2022年12月02日22時04分掲載  無料記事
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アジア

中国のロックダウン政策はいつまで続くか  阿部治平:もと高校教師

――八ヶ岳山麓から(403)―― 
 
 日本では、11月24日新型コロナウイルス感染者数は13万3361人となり、連日右肩上がりが止まらない。第8波がやってきたのだ。 
 一方日本政府の新型コロナ感染防止の規制は緩和の一途をたどっている。コロナ感染者数の全数把握の方法は、9月26日から簡素化され、対象を高齢者など重症化リスクが高い人に限定する措置を取った。10月11日から外国人入国者数の上限を撤廃し個人旅行も解禁した。国民相手には全国旅行支援を年明けも継続するという。 
 
 ところがこれとは対照的に、中国政府は11月24日新型コロナウイルス対策としての都市封鎖政策を強化し、全土の計約2万ヶ所でロックダウンをやり続けるという。 
 中国国家衛生健康委員会が発表した21日時点の新規感染者数は2万8127人と前日の2万7095人から増加し、4月のピークに近づいた。南部の広州市と南西部の重慶市が全体の約半数を占めた。死者も新たに2人報告された(ロイター2022・11・22)。 
 23日には1日当たりの新規感染者数が約3万人と最多を記録。今後感染が拡大する恐れがあるとして防疫政策は一段と強化され、各地で臨時の隔離施設を設営するなど厳戒態勢を敷いた。 
 
 中国在住10数年の友人によると、北京市当局も中央政府の方針に応え、警戒態勢を強化した。とくに同市朝陽区は感染状況が深刻というので、居住区ごとに毎日PCR検査しているが、検査地点では行列ができている。 
 スマホに「24時間以内の検査で陰性」という証明が出ないと、朝陽公園、スーパーマーケットや食品売場、病院などひとが集まる場所には絶対に入ることはできない。飲食店は店内での飲食禁止。商業施設も検査で新型コロナ陽性者を確認すると即時閉鎖するという。 
 また、中国当局は動画配信サイトの運営業者らに対し、ワールドカップ・カタール大会の中継時には「観客のマスク未着用や集団でお祭り騒ぎしている場面を突出させたり、国内のコロナ状況や政策と結び付けてはならない」と指示する緊急通達をだした(共同2022・11・22)。 
 ところがワールドカップが始まると、テレビが世界各地のサッカーファンの様子を映し出してしまった。どこでもマスクもせずに集まって大騒ぎをしている。友人は、中国だけが取締まりを厳しくしているという印象を与え、政府に対する不満が高まるという。 
 「新型ウイルスは感染が始まった2年前とは変って感染しても症状は軽い、死亡率も低い、当局が新型コロナとインフルエンザをごちゃごちゃにしている場合がある、もっと科学的に対策をしてほしい」という声は、庶民の間にも広がったとのことだ。 
 だが、北京のネット管理は新疆並みだから不満をもらすことはできない。 
 
 中国の大きな町では、数棟あるいは十数棟のマンションを煉瓦の塀が囲んでいる。出入口は1ヶ所か2ヶ所で、必ず門番がいる。これが「社区(居住区)」である。感染者が一人でも出ると、その人の住むマンションは封鎖となる。いまや北京では、だれもがいつ自分の住むビルが出入り禁止になるかびくびくしながら生活している。 
 友人の居住区では、23日陽性者が出たというので6棟のマンションのうち2棟が封鎖された。ほかのマンションの住民も全員居住区からの出入りは止められた。ところが友人のマンションでも、「無症状だが陽性」という人が確認された。たちまちマンションの出入り口の鉄の扉は、溶接されて完全に封鎖された。溶接とはすごい! 
 陽性者を出した家族は住民に電話で謝罪したという。もちろん買物など不可能だから、わたしは日本からコメでもなんでも送ろうかと伝えたが、彼は当局もここまでは知らんぷりはできない。必要ならネットで注文し、特別の専従者が翌日の朝ドアまで運び、午後にはごみを持ち去る仕掛けになっているという。 
 幸いなことに友人宅は食料をかなり備蓄していたうえに、家族みな運動量が減ってあまり食欲がないというから、しばらくはネット注文に頼らないでも済みそうだ。 
 
 こうした防疫政策に対する異議申し立ては、あちこちで現れている。 
 たとえば11月16日、一部のテレビが伝えたところによると河南省の鄭州大学では、学生が集会を開いて過度の防疫政策に対する反対を表明した。その時出された学生の要求は以下のようなもので、監禁にうんざりしているのがわかる。 
 〇伝染の危険の低い場所、速達公司・図書館・浴室・教室・体育館を開放せよ。〇感染状況を透明にし、事例を公表し、伝染経路を明らかにせよ。〇教育課程の短縮に反対する。講義停止と試験を取消せ。〇有効な対話を求める。当局が何をやるか公開すべきだ(china dijital times 2022・11・16)。 
 
 しかし、これなどまだ優しいほうだ。 
 おなじ鄭州市にあるアップル社のiPhoneを生産する巨大工場周辺で、23日補給金を巡って不満を持つ従業員と当局者がにらみ合い、工員は棒で防護服の集団とやりあうという衝突が起きた。同工場は台湾・鴻海精密工業の傘下にあり、厳しい新型コロナ対策で従業員の不満が高まっていたというから賃金だけの問題ではない。 
 中国の投稿サイト、ウェイボ(「微薄」)に投稿された動画をみると、防護服を着た多数の警察官・警備員の前に工員らしい人が2人倒れて伸びている。生きているかどうかわからない(共同2022・11・23)。 
 すでに日本のテレビには、鄭州や広州の衝突の模様や、監禁状態に置かれた居住区からこっそり外出しようとした人が殴る蹴るの暴行を受け、手錠をかけられたり、電柱にしばりつけられている様子が何度か登場したからご存じの方も多いと思う。 
 
 なぜだれが見ても不当な暴力が振るわれるのか。 
 当局に人権意識がないからだといえばそれまでだが、実際の理由は官僚が行政成績を上げるためである。成績評価は庶民は関係ない、上級がやる。 
 中国共産党最上層がひとたび防疫政策を徹底せよと指示すれば、省だの県だのの機関はより厳格に実施する。受持地域で新型コロナの感染が拡大すれば、上級の指示に忠実ではないことになり、責任者の出世の妨げになるからである。さらに現場では厳格の度合いは一段と高まる。警察官が規則違反者を殴り蹴倒し叩きのめしても、公務員の凌辱行為だとはみなされない。 
 中国の防疫対策・都市封鎖を日本ではロックダウンというが、言いえて妙である。ひとによっては文字通りの「独房入り」だ。 
 
 これに対して、先日の日中首脳会談で岸田首相は、習近平主席にロックダウンを緩めるよう要求したらしい。中国にある日本企業も厳格な人の移動制限を受けており、このままではにっちもさっちもいかないところに追い込まれているからだ。 
 中国にある日系企業でつくる「中国日本商会」は、11月になってから新型コロナ対策の旅行制限措置を不合理で企業活動にマイナスの影響を与えているとして、北京市政府に緩和するよう請願書を提出したとのことである(「共同・中国語版」2022・11・24)。だが、習近平政権はそんな陳情を聞く気はさらさらない。習近平政権は、あまり効果が見られず、損害の大きいやり方を断固続けるつもりである。 
                             (2022・11・25) 
 
 
23日、中国河南省鄭州市の米アップルのiPhone生産工場周辺で発生した従業員と当局者の衝突の一場面とみられる画像(「微博(ウェイボ)」から、共同) 
 
 
阿部治平:もと高校教師 
 
 
初出 :「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/ 
 
 
ちきゅう座から転載 


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