2023年03月11日11時08分掲載  無料記事
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アジア

ミャンマー「夜明け」への闘い(20)国軍が村を焼きつくす 西方浩実

6月19日。最近ミャンマーで、色々なものが燃やされている。1週間ほど前には、軍の攻撃を逃れてジャングルで暮らす避難民への支援物資が、軍によって燃やされた。Facebookで拡散される画像には、黒い灰になったお米や薬の残骸。3日前には、ミャンマー中央部の乾燥地帯にあるキンマ村が焼き尽くされた。焼け跡に座り込んで号泣する人たちの動画。柵の中で黒焦げになった家畜の写真。 
 
▽村を離れた住民はジャングルへ 
それにしても、なぜこんな田舎の村が燃やされなければならなかったのだろう。ミャンマー人の同僚に「何か特別な村なの?」と聞くと、こんな事情を教えてくれた。「数日前に別の村で、軍が交代させた村長(軍の息がかかった人物)を襲撃しようとした集団がいたらしいの。結局それは未遂に終わったんだけど、そのうちの一人が乗っていたバイクのナンバーを軍が調べたら、バイクの持ち主として登録されていたのが、キンマ村の人だったんだって」 
 
はぁ?と、思わず耳を疑った。そんな何の証拠もないようなことで、250軒あまりの家を灰にしたのか!・・・というのも、バイクの名義人は、使用者とは違うことも多い。だから仮に、そのバイクがキンマ村の住民名義で登録されていたとしても、実際そのバイクを運転していた人がキンマ村の名義人その人かどうかはわからないのだ(注)。外国人の私でも知っているそんな事情を、軍が知らないはずはないと思う。 
 
もちろん、もし本当にその集団のうちの誰かがキンマ村に住んでいたのだとしても、村をまるごと燃やす理由には到底ならない。それでも、こうして周囲の関係ない人を巻き込んで脅すのが軍のやり方だ。 
 
軍による見せしめを、この数ヶ月間でいったいどれほど見ただろう。デモ隊をかくまっただけの人が殺され、CDM(市民不服従運動)に参加した公務員の家族が拘束され、軍を攻撃した人たちと同じ少数民族が暮らす村々が空爆された。本当に、卑劣。 
 
村を焼かれたキンマ村の住民たちは、村を離れた。ある人は市街地へ、ある人は近隣の村へ、ある人はジャングルの中へ。連日しのつく雨のミャンマーで、無事に暮らしていけるだろうか。 
 
Facebookではすぐに、有志による寄付の呼びかけが始まった。キンマ村に心を寄せる人たちによって、投稿は次々にシェアされ、どんどん寄付が集まる。ミャンマーはかつて、4年連続で世界寄付指数ランキング1位を誇った国だ。世帯調査には、支出の欄に「食費」「教育費」などと並んで「寄付」があるほど、喜捨の文化が根付いているのだ。 
 
きっとたくさんの人がお金を送ったのだろう、しばらくすると寄付を集めた近隣村の住民が、Facebookに写真を投稿した。「みんなのおかげで○○村にこんなに物資が集まりました!」。その投稿には、どんどんコメントがつき始めた。喜びや感謝のコメントではない。「村の名前は出さない方がいい」「早く投稿を消さないと軍が来る」 
 
・・・もはや寄付さえも危険行為になってしまったのだ、と改めて思う。軍はミャンマー人の精神や文化をも破壊している。 
 
▽「私の村もいつか……」 
田舎で暮らす両親をもつ友人は、キンマ村の話をしながら、ふと「私の村も、いつ燃やされるかわからない」と不安げな表情を浮かべた。「えっ、どうして?何か狙われる理由があるの?」と聞くと、彼女は「特別な理由はないんだけどね・・・」と言いつつ、村の事情を話してくれた。 
 
彼女の故郷は500世帯ほどある大きな村で、小さな公立病院があるそうだ。その病院の医療者はクーデター後にCDMに参加し、病院には医療者がいなくなったので、軍はかわりに近くの軍病院から軍医を派遣した。それだけなら良かったのだが、なぜかその病院には兵士も駐屯し始め、村における軍の拠点ができてしまったのだという。 
 
当然、ほとんどの村人はそれをよく思わない。それに対し、良く思われていないことをわかっている軍は、警察官を動員し、連日のように夜中に村の人たちを逮捕して回るようになったという。先手必勝とばかりに、疑わしきを罰しているわけだ。「軍政下に僕らの人権はない」と話していた同僚の顔が浮かぶ。 
 
「だから、村の人たちはずっと緊張しているの。もし村の人が精神的に限界に達して、軍に対して何か行動に出れば、私の村も一気に焼かれてしまうかもしれない」と、彼女は不安げに言う。ミャンマーの農村部は、木や竹でできた家が多い。一旦火がつけば、容赦なく燃え上がり、数分後にはすべて灰になるだろう。 
 
「私の両親は高齢だし、特に父親は心臓と肺に持病がある。もし村が焼かれたら、父はきっと逃げられないと思う」。以前、お父さんが入院したときには、故郷に飛んで帰っていた彼女。その不安を思うと、胸が締め付けられる。こういう思いをしている人が、ミャンマー中にいったいどのくらいいるんだろう。不安な日々が続く。 
 
<注>バイクを国内生産していないミャンマーでは、ほとんどのバイクが中国やタイからの輸入。輸入にあたっては、まず輸入業者などがバイクの持ち主として名義登録をする。そのバイクを購入した人は、購入後に名義変更をしなければならないが、その手続きにはお金がかかる上、変更しなくてもあまり問題にならないので、前の名義のまま使う場合が多い。 


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