと告発されていたことで、川本氏が番組で語っていたのは13歳だったサマンサ・ゲイマー氏の事件だと思います。番組では名前は出てきませんでした。川本氏は、その事件について、報道を読んで知っていたのであろうことをもとに、個人的な推測で話をしていました。川本氏は〜私が番組を見た時の記憶では〜少女は「プロのモデル」であって、普通の少女ではなかったというのです。しかも、仕事上の写真撮影の時のことだった、ということ。そして、ポランスキー監督がポーランド出身のよそ者だったために地元で好感を持たれていなくて、「生意気な奴」ということで通報されたのではないかといった話でした。 
 
  要するに川本氏は、ポランスキー監督を全面的に擁護したのでした(番組を制作したNHKのスタンスから、川本氏がここで告発することは難しかったでしょうが)。ただ、その擁護は番組での川本氏の話し方から推察すると個人的印象に基づくもので、恐らく番組のためにリサーチをして話したのではなかったのです。それはレイプされたという少女の訴えを全面的に否定する言論を、ただの印象に基づいて行ったということでもあります。もし、真偽が不確かな情報だったなら、あえてこの特集に盛り込まなくてもよかったのではないかと思います。 
 
  私は当時、このポランスキー監督特集の番組を見て〜当時、私自身がポランスキー監督のファンだったこともあって〜「そうだろうな」という風に思ったのを覚えています。ここで川本氏を非難しようと思っているのではなく、ただ、当時と#Me Too以後でこうした事件に対する人々の受容の感覚が大きく変わったことを書いておこうと思っています。そして、被害にあったゲイマー氏自身も本を書くなど、真実を語ったのでした。 
 
  この事件はその後、さらにポランスキー監督にレイプされたという元女優ヴァレンティン・モニエ氏(当時18歳)の告発が2019年にあり、私も「あの事件も嘘ではなかったのかもしれない」と思うようになりました(※これについて、ポランスキー監督は否定しています)。実際、サマンサ・ゲイマー氏は実名で、本まで出していますし、メディアでもインタビューを受けています。以下は、「グッドモーニング・ブリテン」という番組に2017年に、すでに孫もいるという彼女が出演してインタビューを受けた時のものです。2017年と言えばニューヨークタイムズで、ハリウッドの大物プロデューサーのハーベイ・ワインシュタイン氏がセクハラやレイプで告発されていたまさにその年でした。 
https://www.youtube.com/watch?v=ks4DmdF5bh8 
  この「グッドモーニング・ブリテン」のインタビューで、ゲイマー氏は驚いたことに「ポランスキー監督を許している」と語っています。私たちが知らなかったことですが、ポランスキー監督は米司法当局に彼女の事件に関して取り調べを受けたのち、すぐにフランスに逃亡したという風に昔は報じられていましたが、「ポランスキー監督は後にアメリカを再訪して42日間、刑務所で過ごした」と彼女は語ります。さらに驚いたことに、この時の米国の担当判事がポランスキー監督に「50年収監されたいか」と脅し「もし、お前がやったことを認めればせいぜい数週間で釈放される」という司法取引を持ち掛けていたことを彼女は語っています。「誰であっても、もしその時のポランスキー監督と同じ境遇に置かれたら、きっと同じことをしていた(逃げていた)と思う」と語っています。ゲイマー氏は、このインタビューでアメリカの司法当局の歪みを語っているのです。ポランスキー監督に対しては、レイプ事件の後、すぐに許したとも語っています。 
 
  ゲイマー氏が、このように堂々と自信をもって事件や事実、自分の思いを語っている姿に正直、驚きを感じました。「ポランスキー監督の作品が評価されていることに対して、私はなんら不満はありません」と語るゲイマー氏には、敬意すら抱きました。NHKの番組で川本氏が軽く否定したような、そういう類の告発ではなかったのです。あのNHKのロマン・ポランスキー特集番組を見て、30数年後に感じたのは、最初に植え付けられた印象と事実がいかに異なっているか、ということでした。 
 
 
■Roman Polanski's 13 year old rape victim breaks silence | 60 Minutes Australia 
https://www.youtube.com/watch?v=H5dIdoaDgN8 
  オーストラリア版「60ミニッツ」は、ポランスキー監督がサマンサ・ゲイマー氏に「彼女の人生に影響を与えてしまったこと」について謝罪の手紙を書いたことを報じました。ゲイマー氏は「ポランスキー監督をペドフィリアだとは呼びたくない」と語っています。「というのも一度切りのことだから」と。番組では1970年代当時のドラッグなどの風俗が背景にあることや、事件が起きたのが「チャイナタウン」の主演俳優だったジャック・ニコルソン邸だったことなども紹介しています。 
 
■Roman Polanski Denies Rape Allegation by Valentine Monnier 
https://variety.com/2019/film/news/roman-polanski-denies-rape-allegation-valentine-monnier-1203399889/ 


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