2022年10月31日10時30分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202210311030071

政治

フランスのコアビタシオンと日本の4党合意の違い

  政治記者の鮫島浩氏のSamejima Timesでは、自公維に立憲民主党を加えた4党が歩み寄りつつある、という話でした。すなわち、野党第一党の立憲民主党が与党と共同で政策を作るように、政局が変わりつつあるのではないか、という指摘です。その理由としては、清和会の安倍首相が亡くなって、宏池会の岸田首相に移行してから、野党第一党としては組んでもいい相手という風に執行部の見方が転じて、その象徴が野田首相の安倍首相追悼演説だった、と見る見方でした。今は4党で旧統一教会被害者対策法案を作っているようです。 
 
  そのあたりは今後の推移を見守りたく思います。フランスでもよくコアビタシオン(同棲)という形で、与野党が提携したことはあります。左派のミッテラン大統領時代から右派のシラク大統領時代にかけて、大統領と、首相および内閣とで率いる政党が別になっている形です。フランスの場合、大まかに言えば大統領が外交と国防、首相が内政というような割り振りがありますので、国内政治は首相が率いる形です。そして、コアビタシオンは与野党が手を組んだと言っても、政治思想的には大きな違いがあります。 
 
  「では、コアビタシオンの時期には、大統領と首相の間でどのような職務分担がなされたのだろうか。両者の分担は、ミッテラン大統領とシラク首相との最初のコアビタシオンの期間中に、慣行として形成されていった。コアビタシオン期の政治がさまざまな軋轢をともないながらも、重大な支障を来すことなく運営されたのは、老練なミッテラン大統領の手腕によるところが大きいといわれる」(大山礼子著『フランスの政治制度』) 
 
  シラクが率いていた共和国連合(PRP)のちの国民運動連合UMP(そして現在の共和党)は新自由主義で規制緩和を進めていましたし、社会党はフランソワ・オランド大統領が誕生するまでは少なくとも労働者の権利を手厚くする社会民主主義政党でした。手を組んでいるとはいえ、政治の内実はかなり異なっていて、決して歩み寄っていたとは言えない状態です。実際、フランスの社会党を象徴する週35時間労働制が生まれたのはネオリベラリズムのシラク大統領の時代で、内閣は1997年の下院議員選挙で勝利した社会党のリーダーだったリオネル・ジョスパン(1937 - )が率いていました。共和党はこの週35時間制をつぶすために、その後、必死で様々な法案を作って穴をあけてきた、というのが実情です。ジョスパンは社会党の優れた政治家だったものの、2002年の大統領選では決選投票に出場できず、シラク対ジャン=マリ・ルペンの対決になったのは記憶にある方も多いと思います。この敗北でジョスパンは政界を退いてしまったのでした。日米仏英ともに当時の左派政党では「第三の道」というブレア首相やクリントン大統領に代表される流派が主流化しつつありましたが、ジョスパンはそれとは一線を画していたことになります。 
 
  フランスではこのように、たとえ政治思想がかなり異なっていても、国会で多数を握った野党を野党のままにしておくと、大統領を頂く政党が国会の運営をまともにできないので、野党に内閣を渡してコアビタシオンにせざるを得ない、という事情があります。このあたりは、大統領制と日本の議院内閣制との違いもあります。今年、エリザベット・ボルヌ首相が49−3という禁じ手を使って下院での議決をすっとばして予算案を通す反民主的手法を使わざるを得なかったのも、マクロンの与党が選挙で衰退し、下院で多数派を形成できなくなったことが関係しています。 
 
  「・・このコアビタシオンは2002年まで5年にわたって継続した。この間、法的には大統領が再度解散に訴えることも可能だったが、シラクは総選挙で示された有権者の意思にしたがって、制度の議員内閣制的運用を受け入れたといえよう」(大山礼子著『フランスの政治制度』) 
 
  今年のフランスの下院議員選挙でも、左派の野党共闘NUPESが目指していたのは中道(右派)のマクロン大統領と左派のメランション首相とのコアビタシオンでした。メランションとマクロンでは経済政策や外交政策は全く異なるものです。大統領と首相・内閣では協力こそすれども、「歩み寄り」とはまったく異なるものだという認識が必要です。そこには主張のぶつかりあい、葛藤がそのまま生きています。 
 
  こう見ると、フランスのコアビタシオンと今の日本の4党が向かおうとしているらしい与野党の「歩み寄り」とは、まったく異なるものと言えるものです。もちろん、フランスでも下院で勝利した政党が大統領を頂く政党と違っても、政策が大きく異なるかどうかはその時の政局次第です。ただ、過去のフランスの場合を見る限りは、与野党で激しく対立しながらも国会運営を行っていくのに対して、日本の場合は、立憲民主党の現執行部を見る限り自民党との保守連合=大政翼賛的政治を目指し、社共れなどの革新政党を抑えるべく動いているように見受けられます。これもまた、実際にどう推移するのかは政局を見守りたく思います。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。