2022年08月24日14時53分掲載  無料記事
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アジア

国軍クーデターを「容認」する日本の対ミャンマー「独自パイプ」 笹川日本財団会長の弁明 宇崎真

 昨年2月の国軍クーデターで、日本政府が強調するミャンマーとの「独自パイプ」がいかに情勢判断を誤ったかをみてきた。日本財団の笹川陽平会長も丸山市郎駐ミャンマー大使も「国軍クーデターはない」と見ていた。だが、中国は豊富な対ミャンマーパイプから「あり得る」とみて注視警戒をしていたし、ミャンマー駐在の欧米の外交官も「国軍はやりかねない」と見て警戒していた。日本だけが国軍の動きを楽観視していたことになる。 
 
▽「沈黙の外交」 
 さすがにその失敗は「独自パイプ」を誇示したい日本政府、外務省にとって極めて痛かったに違いない。笹川会長はクーデター翌日にブログでこう書いている。「1月31日、政府代表2名、国軍代表2名による会談が決裂したことがクーデターの要因になっているようだが、現在、この内容を公表することは差し控えたい」。 
 その後笹川会長は極めて注目すべきことを述べている。「アメリカはじめ各国が性急な経済制裁を実施しないことを願うばかりである。制裁が行われれば中国の影響力が増大するのみならず、日本の外交方針の一つであるインド・太平洋の安全保障の重要拠点を失われることにもなりかねず、日本のこれまでの努力は水泡に帰すことになる」。 
 クーデターに関し笹川会長はその後沈黙してしまう。殺到するメディアのインタビュー要請にもすべて断っている。笹川会長が外に向かって発言したのはクーデターから百日余たった5月13日の「沈黙の外交」と題する長文の「笹川ブログ」においてである。 
 笹川会長はこう言う。「ミャンマー国民和解日本政府代表の笹川はなぜクーデターを批判しないのか」と批判されているが反論はしない。痛痒も感じていない。困難な問題解決にはスエーデンの名外交官グンナー・ヤリング元国連中東和平特使のような「沈黙の外交」が必要である。東京大空襲で奇跡的に生き残り「生き地獄」を体験した者として、「今回の事態が発生した2月1日以降も、人命尊重に向け懸命の説得工作を重ねた。にもかかわらず極めて残念な事態に発展してしまい痛恨の極みであり悶々とした日々を過ごしている。少数民族グループが約75年も政府および国軍と戦ってきたし約135の少数民族が存在するミャンマーは日本で考えるほど単純な国ではない。私の立場はそれぞれの指導者に寄り添い、なによりも関係者から信頼を得ることが大切である。アウンサン将軍が夢見たミャンマー統一連邦国家実現のために犬馬の労をいとわず人生最後のお役に立ちたいと決意している。 
 筆者はこの笹川会長の言葉に嘘偽りはないと思う。停戦和平交渉の仲裁として「計130回を超える訪問を重ね」というのも余程の使命感がなければ出来ないだろう。だが、「沈黙の外交」は複雑な国家間、民族間の矛盾、相克、紛争が主な要因である中東戦争の和平交渉には有効であろうが、今回のミャンマー国軍クーデターへの「沈黙」は暴力と不法行為への「容認」でしかない。 
 そしてクーデターを非難しないという立場の根本的理由を単純明快に「ミャンマーは日本の国際戦略―インド太平洋安全保障―実現の重要拠点だからなのだと説明している。 安倍元首相が唱えトランプ大統領が賛成したインド太平洋安全保障とは、米日豪印の軍事的経済的同盟関係の構築強化であって、ミャンマー国内の民主主義、国民の生命と暮らし、自由と正義などはそもそも基本命題ではないのである。 
 
▽メディアも「独自パイプ」情報を鵜呑み 
 クーデターの当日とその前後、笹川会長は現地にはおらず日本でいつものように多忙な毎日を送っていた。わずかにミャンマー関係では1月7日にミンアウンフライン総司令官と電話対談をしているのが目立つ程度である。その対談の内容は明らかでないが「クーデターの可能性を予知」し得るものではなかったのだろう。その5日後中国の王毅外相はミンアウンフライン総司令官と会談し「尋常でない総司令官の動き」からクーデターの可能性を察知したとみられる。すると、その数日間に国軍内でクーデター計画が突っ込んで検討されていたったのではないかと推測できる。 
 1月上旬から国軍系の政党による「選挙不正の申し立て」がおこなわれ、原告側は敢えて「このケースは国軍も注視している」と強調する。1月20日から国軍のカレン民族連合(KNU)とその武装組織KNPAへの攻撃が激化する。そして26日には国軍スポークスマンが記者会見で「権力奪取は考えていないが法と憲法に則って行動するだけだ」と述べ、地元紙は「クーデターの可能性排除せず」と報じた。 
 1月29日には12カ国の西側外交官が「25日以降の国軍の動きを憂慮する。軍用車両の移動が目立つ」と重大懸念を表明している。沈黙したのは中国と日本であった。同日ミンアウンフライン総司令官は「クーデターあり得る。憲法廃止を示唆」する発言をしている。 
そしてクーデター前日、アウンサンスーチー国家顧問の国民民主連盟(NLD)政府代表と国軍代表の会議が開かれ、国軍側は三点の要求を行ったとみられる。〜挙管理委員会更迭 △修硫爾任料挙不正問題の調査 2月1日開催予定の連邦議会を延期する 
NLD政府はそれらを拒否して予定通りに日程で午後3時開会を通告する。 
 日本政府の「独自パイプ」は1月から表面化した国軍の揺さぶり行動と警告を「国軍によるブラフに過ぎない」と誤認したわけだ。日本のメディアも「国軍との太いパイプ」の情報を鵜呑みにした。 
 その重要時期に笹川会長は現地にいなかったが、あとの二本のパイプは現地で稼働していた筈だ。渡邉秀央日本ミャンマー協会会長と丸山市郎大使である。 
 渡邉会長は2011年以来「ミンアウンフライン総司令官と50回以上面談している」(本人談)とその親交ぶりを誇示し、「2013年から国軍担当を任されている」と主張している。渡邉会長はクーデターを挟む21年と1月中旬から2月19日までミャンマーに滞在した。当然「国軍担当」を自負する渡邉会長はクーデターへの動きを察知していたと思われる。だがこの「パイプ」は、ミンアウンフラインの「メガホン」ではあっても決して日本の「独自パイプ」ではなかった。「クーデターではない。憲法の規定に沿った政権交替である」と国軍トップの主張をオウム返しに語るだけで、日本外務省の方針ともズレを生じてしまった。 
 クーデター以降も「ミンアウンフラインと三回会い電話で5, 6回やりとりしている。(同じことをできる人材がいない)日本外交はいかに貧困か」(朝日新聞デジタル渡邉秀央氏一問一答)との発言をみると、丸山大使との意思疎通もどうだったのかも怪しい。 
 こうして「独自のパイプ」は三本とも有効稼働しなくなった。めっきりとその存在感は薄らいでいる。             (つづく) 


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