2023年01月13日10時09分掲載  無料記事
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人類の当面する基本問題

(49)人類は自滅の危機に瀕している (I)核兵器使用の可能性 落合栄一郎 

 現今、多くの人、特に若者が、人類が大変な状態になっており、生存があやふやと考えておられるようである。それは、特に、地球の温暖化、そして気候変動が人為によるもので、それに十分な対応ができていないので、2035年ぐらいまでに、CO2排出ゼロにしなければ、海水面が上昇して多くの大都会が住めなくなるなどといった脅しによって、そのためには、CO2以外の温室効果ガスも含めて、排出を減らすためには、農業の多くも廃止しなければ、などといったとんでもない科学(と称せられる)を持ち出して、人類の食糧源も少なくされようとしている。こうした動きは、人類を危機から救うという名目を持ちながら、逆に人類(全体というより、少数を除く大多数)を危機に陥れようとしている。そして場合によっては、そうした人物達も含めて、人類全体、地球上の生命の多くも危機に晒される可能性が大である。一方、核兵器に代表されるように、科学を悪用するケースがある。今回は、数回にわたり下記のような問題について簡単に検討してみる。 
「核兵器使用の可能性」「核電力を諦めない」「生物兵器化、人口削減」「気候変動、脱炭素、農業破壊」「少数派による科学・人類の支配」 
 
(A)ウクライナ問題に関連して 
 
 2022年3月に始まったウクライナ問題は、以前からの経緯を把握していないと、単なるロシアのウクライナへの不法な侵入と考えがちである。第2次世界大戦では、ナチスドイツが、ソ連を陥れることが最大の目的であった。欧米側も、ナチスドイツと戦ってはいたが、共産主義国ソ連の壊滅を望んでいて、ナチスがソ連を攻撃するのを邪魔しなかった。実は、それ以前から、西欧はロシアを潰そうと何度も試みてきた。よく知られているのが、ナポレオンによるロシア侵略である(失敗)。第2次大戦直後から、米英は、ドイツ政策を継承し、当時開発されていた核兵器によるソ連破壊を画策し続けた。その意図は、冷戦という方で、戦後45年も続けられた。1990年には、西欧側に好都合なエリツインを立て、1991年にはソ連邦は崩壊し、欧米側は、唯一の支配者となった。しかし、米英側は、ロシアをも支配下に置きたいと思っている。そして、おそらく、天然資源に富むロシアを支配し、それを搾取する意図があるかも。ウクライナでも、すでに米国の企業家たちが、農地その他の資源を取り込もうとしている様が堤末果の最近の著作からも見て取れる(注1)。 
 こうした意図のもと、多くの東欧諸国を抱き入れ(NATO加盟)、最終前線地域であるウクライナで、ロシア攻略を目的に、軍事力強化などに力を入れてきた。米国の後押しで行われたウクライナでの2014年のクーデターで、選挙された大統領を追い出した。その折、東部のドンバス地域のロシア系住民は、そうしたクーデターに反対し、それに対してキエフ側は、そうした反対者(ロシア系)を弾圧・虐殺し始めた。この対立を収めるべく、ドイツ、フランスなどの仲介で、ドンパス地域に自治権を与えるべくミンスク合意を打ち上げた。これが、実は、ウクライナ軍事力を強める時間稼ぎ(そしてやがてロシアへの侵略へ)のために行うという見せかけの合意に過ぎなかったと、ドイツの元首相メルケルが白状したし、フランスの元大統領フランソア・オランドもメルケルに同意の発言をした(注2)。ウクライナはこうした合意を実行に移す努力はせず、ドンパス・クリミアなどへの攻撃を繰り返し、さらに大々的に押さえ込む計画を立てていたところ、ロシアがドンバス地域住民支援の名の下に軍を進めた(2022.02.24)。 
 ロシアは、最初から、ドンバス地域の安全性、そしてウクライナの中立(NATO加盟せず)を基本に停戦することを主張しているのだが、こうした条件を呑んで停戦することは、NATO (米英)側の意図が挫折することであって、彼らは承知できず、ロシアが折れて停戦するまで、軍事その他の援助を続けるとしている。アメリカだけで、2022年1年間(2月24日から)で、112ビリオン・ドル(1120千億ドル、やく15兆円)相当の金と兵器をつぎ込んだ。そして、ウクライナの軍事力の低下を、NATO/EU側からの兵士で補う(NATO/EUの軍事参加)ことをやっている。こうしたことは、欧米側が、ロシアを支配下に置くまで、手を抜かないという意図をはっきり示している。 
 2022年10月には、ウクライナ東部の4州で住民投票が行われ、圧倒的多数で、この4州は、ロシア国に所属することになったし、それをロシアは承認した。ウクライナ政府側は、元々ウクライナであった州なのに、力で乗っ取ることは認められない、どうしても奪還すると攻撃を強めている。このあたりの事情、すなわち、ソ連解体時にウクライナがどう独立したか、南東部はロシア側に留まりたかったのか、キエフ側に付きたったのか、そしてどうして現在の形になったのか、十分に調べる必要はある(注3参照)。もちろん、米英・NATO側は現在のウクライナの主張を後押ししている。この辺りの問題に関しては、ロシア帝国時代にロシアが拡大を図り、周辺地域を併合しようと努力したし、第2次世界大戦後のソ連邦に入れられて、苦痛をなめた国家もあることは事実で、そうした国の市民がロシアへの反発意識を持っており、現在のウクライナのやり方を支持してもいるようではある。一方、ロシア側にしては、西側から常に攻撃されてきたという意識も持っている。そうした意識の1例として、朝日新聞の2022年6月8日の記事(注4)を揚げておく。 
 ウクライナ問題では、ロシアの経済封鎖、それに伴う西ヨーロッパでの燃料不足、世界各地での食糧不足、それらが原因で、インフレーションなど、様々な問題が庶民を苦しめている。もちろん、ウクライナの市民の多くは、より深刻な苦悩を強いられている。一刻も早く停戦に持っていくべきである。 
 しかし、ウクライナは、ロシア国内の軍事施設や飛行場などを攻撃するなどのロシアへの攻撃を始めた。これは米英の後押しで行っている。こうした動きはロシアの最初からの要求、すなわちウクライナの中立化に反するし、欧米側がロシア支配への道へ歩み出したことを示唆する。ロシアの反発を引き出し、戦争規模の拡大(全面戦争)を画策している可能性がある。ロシアがこれに乗ると、核兵器使用の可能性が高まる。NATO諸国には、アメリカの核兵器はすでに配備されているので、そうなれば、核戦争に進展する可能性は非常に大きい。核による破壊は、西欧に、そしておそらく北米大陸にまで拡散するであろう。大被害を及ぼした広島・長崎の数千倍の被害を地球の多くの地域に及ぼすことになる。核爆発による破壊・死傷ばかりでなく放射線被ばくによる人類や他の生物への影響は甚大であろう。人類の文明は、消滅せざるをえない。起きて欲しくない。しかし、この地域では起きなくとも、この地球上には、まだ他に、核戦争を起こしかねない地域もある。 
 
(B) その他の地域 
 
太平洋側では米中の対立が根本的問題で、米英(NATO)の1極支配実現のためには中国は大変な障害である。ウクライナでの結果によっては、米英・NATO側が1極支配を断念するか、または、ロシアをかなりの程度制覇したとすると、中国への圧力を強めるであろう。ウクライナに、ロシア殲滅の役目を負わせるために、米英・NATO諸国がウクライナ軍事力を拡大したと同様に、米英、特に米国は日本をウクライナ的要衝とするであろう。それに備えるために、現在の政府は、沖縄とその周辺での軍事力の強化、敵基地攻撃用の軍事力も含めて軍事力拡大に力を入れている。これはアメリカの軍需産業の利益を上げるためでもあるが。米中が軍事衝突に突入すれば、その展開の方向にもよるが、いずれは核兵器使用につながる可能性はある。 
 国家間の衝突に、核兵器使用の軍事的レベルにまで進行する可能性があるのが、イスラエル対イラン。イスラエルはすでに十分な核兵器を所用している。一方イランは、核開発に熱心で、核兵器を作る能力は十分に持っている。他には、インド対パキスタン、インド対中国などがあるが、これらの国家間の紛争原因は、ほんの一部地域の所属問題で、核を使って取り合うほどの紛争に発展することはなかろう。 
 
(C) 近い将来の核兵器廃絶の可能性=ゼロ 
 
 それでは、核兵器廃絶の可能性はどうであろう。核兵器禁止条約は、国連で、122カ国の賛成で、2017年7月に成立、2021年1月に発効した。しかし、核保有国とその配下(NATO諸国、日本、オーストラリアなど)は反対、会議に参加もしなかった国もある(日本も)。 
 このような条約のみでは、核兵器廃絶は到底できないであろう。アメリカにしろロシアにしろ、軍事力の最終的部分は核兵器にあり、その改良(より使用し易く、有効に)、生産に関与する企業は、いろいろな意味で現政権に深く関わっており(たとえば、「アメリカの巨大軍需産業」(広瀬隆、集英社、2001年)を参照)、その意に添わない政権は、いろいろな仕方(選挙の介入など)で排除される。こうした政治・経済体制がアメリカを支えており、企業利益増大のためには、戦争がある方が良い。 
 どうするか。核兵器禁止条約は、国連加盟国のやく60%が参加して成立したが、こうした国々は、核兵器などをもつには程遠い国々で、そこからの掛け声だけでは、核保有国を動かすことはできない。核兵器は持たないが、保有国との関連で、核兵器を持たされたり、核兵器の傘を期待している国は、禁止条約に反対の立場を取ったが、それらの国の国民の多くは、核兵器の危険性は理解し、その使用には反対しているであろう。こうした国々が、少しづつでも、核兵器禁止条約に参加していく必要がある。特に、世界最初の原爆被爆国として、日本こそが率先して、条約を批准すべきである。日本国民は大挙して政府を動かすべきである。そして、条約への参加(批准)国が、80%ぐらいになれば、核保有国への圧力が増し、核保有国の市民に、核兵器保有の危険性の意識を高め、核兵器生産企業の廃業の雰囲気が醸し出されるかも。 
 人類は、核反応を発見したという科学的な成果を応用して、直ちに戦争(人殺し)の道具を作る、などというとんでもない考えを、残念ながら、持ってしまっている。そして、作ってしまったら、それからの利益を得る側は、なかなか放棄しようとしない。核兵器をこの地上から廃棄しなければ、何らかの機会に、使用され、使用されれば、相手は核兵器で応じざるを得ない。それは人類の終焉を意味するであろう。今世紀のうちになんとか人類は核兵器を地上から消滅させることができるであろうか? 
 
(注1)堤未果「ルポ:食が壊れる」(文春新書、2022.12.16発行) 
(注2)https://www.rt.com/news/569036-merkel-minsk-accords-ukraine/ 
    https://www.rt.com/news/569201-hollande-merkel-minsk-ukraine/ 
(注3)https://www.rt.com/russia/569302-russia-could-have-prevented-conflict/ 
(注4)https://www.asahi.com/articles/ASQ675WJZQ67UHBI01V.html?iref=comtop_7_01 


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