2022年08月27日05時29分掲載  無料記事
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アジア

左派の野党勢力の中心はれいわ新選組に向かう  与党との対抗軸を鮮明に築ける政党である

  まずは今年のフランスの大統領選と国民議会選挙について。フランスで今年生まれた野党共闘Nupes(ニューぺス)で左派11政党が結束した結果、131議席を獲得し、マクロンの与党が全577議席中の過半数を割ったことは記憶に新しいものです。その要となったのがジャン=リュク・メランション党首が率いる「服従しないフランス」(LFI)でした。メランションは2008年に右傾化した社会党を飛び出して、左翼党を結成し、その後、「Nuitdebout(立ち上がる夜)」という市民運動の人々の支持を得て、「服従しないフランス」を結成しました。日本のメディアでこの政党名を「不服従のフランス」と書く新聞社もありますが、私は「La France Insoumise」(LFI)の後ろにある単語Insoumiseという形容詞の訳に「不服従」をあてるのが嫌で、というのもその語感がまったく好きになれないからで、私は「服従しない」という主体的かつ覇気のある表現を使っています。 
 
  メランション党首は大統領選挙でも2017年と2022年の第一回投票で、左派の他党候補を圧倒的大差で下していますが、彼のグループの政策の核の1つが原発からの100%離脱です。これは今年、社会党や共産党、ヨーロッパ・エコロジー=緑の党などの左派野党共闘であるNupesの共通政策となりました。これが市民に支持される結果となっています。ただし、フランス共産党が原発廃止に難色を示した結果、「2050年までに100%再生可能エネルギーへ移行したい」という希望的表現になってしまった、とルモンド紙が報じていました(5月21日) 
 
  今年のフランスのW選挙のポイントは左派の中心がついに「社会党」(PS)から「服従しないフランス」(LFI)に移ったことにあります。この新党の結成と発展は社会党が新自由主義化したことに裏切られたと思った有権者たちが選んだ道でした。「服従しないフランス」はかつて労働者の党だった社会党本流の筋を通しつつも、イデオロギーに縛られず、暮らしに基盤を置き、多様な市民運動のパワーを推進力にしているところが新しい現象です。若く知的でパワフルな女性議員を多数擁しているため、メランション自身は70代になりましたが、将来この政党が伸びていくのは確実でしょう。 
 
  2012年に社会党から大統領になったフランソワ・オランドには原発廃止を打ち出す決意がありませんでした。というのも、原発産業の労働者の雇用問題や核兵器の保有がらみの軍需産業のことが頭にあったからでした。一方、「服従しないフランス」のジャン=リュク・メランションは鮮明に、全部リサイクル可能なエネルギーに転換するとして、代替エネルギ−産業育成を掲げています。 
 
  私は2011年、すなわちオランドが大統領に選出された2012年大統領選の前年10月に「フランスの核政策 社会党の大統領選候補者を反核団体はこう見る」という記事を日刊ベリタに書きました。社会党の大統領候補者を選ぶ予備選挙で、オランドと対抗馬だったマルティーヌ・オブリの原発に対する政策の違いを取り上げたものです。オブリ候補は20年〜35年程度で原発全廃を打ち出していたのに対し、オランド候補は「2025年までに原子力発電への依存率を75%から50%に引き下げる」と言っていただけで、それ以上はあいまいにしていました。 
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  これを振り返った時、先述の通り、メランションの政策は社会党のマルティーヌ・オブリたち〜週35時間労働法制を築いた〜かつて労働者の政党だった社会党本流に近い位置にあることがうかがえます。今のフランス社会党の第一書記のオリヴィエ・フォールもそう言ってNupesに参加するかどうかの党内の批准投票で、オランド元大統領ら反対派を押し切り共闘にこぎつけることができたのでした。 
 
  これをアジアから眺めて、日本の政界を振り返った時、左派野党の中心が立憲民主党かられいわ新選組に近いうちに移動する可能性を示唆しているように思えてくるのです。フランスで起きたのと同様の左派におけるランドスライドが起きる可能性です。その理由として、自民党が原発再稼働に大々的に舵を切ると宣言したことであり、野党第一党の立憲民主党が原発撤廃に舵を切れない事(※)と、その支持基盤と言われる労組の連合の芳野代表が野党共闘の基盤を破壊していることです。原発を再稼働するかどうかが必ず大きな争点となるときに、今の立憲民主党には自民党と対峙する力が極めて乏しくなっています。そういうことを考えれば、2011年の福島の原発事故を契機に政治の道を歩みだし、原点を忘れない山本太郎党首の歩みは、現在の野党第一党をしのぐ支持を集める可能性が感じられます。その意味では来年の地方選でれいわ新選組が全国に支持基盤を築けるかどうかが鍵となるでしょう。 
 
  フランスでは2017年に左派野党が集結するのに失敗してマクロン新党に行政府も立法府も持っていかれてしまいましたが、5年後に左派の共闘が成立して新しい地平を築いたばかりです。 
 
 
 
※立民、「原発ゼロ」盛り込まず 参院選公約のエネ政策(共同) 
https://news.yahoo.co.jp/articles/ecea81c912d0b0e964dc86208e475989fff0e672 
「 立憲民主党は3日発表した参院選公約のエネルギー政策を巡り、党綱領や昨年の衆院選公約で記した「原発ゼロ社会」との表現を盛り込まず「原子力発電に依存しない社会を実現」と掲げた。「原発ゼロ」に対し、最大支援組織である連合が難色を示していた。」 
 
 
村上良太 
 
 
■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201807202152055 
 
■日本の大メディアによる、フランスの年金改悪反対デモの伝え方  朝日新聞もNHKもデモへの冷笑的視点で描いてきた 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202001202020581 
 
■パリの「立ち上がる夜」 フランス現代哲学と政治の関係を参加しているパリ大学の哲学者に聞く Patrice Maniglier 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201605292331240 
 
■PARC新作DVD上映会&トーク 『甘いバナナの苦い現実』   鶴見良行氏の「バナナと日本人」から約40年、フィリピン・ミンダナオ島のバナナ農民たちは今? 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201810010323571 


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