2022年12月18日00時56分掲載  無料記事
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コラム

米軍が単独講和で戦線離脱した場合、日本人は一国で戦い抜く覚悟があるのだろうか  「旧敵国条項」・戦勝国による戦犯の裁判・天皇制の行方

  対中戦争を想定したミサイル増設や防衛予算の倍増計画が閣議決定で勝手に進められていますが、岸田首相や与党閣僚たちを見ていれば、戦略は米軍頼みであることが見て取れます。しかし、前に書いたように、最初はコミットしていたとしても大統領選で米大統領が変わり、新しい執行権力がワシントンDCに生まれた時、戦争を継続するかどうかは未知数です。むしろ、戦争を終わらせると公約に掲げた野党候補が当選する場合もあり得ます。TPPの時を思い出せば米国が言い出しっぺだったとしても途中で抜ける可能性があります。第一次大戦後にウッドロウ・ウイルソン米大統領が世界を主導して作った国際連盟にすら米国自身は参加していません。米国が政権交代が起きる二大政党制の国であるだけでなく、三権分立の国であり、執行権力と議会と司法が対峙しあっている、ということも考えておく必要があります。 
 
  そうした場合、日本が一国で対中戦争を継続しなくてはならなくなる可能性もあります。日米同盟の解釈自体も米国目線で変えられる可能性はあります。米国にとって重要なことは中国の台頭が米国の覇権を脅かすことであり、日本の安全を守ることが第一なのではないことです。もう1つ想定しておくことは中国が第二次大戦中の戦勝国であり、米国や英国、ロシア、フランスなどと並んで国連安保理の常任理事国であることです。国連自体が戦勝国の同盟国の連合であり、日本は敗戦国の地位にあり、ドイツともども今日も「敵国条項」(※)のもとにおかれていることです。ですから日本が最ファッショ化を行い、侵略に着手したら国連決議なしで、いつでも軍事的に処罰されてよいことが認められています。戦勝国であり安保常任理事国である中国が、日本の行動を戦時中の継続として訴えて、対日戦争に踏み切るというロジックで世界にアピールした場合、途中で米国の執行権力が対中和平を単独で結び、日本へのコミットを捨てる可能性がここにあります。すでに、安倍政権時代に「戦後レジームからの脱却」を高々と日本政府が掲げてきたことは、敵国条項に対する判定で中国に有利に左右する可能性があります。 
 
  米国と中国にとって日本は、製造業という面で見れば経済的なライバルです。日本の製造力が消えた場合、中国メーカーにとっても米国のメーカーにとってもシェアを大きく伸ばすチャンスです。さらに中国の製造拠点がある程度ダメージを受ければ米国のメーカーにとってはさらにチャンスが広がります。その意味では、戦争の途中で米国が撤退して日本が再び焼け野原になった場合は、米中およびブリックスで自動車製造であれ、家電であれ、シェアを上げていけますし、場合によっては日本を東西に分けて米中が日本を分割占領する可能性もあります。米国にとっての国益がどこにあるのか、ということを現在のバイデン大統領の見解だけで判断することは時間とプレイヤーが交代する可能性を考慮に入れない幼い判断なのです。それはバイデン大統領や米政権が節操がない、というよりも米国の国家原理がそういう前提になっていることにあります。 
 
  対中戦争ということになれば日本国内でファッショ的な言動が増えるでしょうから、米国にとっては単独講和を中国と結んで撤退する口実が簡単に生まれることを甘く見てはいけません。南京虐殺や従軍慰安婦の否定などもそうしたリスクの1つです。すでにそういう「落としどころ」はシナリオに織り込まれているかもしれないのです。麻生副総裁の過去の一連のヒトラーやナチス擁護発言なども戦犯法廷に容易に提出されるでしょう。これらは中国に対してのみならず、米国に対する敵対行動でもあります。米国にはクーデターなどの動乱に関する国際政治外交分野のプロのシナリオライターが存在して、起承転結のあるシナリオを書き上げて政府に送っているそうです。米国が撤退する可能性が高いのは台湾有事から日中間の全面戦争に移行する局面でしょう。米国にとっては日本を取るか、中国を取るかが迫られますが、この時、米国は調停者の位置に撤退して、中国市場へのアクセスを保持する道を選択すると思えるのです。14億の市場に比べれば1億の市場は小さなものに過ぎません。米軍がベトナムでも、アフガニスタンでもイラクでも、自己都合で現地政府の心配に構わず撤退していったことは必ず反復されえます。 
 
  その意味で第三次対中戦争が天皇制の廃止につながるリスクがあることを日本政府は考慮に入れて、それでも対中戦争にあえて踏み切るのかを国民に選挙で問う必要があると思います。次の戦争の潜在的な戦勝国は米国ではなく中国であり(途中で変節する米国は日中戦争の調停者になり得る)、天皇を擁護したマッカーサー元帥もいないのです。その場合は戦争を煽ったとして岸田首相や林外相、萩生田政調会長など日本政府の現在の閣僚たちとメディアの幹部たちは皆、戦犯になって裁判を受けるでしょう。中国と米国の関係は新聞記事に出てくる表層だけではとらえられない深い結びつきがあります。 
 
  そういうわけで日本人にとって戦争ということになれば、食料自給も含めたあらゆるリスクを想定しなくては第二次大戦よりも一回りも二回りも悲惨な再現になってしまいかねません。そして戦争は現在の中国国内における習近平国家主席の立場をさらに強固なものにします。第二次大戦後の戦後処理は日本人にとっては極めて甘いもので、中国や台湾、韓国・北朝鮮などの戦後の悲惨さを日本人は体験していません。そのことが今の政権の傲慢さの元凶になっています。台湾のために戦うというなら、日本が台湾と運命を共にする覚悟が問われているのです。 
 
 
 
 
※旧敵国条項 「「日本は世界平和に貢献していく」旧敵国条項の削除、米へ異例の打診」(朝日新聞 2021年) 
https://www.asahi.com/articles/ASPDH5SM7PDBUTFK00P.html 
 
※国連憲章の「敵国条項」とは? − 戦後76年、日本はいまだに「敗戦国」のままなのか(公務員総研 2021年) 
https://koumu.in/articles/20210701n 


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