2022年01月05日21時33分掲載  無料記事
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社会

監視社会ニッポン 国交省、鉄道全車両に監視カメラ義務付けの検討を開始

 他の国の監視社会化についてメディアは報じるが、自分の足元で起っている現実についてはそっけない。それをよいことに、日本でもデジタル庁発足と歩調を合わせるようう監視社会化が急速に進んでいる。そのひとつにJR東日本の顔認証式カメラシステム導入(本紙既報)、国交省の全車両監視カメラ設置義務化の動きがある。一定の空間に一定時間多くの人を滞留させる電車内に監視カメラを設置することはプライバシー、個人情報の侵害の最たるものであるとして「共謀罪NO!実行委員会」は昨年末、全車両監視カメラ設置義務化に反対する声明を出した。(大野和興) 
 
 同声明は、JR東日本が進めている顔認証式カメラシステム導入についても言及、「不審者」「指名手配犯」 の顔画像データを登録し、JR 東日本の約 9000 台のカメラに撮影された乗客の画像と一致した場合、そのヒットしたカメラから当該の市民の位置をつかみ、JR 職員や警察が対応できるというものです、とその恐るべき機能について警告を発している。 
声明は最後に「日本では民間事業者などは法律的には個人情報を本人から同意を取ることなく取得できます」とプライバシーを守るという基本的人権に関し法的不備があることを指摘。「日本の個人情報保護法を抜本的に改正し、顔画像・データに限らず、市民の個人情報の取得にあたっては本人から同意を取ることを義務付ける必要があります」と提言している。 
 
共謀罪 NO !実行委員会の声明は以下―― 
 
 
国交省の列車内カメラ設置義務化に反対しよう! 
2021年12月30日 
共謀罪 NO !実行委員会 
「秘密保護法」廃止へ!実行委員会 
 
12月3日、国土交通省は鉄道車両内で乗客が襲われる事件が続発しているとして、そ の抑止のために鉄道各社に全車両に監視カメラの設置を義務付ける方針であることを明らかにしました。そして、そのために年内に有識者の検討会を開催し、カメラ設置の基準の 議論をはじめるとしています。この国交省の方針は多くの問題があるため、以下の理由により反対します。 
 
■監視カメラを設置すれば問題解決か? 
第一に、10月末の京王線で起きた事件(乗客を刃物で襲い、客車内にライターオイル をまき火をつけた事件)は、被疑者は逮捕覚悟で起こしており、車内にカメラを設置した からといって防ぎようのない事件でした。この事件が明らかにしたものは、事件発生時に、 乗務員が乗客からの事件の知らせを聞き、どう事態を正しくつかみ、対応できるシステム をつくれるかということでした。 
航空機ではパイロット(機長)、船では船員(船長)、列車では乗務員が、運行中の非 常時に際して何が起きているかをつかみ、判断することを求められます。そのためにどう いうシステムが必要なのかが問われたのが京王線の事件です。国交省のいうように全車両 に監視カメラを設置すればよいというような次元の問題ではないのです。 
国交省の方針は、事件をテコに全車両への監視カメラ設置を一挙に進めようとするため の問題のすり替えです。 
 
■恐るべきプライバシー侵害 
第二に、今回の国交省の全車両カメラ設置義務化の方針は、市民のプライバシー、個人 情報を著しく侵害するものです。 
列車内では利用者は、下車まで電車に閉じ込められます。カメラが設置されれば、その 間、利用者は撮影・録画から逃れるすべはありません。しかも、通勤・通学時は乗客の密 集度はほかの場所とは比較できないほど高く、多くの人を撮影できます。また、乗客の少 ない時は、ずっと乗客の動き細かく撮影できます。これほど、カメラで多くの市民をまる ごと、たやすく、長時間撮影・録画できる場所はほかにありません。列車内のカメラ設置 は一段とプライバシー、個人情報の侵害性が高く、問題があります。 
プライバシー保護との関係を重視する鉄道会社は、カメラ設置が遅れていると国交省か ら批判されていますが、それは各社が非常時における乗客の安全の確保とプライバシー保 護の両立という問題に直面してきたからであり、的外れの批判です。今回の国交省の方針は、膨大な数の鉄道利用者のプライバシー、個人情報を侵害する暴 論であり、断じて認めることはできません。 
 
■乗客の安全とプライバシー保護の両立 
第三に、京王線事件などが明らかにしたことは、どう非常時に乗客の安全の確保と、プ ライバシーの保護を両立するのかです。 いま、その具体的検討が求められています。 そのためには、考えられるのは乗客などからの非常時の通報時のみにカメラが作動し、 乗務員、会社に車両内の状況が届き事態を掌握できるシステムです。何も事件が起きてい ないときに乗客を撮影・録画する必要はありません。また、プライバシー保護のためにカ メラ設置の段階から乗客の画像にはぼかしをいれるなどのことが考えられます。 こうした具体的検討こそが、乗客の安全とプライバシー保護の両立には必要です。鉄道 会社の中にはそういう観点から問題をみているところもあります。 
 
■監視カメラに関する根本的議論を! 
第四に、今こそ、監視カメラによる画像データの取得・利用に関する根本的議論が必要 です。カメラは、全国いたるところに設置され、私たちを撮影・録画しています。日本は 世界で有数の監視カメラ保有国になっています。日本が市民の顔画像・データを活用し、 そこに個人情報を紐づけた超監視社会にならないという保障はありません。 
顔画像・データはこの人は誰かを特定するうえで最も確率が高い個人情報の一つです。 この顔画像と位置情報をリンクすれば、画像の市民がどこにいき、何を買い、どういう交 通手段でどこに行ったのか一日の行動を追跡することも可能になります。 
現在、JR 東日本が進めている顔認証式監視カメラシステムは、「不審者」「指名手配犯」 の顔画像データを登録し、JR 東日本の約 9000 台のカメラに撮影された乗客の画像と一致 した場合、そのヒットしたカメラから当該の市民の位置をつかみ、JR 職員や警察が対応 できるというものです。 
ここまで監視カメラの利用は進んでいます。市民のプライバシー、個人情報保護は危機 にあるといっても過言ではありません。しかし、これほど重要な顔画像について、日本の 法令には、監視カメラに関して規定したものはありません。国会で議論され、制定された 法律はなにもないのです。通産省などのガイドラインで指針が示されているにすぎません。 
こんなことが許されてよいのでしょうか。監視カメラの存否そのもの、カメラを可とする 場合の条件、運用の基準などについて国会での議論が必要です。 
 
■個人情報の取得には本人の同意を必要とする原則の確立を! 
第五に、日本の個人情報保護法を抜本的に改正し、顔画像・データに限らず、市民の個 人情報の取得にあたっては本人から同意を取ることを義務付ける必要があります。 信じられないことですが、日本では民間事業者などは法律的には個人情報を本人から同 意を取ることなく取得できます。利用する場合、市民に「通知・公表」することを求めら れるだけです。この点、世界の個人情報保護法制をリードする GDPR(EU 一般データ保 護規則)では、個人データの取得にあたって本人から同意を取ることを明確に原則として います。また、いま焦点化している AI(人工知能)の規制についての議論も進んでいます。 
JR 東日本の顔認証式監視カメラシステムの導入、国交省の京王線事件を利用した全車 両のカメラ設置の義務化方針などは、日本の個人情報保護法の最大の問題点の一つ、個人 情報の取得にあたって本人からの同意を取ることを必要としないということを利用した、プライバシー、個人情報侵害の最たるものです。 
私たちは、国交省の全車両カメラ設置義務化は市民のプライバシー、個人情報を著しく侵害し、日本の監視社会化への道を進めるものであり、強く反対します。 


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