2022年01月06日10時31分掲載  無料記事
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検証・メディア

大阪府と読売新聞が連携  権力と報道の密着に批判が上がる

  先日、インターネットで署名を求める内容の書面が出ていたので読んでみたところ、大阪府と読売新聞が「包括協定」なるものを締結することに対する危惧の表明でした。「包括協定」の具体的な中身は不明でしたが、自治体と報道機関がそのような協定を結んだら、客観的あるいは批判的記事が書けないか、書けたとしても牙のないものになりはしないだろうかという危惧を誰しも抱いて当然です。 
 
 そこでインターネットで真偽を確かめたところ、本当でした。 
https://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=43263 
  これは大阪府の報道発表です。 
 
 「このたび大阪府と株式会社読売新聞大阪本社は、教育・人材育成、情報発信、安全・安心、子ども・福祉、地域活性化、産業振興・雇用、健康、環境など8分野にわたる連携・協働を一層促進させ、地域の活性化と府民サービスの向上を図っていくために、包括連携協定を締結することとし、以下のとおり締結式を行いますので、お知らせします」とあり、昨年12月27日に協定を結んだようなのです。 
 
  大阪府と言えば昨年、国政選挙で飛躍を遂げた「日本維新の会」の拠点。私も学生時代を過ごしました。母校の大阪市立大学も大阪府立大学と合併させられ、大阪公立大学として4月からスタートすることになったばかりです。また学費の無料化などを日本維新の会は全国に先駆けて手をつけた、ということで、それはそれで結構なことではありますが、私は危惧も感じています。 
 
  それは同じグループの「大阪維新の会」が朝鮮学校への補助金の支給を拒んできたことです。大阪維新の会は理由を示してはいるのですが、日本在住の人々が教育を等しく受ける、という見地からすると一部の民族の子弟にだけ支給を拒むという政策には疑問を抱かざるを得ません。学費の無料化や、大学の合併も、その裏に偏狭なナショナリズムへの誘導がないかどうか、今後検証される必要があると思っています。その根拠は以下の2011年の記事にあるように、橋下徹大阪府知事が率いる「大阪維新の会」が公立学校の教職員に起立して君が代を斉唱させることを義務付ける条例を制定させた歴史があるからです。 
 
 「公立校の教職員に君が代の起立斉唱を義務づける全国初の条例案が3日、大阪府議会(定数109)で成立した。同府の橋下徹知事が率いる『大阪維新の会』府議団が提出。公明、自民、民主、共産の4会派は反対したが、過半数を占める維新の会などの賛成多数で可決された」(朝日新聞) 
http://www.asahi.com/special/08002/OSK201106030067.html 
 
  話を今回の大阪府と読売新聞の包括協定に戻します。問われているのはメディアが国家や自治体と提携することの是非です。昨年観客を入れないで行われた東京五輪ですが、日本の多くの大手新聞は国家的プロジェクトである東京五輪のスポンサーになっていたため、新型コロナ感染との絡みで東京五輪を中止するべきかどうか、という際に基本的にはやることが予定調和な記事しか書けなかったのではないでしょうか。自社がスポンサーになっていたとしたら、いかに感染状況がひどくなっていても、さすがにその中止を紙面で展開することはむずかしいのではないかと思います。 
 
  日刊ゲンダイの以下のコラムでは、今回の大阪市と読売新聞の包括協定に対する批判が出ています。 
https://news.yahoo.co.jp/articles/8353a052c1ab7aa69f474093cb46cfc6f00c4023 
 「協定に2025年に大阪で開かれる万博への協力が記されている点も気になった。そこで『今回、万博についての話も入っているが、記者、デスクの中に自己規制が働くという懸念はないのか?』と柴田社長に問うた。吉村知事には、『大阪府という巨大な行政機関が、一つのメディアと特別な関係を結ぶというのはよくないと私は思うが?』と問うた。2人の回答は『(影響を受けるほど)やわではない』といったものだった」 
 
  いや、そんなことはないのではないでしょうか。それだけでなく、今回の包括協定を将来の政界とメディアの関係のひな型にしようという意図もあるかもしれません。しかし、それは皮肉にも維新グループが批判してきた北朝鮮と自ら似てきた、ということでもあります。 
 
  松井一郎代表が率いる日本維新の会が掲げる学費無料化やユニバーサルインカムに期待する市民は多く、昨年10月の総選挙でも自民党への批判票が野党共闘陣営よりもむしろ、本質的には自民党に近い日本維新の会へ票が流れた要因だったと考えています。しかし、そうした政策が本当に実態があるのか、ということと同時にその裏に、学問の自由や憲法で保障された権利が今後、縮小される可能性がないかどうか。それらを今後、両面から見て行かなければならないと思っています。 
 
  以下は2019年の立岩陽一郎氏の記事です(先ほどの日刊ゲンダイの記事もそうです)2019年の参院選挙の時に書かれたものですが、松井代表の発言をファクトチェックしたものです。読売新聞は今後、こうした記事を書くことができるのでしょうか。 
 
※維新代表が「幼稚園、保育園の無償化が実施されている」とした大阪で、実際は全市町村の20%未満 
https://news.yahoo.co.jp/byline/tateiwayoichiro/20190720-00134902 
 「今月21日に投開票が行われる参議院選挙で、日本維新の会の松井一郎代表は『大阪では増税なしに私立高校の授業料や幼稚園、保育園の保育費無償化を実現した』と発言していたが、大阪府内全市町村を調査した結果、幼稚園、保育園で完全に無償化を実施している自治体は8市町と、全体の20%に満たなかったことがNPOニュースのタネのファクトチェックでわかった。(立岩陽一郎)」 


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