2023年03月25日13時39分掲載  無料記事
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外国人労働者

圧倒的な外国人の存在感 人口全国一の川口市 日本の近未来図か 柳田龍次

 日本全国の市区町村の中で、2020年以降、外国人人口が最も多いのが埼玉県南部の川口市だ。20年末時点の法務省統計によると、荒川を挟んで東京都に接する川口市の外国人人口は全国1位の3万9270人。2位は東京都新宿区の3万8856人、3位は東京都江戸川区の3万8115人、4位は東京都足立区の3万4380人、5位は東京都江東区の3万1920人となっている。10位までは7位の大阪市生野区を除き、すべて東京都の区部だ。https://honichi.com/news/2021/04/30/zairyugaikokujinsu/ 
 日本のメディアでも近年、その事実が注目されており、NHKによると、新型コロナ以前の19年まで川口市の外国人人口は「新宿区、江戸川区に次いで3番目」だったが、新型コロナ後「他の地域が減少して、川口市だけが大幅に減少しなかったことで」、1位に浮上したという。https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20220526a.html 
 
▽中国語だけの自販機も 
 川口市の人口は約60万7千人に対し、江戸川区は約69万人と上回るが、新宿区は約35万1千人と大幅に少ないため、外国人人口の密度では新宿区が上回る。新宿区にはコリアンタウンとして知られる百人町(新大久保駅周辺)もある。ただ、居住していなくても通勤・通学や繁華街に繰り出す日本人が新宿区は極めて多いことから、外国人はさほど目立つ存在ではない。それに対し、川口市並木2丁目にあるJR京浜東北線西川口駅を中心とした川口市での外国人の存在感は圧倒的だ。通勤客の帰宅時間帯を過ぎた夜間には「日本人が少ない」という印象さえあった。 
 西川口駅周辺で驚かされたのは、中国語だけの看板を多数見かけることだ。フィリピンの場合、これは禁止されており、日本語を含めた外国語の看板には必ず英語かフィリピン語を併用しなければならない。日本にそのような規制はなく、むしろ中国語の看板しかない中華料理店が「ガチ中華」と呼ばれて日本人客にも人気を得ている場合もある。 
 さすがに驚かされたのは、西川口駅西口で見た中国語だけで書かれた飲料水などの自動販売機だ。日本のエスニックコミュニティーをこれまでも数多く見てきたが、外国語だけで書かれた自販機を見るのは初めてだった。 
 
▽フィリピン人4位、トルコ人5位 
 川口市によると、外国人の国別人口のトップは中国人で、2位がベトナム人、3位が韓国人、4位がフィリピン人、5位がトルコ人。うち中国人の比率は相当数に上るとみられる。トルコ人のかなりの部分はトルコ国籍のクルド人で、トルコからの独立運動を巡る迫害などを理由に日本に難民申請をしている人々らとみられる。ちなみに川口市に隣接する蕨市にもクルド人は多く、中東での彼らの居住地区はクルディスタンの呼ばれていることから、事情通のジャーナリストの間で蕨市は「ワラビスタン」とも呼ばれている。 
 この地域に多国籍の外国人が集住するのは、東京都内の繁華街である池袋や新宿まで電車で30分以内と近く、かつ住居の家賃が都内に比べるとかなり安い点ためとみられる。賃貸相場を調べると、川口市に隣接する東京都北区の家賃が1Kでも7万円台後半になり、かつ物件が少ないのに対し、川口市は1Kなら4万円台からあり、かつ物件が豊富との印象がある。外国人の多くは1Kでも複数が暮らす場合が多い。 
 午後9時を過ぎて西川口駅東口から西口へと渡る間に聞いた言語は中国語、タイ語、ベトナム語、フィリピン語の順に多く、日本語はコンビニやドンキホーテなど夜間も営業している店舗の店員からしか聞くことはなかった。その店員のうち1人はネパール人だった。 
 フィリピンの国旗を看板に掲げるなどしたスナックやパブなども、駅の東口側に5、6軒ほど集中してあった。夜間のマニラ首都圏に慣れている筆者には、多国籍化している駅周辺の光景に珍しさはあっても、さすがに日本の街なので安全に対する不安はほとんどなかった。ただ、泥酔したとみられる若い女性の言語不明の叫び声が通りに響き渡った時は、さすがにどきりとして足を止めた。 
川口市周辺に住む一般の日本人にとって、この状況はかなりの違和感となり、夜間の外出を避けるようになることも察した。 
 
▽自治体は相互理解推進 
 この状況を自治体はどう見ているか。川口市のホームページを見ると、住民参加の地域活動などを支援する協同推進課を窓口とし、日本人市民に対して外国人への理解を呼びかけていた。「新しいものを見ると、自分とは異なる点を意識しやすいですが、文化が交わるとき、正しい答えは一つとは限りません。/川口市に住み始めた外国人に日本の文化や習慣・ルールを知ってもらうために、私たち日本人も外国人の文化や習慣を知り、お互いを尊重・理解し合える環境作りを心がけましょう」と書かれている。 
 さらに中国、ベトナム、韓国の人口上位3国については国別の歴史、文化、言語に関するかなり詳細な解説があった。ネット上には川口市の外国人のゴミの出し方などに対する批判的なコメントもあったが西川口周辺に限ってながら特別にゴミが目立つようなことはなかった。 
 日本の人口が減少を続けている中、2020年の日本の国勢調査で埼玉県は15年調査比で8万302人増の734万6836人で、人口増加率は1・1%。東京都、沖縄県、神奈川県に次ぎ都道府県では全国4位となっている。人口統計は外国人も含むため川口市の人口増加率は県内平均よりも大幅に高い2・8%となっている。鋳物工場で働く日本人とともに在日コリアンの姿も描いた映画「キューポラのある街」(浦山桐郎監督、吉永小百合主演、1962年)の舞台となった川口市は、増え続ける外国人の存在を肯定的に受け止めようとしているようだ。川口市の光景は日本の近未来図のようにも見えた。 


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