2023年04月22日22時25分掲載  無料記事
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鈴木江理子・児玉晃一編著『入管問題とは何か 終わらない<密室の人権侵害>』

  明石書店から昨年出版された鈴木江理子・児玉晃一編著『入管問題とは何か 終わらない<密室の人権侵害>』は、今、国会で審議が進行している入管法改正(改悪)問題と深くつながるテーマで、11人の人々が様々な立場でこの問題を論じた画期的な書です。この問題に長年取り組んできた「移住者と連帯する全国ネットワーク」共同代表理事で大学教授の鈴木江理子氏と外国人の法律問題に長く取り組んできた児玉晃一弁護士が共同で編者となっています。執筆者には他に朴沙羅、挽地康彦、高橋徹、井上晴子、周香織、安藤真起子、木村友祐、アフシンがいます。 
 
  今裁判で係争中のスリランカのウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件(国家賠償請求事件)、クルド人難民のケース、イラン人難民のケース、また入管の歴史、収容制度について、様々な角度から入管の問題点が記されています。 
 
  編者の鈴木教授が触れていることですが、「退去被収容者を最も苦しめることの1つは、出国を選択する以外、自らの力で密室から脱出する方法がないことである。収容令書にもとづく収容の場合は最長60日間と期限が定められているが、現行法上、退去にもとづく収容には上限がない。(中略)日本に家族がいる者や日本で生まれ育った者、国籍国で迫害を受ける恐れのある者など、密室での毎日がどれほど苛酷であっても出国を選択できない被収容者もいる。一時的に収用を解く仮放免によって密室からの脱出は可能であるが、許可されるかどうかの判断は入管職員の『裁量』である。10回以上仮放免申請をしているにもかかわらず、認められないまま3年以上収容され続けた者もいる」 
 
  この問題を私たちはともすると「外国人だけ」の特殊な問題で、関係ないと思ってしまうかもしれませんが、まさに入管の収容施設の実態は明日の日本国民の運命かもしれないのです。これは決して荒唐無稽なことを述べているのではありません。憲法から国民主権が奪われたり、戦時の緊急事態条項などの導入で人権の「一時停止」などが合法化されると、基本的人権が奪われてしまいます。そして、恣意的な判断で〜担当者の『裁量』で〜自分の運命が決められてしまう、そんな未来がすぐそこにあります。入管施設に収容されている人々に起きていることは、まさに人権が奪われた人間に起こり得る事態の具体的なケースです。病気になって担当者に訴えても医師に診てもらえない、ということは象徴的です。 
 
  そして、日本という国の領土内、つまり日本国家の中で、人権が奪われ、暴力で人が死んでいくのを見殺しにしてしまうと、それは必ず自分や家族に降りかかってくるでしょう。そのようなことを国民の一人として相手が外国人であったとしても容認したことになるからです。そして、それは明日は自分にも起こり得ます。今、高齢者は集団自殺したらどうか、といった議論をする論者が注目を集めていますが、基本的人権が失われるとすぐに歯止めを失い、人権の基準はどこまでも落ちていくでしょう。その意味で、鈴木江理子・児玉晃一編著『入管問題とは何か 終わらない<密室の人権侵害>』は、明日の私たち自身の運命を探るための重要な本であると思います。このようなことが日本人に起こらないことを願うとともに、外国の人々にとっても起こらないことを祈ります。そのためにも、今国会で審議されている入管法のさらなる改悪を阻止する必要があるのです。 


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