2022年08月02日15時07分掲載  無料記事
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アジア

対ミャンマー外交でも国民不在の安倍路線 「独自パイプ」は「まず国軍ありき」 宇崎真

 つくづく思うのだが日本の政治はおかしい。来月には安倍元首相の国葬を催すという。岸田首相は「民主主義の危機への断固たる姿勢を示す」ための国葬だという。民主主義の危機を推し進めたのはまさに安倍政権そのものだったのではないか。外交は内政の延長である。国民の目が届きにくい分野であるため、それをいいことにより国民不在の外交がまかり通っている。その典型の一つがミャンマーに表れている。 
 国葬は冗談にしか思えない。そもそも安倍元首相は民主主義の大前提の「三権分立」を全く理解していなかった。行政権の長と立法権の長の区別も明確に認識していなかった。民主主義国の首相としては本来失格だし、「私は立法の長として」と国会で発言したその一言だけでも辞任に値したはずだ。 
 そして嘘つくことを恥じない政治をひろめた執政であった。それは言葉にとどまらず公文書の隠匿、改竄、勝手な処分、全面黒塗りの「公開」にその姿勢が顕著に表れている。それは民主主義の大原則「主権在民」」の決定的な軽視、無視からくるものだろう。短命政権だった菅前首相、岸田現首相もその「安倍路線」に乗っかった政治を継続している。 
 
▽「独自パイプ」は丸ごと安倍人事 
 今日8月1日はミャンマー国軍によるクーデター一年半にあたる。事あるごとに日本政府はミャンマーに対する「独自のパイプ」の意義を強調してきた。石油パイプラインと違って目視できない「パイプ」の実体は一体なになのか。筆者の観測ではどうやら次の三本であるらしい。一つは「日本ミャンマー協会」(渡邉秀央会長)を軸とする経済関係、二つに日本財団会長の笹川陽平氏の国軍と少数民族武装勢力との和平交渉の政治的コーディネート、三つにビルマ語達者な丸山市郎駐ミャンマー特命全権大使のミャンマー政府との直接対話による交渉力。これらはいずれも安倍内閣時代の「官邸人事」である。 
 まず三つ目の丸山大使であるが、外務省の慣例を踏襲せずに大使館内のノンキャリからの抜擢であり当時は波紋を呼んだ人事であった(2018年3月)。渡邉会長は「2013年、当時の安倍首相と麻生副総理と話し合って今後ミャンマー国軍との交流は私がやることになった」と明言している(21年8月朝日新聞との一問一答)。笹川陽平日本財団会長の場合も2013年2月に安倍首相から「ミャンマー国民和解担当日本政府代表」の任命を受けている。つまり丸ごと安倍人事だったのである。 
 2013年にどのような出来事があったかをみておくのは興味深い。「アベノミクス」始動で金融緩和、財政出動、成長戦略の「三本の矢」。 
 参院選挙で自民圧勝、両院の「ねじれ」解消、消費増税を閣議決定、福島第一原発の汚染水流出、東京オリンピック・パラリンピック開催決定、中国・韓国との関係悪化、特定秘密保護法成立などがあった。つまり国会での安定多数という政治的基盤を濫用し、権力の私物化、なりふり構わぬ国民不在の内外政治という「安倍路線」を本格化した時期とみていい。 
 
▽米日軍事同盟強化のための「自由で開かれたインド太平洋構想」 
 その安倍政権が提唱した「自由で開かれたインド太平洋構想」にトランプ政権が公式に同調した(2017年11月の米大統領演説)ことで、「日本外交は長らく欠いていた大きな指針を得た」と日本政府内は沸き立ったという。日本のミャンマー外交の位置づけはその「構想」を抜きにして語れないのだ。 
 当初その「構想」は「インド太平洋ダイヤモンド戦略」と名付けられた。米日豪印の四か国を結ぶと菱形となる。それをダイヤに見立てたわけである。米国のどこと結ぶかというとワシントンではなくハワイだという。何故ならハワイに米軍の統合司令部が置かれているからである。つまり発想の源はあくまで軍事構想だったのである。「戦略」とするといかにも軍事色が強くその広大な地域の関係国の警戒と反発を引き起こすというので耳ざわりのよい「構想」という名称に変えたという経過がある。 
 だがその地域への影響力を急速に高めている中国の「軍事膨張」をいかに阻止するかがメインテーマであることに変わりはない。中国がインド洋に面した石油港と天然ガス・石油パイプラインを完成させたのが2013年なのである。中国はミャンマーに軍港を建設するのではないかとの推測も流れた。ミャンマー国軍は中国との関係を緊密化していった。その動きに対抗してティラワ経済特区が渡邉会長らの主導で突貫工事、完成が2014年である。 
 国際的経済力に比して外交力が振るわない日本の政府、外務省が初めて手にした「日本提唱に米国が合流」という「金科玉条」は手放すわけにいかない。トランプ前大統領は安倍元首相の顔をたてつつその「構想」が「米日軍事同盟の強化」に役立つとみた。ホルムズ海峡への「有志連合」への日本の軍事的合流を期待した。2018年米国太平洋軍をインド太平洋軍に改称、日本の海上自衛隊は2017年以来インド太平洋派遣訓練を続ける。南シナ海では米空母「ドナルドレーガン」との共同訓練、インド洋では米日豪仏の共同訓練、インド軍との共同訓練を系統的に行っている。まさに「ダイヤモンド構想」の内実は軍事先行、軍事強化のための「自由で開かれたインド太平洋」、実はまことに血なまぐさい戦略なのである。 
 本来軍事色の濃い「構想」であるからミャンマー国軍への中国、そしてロシアの影響を削ぎたい。だが軍事援助は不可、となればそれ以外の関係強化はどうするか。国軍将兵の日本への招待を開始(2014から毎年約10名)、国軍系の企業群との提携強化となる。つまり日本の対ミャンマー「独自パイプ」とはまさに「まず国軍ありき」なのである。国民に正当に選ばれた民主政府とのパイプは二の次であって国軍とのパイプこそ一義的意味をもっているのである。   (つづく) 


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