2023年06月17日12時36分掲載  無料記事
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日本政治を描いた日本映画『はりぼて』(ドキュメンタリー)と『新聞記者』(ドラマ)〜 敵は何なのか?〜

  日本政治を描いた日本映画『はりぼて』(ドキュメンタリー)と『新聞記者』(ドラマ)は、それぞれ勇気のある作品で、その意義を評価していますし、それらが成功したことも喜ばしいことと思っています。そのうえで、若干私が不満を感じたことを書きたく思います。私の指摘通りに修正しても映画の完成度とか、集客力が上がると思っているのではありません。ただ、観客として率直に感じた点が1つ2つあったのです。それは、説明をもう少し加えてほしいと思った点でした。 
 
 『はりぼて』は富山チューリップテレビの記者たちが富山市議会議員たちの政治資金の不正に切り込んだ迫力のある映画です。情報公開制度を活用して議員たちの領収書をチェックし、疑問点をぶつけていくと次々と不正が発覚し、議員たちが謝罪したり、辞職したりし、それが次々と続きます。こうした時に、映画の冒頭でさらっとながら市議会の状況は説明されているのですが、その不正が起こる理由、その不正に政治家が手に入れた資金が何に使用されているのか。構造的問題なら、何が原因にあるのか。そこが見えないために、不正からの脱却がテーマになっていながら、「敵」の正体が見えにくい印象を受けました。そのことは、以下のリンクで東京新聞が報じた『はりぼて」の共同監督の一人のインタビュー記事でも感じた点です。 
 
*「自分たちの恥もさらけ出す」 ドキュメンタリー映画「はりぼて」監督 五百旗頭幸男さん(東京新聞) 
https://www.tokyo-np.co.jp/article/70985 
 
 映画の最後で、記者たちのリーダー二人が社長室に移動になったり、辞職したりというシーンがつけられていますが、ここでもその意味がわかりにくいのですね。メディア業界の人は知っていることかもしれませんが、外部の観客には「?」でしかありません。政治家に向けたマイクとカメラは、自分の陣営には切り込めていないのではないかという印象をむしろ受けてしまいます。つまり、この記事のタイトルにある「恥」が何かわからず、さらけ出しているとは思えない点にあります。こう書くと、批判的になってしまいますが、この映画自体の価値を否定しているのではないことを重ねて書いておきたく思います。 
 
  ただ、このことが第二次安倍政権以来、新聞記者たちが闘ってきた「敵」の本丸が何か、そこに訴求できていないことと通底するのではないかという印象を受けてしまうのです。すなわち、首相との夕食会をいつまでもやめず、岸田首相になってもメディアが継続しているらしいことです。敵を政治家、という風に限定できるのか、という問題であり、自分に関わることはブレーキが働いてしまうのではないかということなのです。 
 
  『新聞記者』では東京新聞の望月衣塑子記者ら、安倍政権の報道への抑圧と闘った現役ジャーナリストたちが討論動画の形でインサートされますが、まずはこれが逆に中途半端な印象を与えます。現実とドラマの接続点というのであれば、むしろ入れるなら入れるでしっかり入れてほしかった気がします。あれでは外国の人だけでなく、日本人にとっても経緯を知らない観客には理解しづらいのではないでしょうか。 
 
 それと『はりぼて』と通底しますが、「敵」の陣営として措定されている内閣情報調査室がどのような組織なのかがわかりにくいことです。また政界をゆがめる情報を流している中心人物が、どんな人格なのかがわかりにくく、彼の人格形成や動機が理解しづらいことです。2014年の内閣人事局発足以来、官僚は政治家のケツを舐めてきたとはよく言われますが、しかし、その理解だけだとあまりにも官僚の人間像が平板に見えてしまいます。なぜその官僚がそのような価値観になったのか、そういうところが見えにくいためにここでも「敵」が(表面はともかく)よく見えないのです。敵とはいったい何なのか。政治のゆがみの原動力にメディアの腐食がある、という認識が弱いということでもあります。 
 
  比較対象が適当ではないかもしれませんが、ドイツ映画の『ヴァンゼー会議』(2022)の場合、欧州のユダヤ人絶滅を決めたとされる会議の一部始終を見せる形式で進んでいきながら、独ソ戦や東部戦線の状況、マダガスカルへ移住させる可能性、道徳的問題など様々な論点が観客の頭に入るように監督は情報を的確に提供しています。会議の中で論客が二手に分かれ、議論が闘わされるもののクライマックスで、彼らは結局同じ穴のムジナであることが明かされます。とにかく情報を出し惜しみしていないことがこの映画が理解された理由でした。 
 
 
 
■放送業と新聞業の分離を 放送を捨てることで新聞の価値はむしろ高まる 
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