2023年03月19日12時03分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

男女の平等を阻害する世襲政治 〜経済低迷の主犯が世襲政治にあり〜

 世の人々の眼にも現在の日本の没落の元凶に凡庸で、政治家として立候補する真の動機に欠ける世襲制度の政治があることはくっきりと見えてきたと思われます。これは江戸時代さながら、岸田首相の秘書官から、政治家としてデビューするに際して家系図をネットで示した岸家の後継者まで、アンシャン・レジーム(旧体制)の存在を明確に見せています。フランス革命における旧体制とは、王侯貴族とカトリック教会の聖職者が特権階級として、その他の平民を統治する差別社会でした。日本は今も、実質的に日本の方針を決める政治家という重要な職業が世襲で決められる割合が他の先進国よりもずっと高いとされています。特に自民党では世襲政治家が3割以上に上るとされます。 
 
「世襲議員は衆参で180人弱いるが、民主党が23人で、残りの150人余は自民党だ。世襲率(全議員に占める世襲議員の比率)は民主党が10%なのに、自民党は4割弱に上る。宮沢氏以後の10人の首相のうち、村山氏、森氏を除く8人が世襲議員だ。安倍前首相と福田現首相は父親の秘書の後、父親の選挙区から当選した「究極の世襲政治家」である。」(2008年 東洋経済:塩田潮『自民党議員の質が劣化、世襲率4割が原因!?』) 
https://toyokeizai.net/articles/-/1431 
かつては政治は男の仕事とされ、女性に参政権が与えられたのも1946年4月の衆院選挙が最初でした。もし自民党が男女平等の思想を持っていたなら、そもそも自民党の世襲議員においても女性議員の比率がもっと高くてもおかしくないはずです。日本の衆議院では女性議員の割合は9.7%に過ぎません。 
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03.html 
  女性の議員の割合について、他の先進国と大きな差がつけられたのはこの30年ほどの間です。そして、この30年ほどの間こそ、日本では賃金が上がらず、他の先進諸国の経済が発展しているのと反対に、日本では労働者の実質賃金が低迷したまま、潤うのは一部の層だけで大衆は精神の活気が消え失せ、経済の没落も深まっていったのです。以下の全労連の実質賃金指数の推移の国際比較のグラフを、女性議員の割合を比較した先ほどグラフと見比べてみてください。1997年を100とした時、2016年はスウェーデンが138、フランスが126、英国(製造業)が125、米国が115、日本は89です。この2つのグラフこそ、日本の産業社会のアキレス腱が明瞭に浮き彫りになっているように思われます。派遣労働の拡大と非正規雇用の広がり、男女の差別、世襲政治など日本社会の膿が集積しているのがわかるでしょう。そして、おそらくは、ここに世界における日本の没落の大きな原因があるのです。 
https://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf 
  企業は利益を上げていながら、内部留保を積み上げるばかりで、労働者に還元されなければ消費も滞りますし、家計は節約に追われるのみです。経済学者の野口悠紀雄氏は次のように指摘しています。 
 
 「そこで、年間平均賃金額について、2000年に対する2020年の比率を見ると、つぎのとおりだ。韓国は1.45倍と非常に高い値だ。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスは、1.2倍程度だ。ところが、日本は1.02でしかない。つまり、この20年間に、実質賃金がほとんど上昇しなかったのだ。実質賃金が上がらず、かつ円安になったために、ビッグマック指数で見た日本の地位が低下したのだ。」(東洋経済:野口 悠紀雄 『日本人は国際的に低い給料の本質をわかってない アベノミクスにより世界5位から30位に転落した』) 
https://toyokeizai.net/articles/-/458676 
  経済で最も重要なものは実質賃金であることは言うまでもありません。ところが日本ではここが軽視され、ほとんど進歩していなかったのです。それは政治家が国民の生活を重視していないからです。まさに男が大半を占める世襲議員たちの眼が届いていない領域こそ、庶民の日々の暮らしであることは明白です。実際、国会答弁を聞いていても、感覚が異なる発言も多々聞かれます。こうした政治が国民の窮乏化を招いているのです。そして、海外にはふんだんに金をばらまいていますが、それは多国籍企業のビジネスのためでしょう。しかし、そうした潤う企業収益からの庶民へのトリクルダウンはなかったのです。本来、一定の為替政策を行えば利益を被る人と不利益を被る人があり、その不公平な差を埋めるために政治家なら国民への手当てを行う必要があります。ところが、それはなかったのです。安倍政権のアベノミクスの理論を担保した教授は10年後にこんな発言をしています。 
 
 「大規模な金融緩和を中心とした安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の指南役として、当時内閣官房参与を務めた浜田宏一米エール大学名誉教授(87)は本紙のインタビューで、10年に及ぶ政策の効果について「賃金が上がらなかったのは予想外。私は上がると漠然と思っていたし、安倍首相(当時)も同じだと思う」と証言した。大企業の収益改善を賃上げへとつなげる「トリクルダウン」を起こせなかったことを認めた。 」 
 
 「『最近の私は、アベノミクスはトリクルダウンではなかったと思っている』と立場を転換。理由として、政府が企業に賃上げを呼びかけるなどの政策を取り入れていたことを挙げた。「これまでトリクルダウンのようなことをやっていると誤解していた。反省している」と述べた。」 
(東京新聞:「賃金上がらず予想外」アベノミクス指南役・浜田宏一氏証言 トリクルダウン起こせず…「望ましくない方向」) 
https://www.tokyo-np.co.jp/article/237764 
  本質は不公平な政治です。安倍首相から知恵袋を含め、皆庶民の家計の状況を知らないのだから、経済が失敗するのは当然でしょう。その理由は江戸時代の身分制度とさして変化していないこの実質的に現在も存続しているばかりか、ますます強化してきた日本の身分制社会にこそあると思います。世襲政治家たちは庶民が窮乏しても、痛くも痒くもないというのが本質だからいつまでも続くのです。そして、この世襲政治=女性が政治に参加していない(あるいは、参加できない)状態こそが、政治と国民がかけ離れている根源にあります。 
 
 
 
■グローバル時代の「ルイスの転換点」 〜アベノミクスの弱点〜 村上良太 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306070012005 
 
■スティグリッツ教授(経済学)とグローバリズム 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306272249484 
 
■ジェローム・カラベル(米社会学者)「トランプ主義は生き残る」 〜アメリカの民主党と共和党の支持層の逆転現象〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202105090128010 
 
■「Democratic Debacle 民主党の敗北」The defeat of Hillary Clinton was a consequence of a political crisis with roots extending back to 1964. ヒラリー・クリントンの敗北の根っこは1964年に遡る ジェローム・カラベル(社会学) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202002290302266 
 
■フランスの年金制度改革反対の最前線にAttacの女性たち〜替え歌とダンスで盛り上げ市民100万人単位の動員の起爆剤となる 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=202303152318463 


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