2023年05月05日11時30分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=202305051130545

アジア

ミャンマーの惨状を座視する日本政府 国軍との「共犯」を報じないメディア

 熱帯の国ミャンマーでは、猛暑がピークを迎える4月に「ティンジャン」と呼ばれる正月を祝う行事がおこなわれる。ティンジャンは暑さを吹き飛ばそうと、男女が陽気に水をかけ合う光景から「水かけ祭り」とも呼ばれ、例年最大都市ヤンゴンの大通りは人びとであふれる。正月を祝う行事ダジャンは日本でも4月9日、在日ミャンマー人たちによって東京の日比谷公園、新宿の戸山公園など各地で開かれた。(永井浩) 
 まだ肌寒い日本では水をかけあう光景は見られないが、日比谷公園には在日ミャンマー人や彼らの国の民主化運動を支援する日本人ら約1万人が参加した。私は戸山公園のほうに参加した。 
 ステージでは民族衣装のロンジーで着飾ったミャンマー人や日本人が、大人も子どもも歌を歌い伝統舞踊を舞う。広場にはミャンマー料理を楽しめる屋台や民芸品を販売するテントが並び、ミャンマー人と日本人が語り合う光景が見られた。 
 だが、彼らの祖国では、2021年2月の国軍クーデター以降、ヤンゴンはじめ各地で新年を祝う恒例の行事は途絶えた。クーデターに反対し民主主主義の回復を求めて立ち上がった広範な市民の非暴力「不服従運動」が国軍の武力弾圧によって封じ込まれている状況で、お祭り騒ぎどころではなかった。 
 非暴力の抵抗運動をあきらめて、民主派勢力が立ち上げた国民防衛隊(PDF)に多くの若者が参加するようになった。彼らは少数民族の武装組織と共闘して国軍と各地で戦闘を繰り広げている。国軍は抵抗運動を封じ込めるために各地で空爆を繰り返し、多くの市民が犠牲になっている。ミャンマー人によれば、現状はミャンマーの歴史で最悪の事態となっている。 
 こうした惨状は日本のメディアでも報じられているが、不思議なのは、このアジアの隣人の悲劇に日本が無関係ではない事実には触れないことだ。 
 米国やEU諸国はクーデター直後から「われわれはミャンマー国民の側に立つ」と明言し、国軍への経済制裁を強化している。だが日本政府は、普段は対米従属を堅持しているのもかかわらず、ことミャンマーに関しては、「われわれは国軍とアウンサンスーチー側に独自のパイプを持っているので、それを通じて欧米諸国とは異なる解決策をめざす」と空念仏を繰り返すだけである。なぜなのか。 
 疑問を解くニュースのひとつが、ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官から2月20日、自民党副総裁の麻生太郎(元首相、財務相)と日本ミャンマー協会の渡邊秀央会長に勲章が授与されたことである。理由は、両氏がミャンマーの平和と発展に貢献してきたというものである。では、「貢献」の中身とは何か。 
 日本はミャンマーへの最大の政府開発援助(ODA)の供与国である。ODAが同国の経済発展のインフラ整備や雇用創出に役だっていることは間違いない。だがその裏面で、ODAプロジェクトに参加する日本企業が国軍系企業と手を組むことで、ODA資金の一部が国軍に流れている。具体的な事実は省略するが、ODAを通じて日本の企業と国軍が経済的利益を分かち合っている。その橋渡し役として日本の主要企業をミャンマー国軍とつなぐ「パイプ」役を果たしてきたのが、麻生と渡邉であり、そのお膳立てをしたのが安倍晋三首相である。 
 だから麻生と渡邉はクーデターの首謀者から叙勲される。一方、在日ミャンマー人たちは叙勲後、日本ミャンマー協会前で「渡邊はミャンマー国軍の共犯者だ」と抗議デモを行ない、つづいて自民党本部前で「麻生元首相はミャンマー国軍の共犯者だ」と抗議デモをした。日本は、クーデターに反対し民主主義を守れと立ち上がった広範なミャンマー国民に血なまぐさい武力弾圧の手をゆるめない国軍に、直接手を貸しているわけではない。しかし、国内外のミャンマー人から見ると、日本のODA資金がさまざまな形で国軍に流れていることははっきりしている。日本政府は間接的に軍政の残虐行為に加担している、と映る。 
 だが麻生、渡邉への叙勲が衆議院予算委員会で取り上げられても、岸田首相は「事実を認識していない」と答弁をはぐらかす。メディアもミャンマー国軍と日本の大物政治家たちとの関係は追究しない。 
 権力に厳しい監視の目を光らせている日本共産党の「しんぶん赤旗」さえ、ミャンマーの惨状がけっして対岸の火事でなく、日本がそれに深く関わっている事実については掘り下げた報道をしない。4月19日の同紙「主張」はミャンマーの「民主求める抵抗はつぶせない」とし、事態解決にASEAN(東南アジア諸国連合)の役割を期待するだけで、日本の役割には言及しない。日本政府に「われわれはミャンマー国民の側に立つ」と明言すべきだと求めることはない。 
 しかし、政府、メディアが「日本」を素通りするなら、ミャンマーと日本の市民が国境を超えてアジアの隣人たちの「夜明け」に向けて連帯しなければならない。そのような動きはまだ大きくはないものの、ティンジャンの場でさまざま形で確認できた。 
 民主化運動の指導者アウンサンスーチーが毎日新聞に連載した『ビルマからの手紙』によれば、ティンジャンとは「転換」を意味し、男女がかけ合う「アターの水」は「平和と繁栄と不浄の清めを象徴する」という。この期間はまた、「過ぎ去った年を省みて、新年を控えた最後の数日を使って私たちの『功徳の本』の帳じりをととのえるための時間なのである」 
 来年の正月では日本だけでなく、ミャンマーの各地で盛大な水かけ祭りが復活することを期待したい。そのためには、私たち日本人もこれまでのミャンマーとの関係の功徳の 帳じりを真剣に再考し、不浄の清めをすべきだろう。。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。