2022年12月23日06時16分掲載  無料記事
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コラム

フランス語学教材に画期的貢献をしている久松健一教授の動詞に注目した参考書群

  英語の一人勝ちという状況が冷戦終結後、どんどん強まり、さらにまたアラビア語や中国語の学習者の増加などにも伴い、かつて英語に次ぐ学習者が多かったフランス語の語学学習はじり貧と言える状況です。そうした逆風の中にあって、毎年のように革命的なフランス語学の参考書を作ってきた天才的な教授が久松健一氏(明治大学商学部)でした。 
 
  久松氏の参考書の最大の特色は、実践を最重用課題としていることで、その要はラテン語に源を発する言語に共通して言える動詞の活用の徹底的訓練にあります。かつて早大教授をつとめたスペイン語学の須里順平教授も言っていましたが、ラテン語系の言語は、1にも2にも動詞の活用の学習です。戦前戦中の旧制高校の時代は、活用にもっと力を割いていたのかもしれません。戦後、外交はアメリカに従属するだけになったので、自国の独立した外交で生きる道を切り拓こうとする動機がなくなってしまったことが、語学の学習にも災いしているのではないでしょうか。今日の英語一強という状況は、独立を放棄し、アメリカの要求はすべて飲むという従属的国民の心性を象徴していると思います。 
 
  久松健一氏の参考書は多数あり、私自身もすべて目を通したことはありませんが、近年出版された中で私が注目しているのは4つあります。 
 
1、「暗記本位」仏検対応 フランス語動詞活用表(駿河台出版社) 
 
2,仏検対応 フランス語 動詞宝典 2冊 (駿河台出版社) 
 
3,フランス語 代名動詞を軸とした表現辞典450(駿河台出版社) 
 
4,本気で鍛えるフランス語ドリル (国際語学社) 
 
 
  この4つです。動詞の活用という地味なものは、辞書の巻末に出ているので、それで勝手に学習してくれ、という先生が多いと思います。大学の語学の時間でも学習時間の制約から、どうしてもそうならざるを得ないところはあるのかもしれません。久松氏はおそらく、その「勝手に学習してくれ」という最も大切なところが、ほとんどというか、あまりというか、学習されていない状況に着目したのではないかと想像します。多くの場合、教科書に出てくる典型的な動詞を数個学習したら終わり、なのです。これでは実践には全然不足します。まず愚直にであれ、実際に実生活で使う頻度の高い動詞はあれと同じパターンだからと言って省略せず、全部活用を愚直に書き出し、1つ1つ使い方の例を明記したのが「動詞宝典」であり、これは辞書におまかせだった動詞の学習に根本的な革命をもたらすものと言って過言ではありません。 
 
  革命と言う意味では、駿河台出版社の70歳の社長が高齢ながらフランス語の学習を始めて、自分で作ってみたという従来の動詞活用表を応用した参考書も革命的でした。従来のフランス語の動詞活用表とは縦横が逆になっている画期的活用表を用いた「暗記本位」フランス語動詞活用表は革命的で、私が久松教授に瞠目したのもこの書でした。この参考書の最大の特徴は、実践で使わないフランス語の動詞活用は全部カットして、口語で使う活用だけに絞って学習範囲を単純化し、さらに目の動線を逆にすることで今までになかった頭の動かし方を可能にしたことにあります。この選択と集中によって、中級の語学者を増やすことが可能になるでしょう。 
 
  また「代名動詞を軸とした表現辞典450」は、フランス語に特有の「私は自分の手を洗う je me lave les mains」というような「se+動詞」のパターンの表現、日本人にはちょっと使いずらい表現に絞った参考書で、これも痒いところに手が届くものでした。 
 
  さらに「本気で使えるフランス語ドリル」は、動詞の表現を広げるためのドリルで、これは国際語学社から刊行されました。 
 
  こうしてフランス語学の参考書について書くと、反米と思われるかもしれませんが、私は決して反米ではありません。ただし、英語だけやればよい、という英語一強を支持する考え方だと、世界が多極化しつつある今の世界に日本が可能性を生かしていく際の大きな障壁になると思います。語学の学習を通して、様々な文化を学ぶことが、平和に貢献するのだと思います。ここで久松氏の功績を紹介しましたが、同じことはスペイン語やイタリア語でも成り立つと思いますし、おそらく他の言語にも応用できる考え方があると思います。すなわち、その言語の学習にとって、最も地道で、最も必要な作業をオミットせず、その作業に付き添ってくれる参考書の大切さです。 
 
  日本のフランス語の分野における人材育成は、多くの場合、フランスの大学に留学して語学の運用能力を身に着けた人が日本で教える場合が多く、「あとは家で勝手にやっといて」という部分は、留学中にエリートだけが「勝手にやらざるを得ない」環境の中で克服する課題なのではないかと思います。しかし、みんなが留学できるわけではないので、「あとは勝手にやっといて」という常識は、日本国内だけで学ぶ学習者には大きな壁になっているのです。久松氏の参考書は「あとは皆さん、家で勝手にやっといて」という部分を拾い上げ、伴走してくれるものです。そういう温かさがある参考書だと私は思います。 
 
  このことは、フランス語を大学で学んだ人の中で、どのくらいの割合の人が卒業後10年、20年、30年で継続学習し、語学運用能力を積み上げているかを追跡調査し、英語の場合と比較してみたらどうかと思えるのです。すなわち、語学学習の「歩留まり率」の調査です。結果はわかりませんが、もし限られた卒業者だけしか、その後、語学を継続していないのであれば、フランス語の語学学習の環境にとっても、もしかしたら大きな課題になっていると言えるのかもしれません。すなわち、フランス語で新聞を読んだり、ネットのニュースを聞いたりできる力まで至れなかった学生は、フランス語の学習の成果を全然享受できないまま、無駄に時間を使ったことになるのです。大学時代の4年間の中で、少しでも学んで得したな、という経験を持つと持たないとで、その後の人生でのフランス語の学びは正反対になるでしょう。そのことを考えた時、実践に根差した久松教授の参考書群は、まさに重要な位置にあると私は思っています。つまり、語学学習の「歩留まり率」にプラスになる参考書だと言えます。 


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