2023年07月18日16時39分掲載  無料記事
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アジア

ミャンマー人を対象とする「緊急避難措置」とは何か?-日本人支援者が解説-(後編)

 前編では、在日ミャンマー人を対象とする「緊急避難措置」について説明してきたが、この「緊急避難措置」という文言を聞けば、難民認定申請を想起される方もおられるだろう。確かに、この「緊急避難措置」は、本国情勢を考慮して帰国できないミャンマー人に対して、日本での在留を認めるという観点から、難民認定申請に似通っている部分もある。 
 
 しかし、「緊急避難措置」の付与と、難民認定申請は根本的に異なる点がある。基本的に難民認定申請は、人種・国籍・宗教・政治的意見による迫害の恐れが条件となるため、そのような迫害の事実を個人的に立証しなければならない。あくまでも個々人がどのような迫害を受けたか、あるいは受ける恐れがあるのか、という点を自分自身が入管の難民調査官に対して立証しなければならないのである。 
 
 それに対して、「緊急避難措置」は、ミャンマー人に対する、いわば「包括的な保護政策」であり、「緊急避難措置」の申請者は、ミャンマー国籍であることを証明するパスポートのコピーを提出すれば良いだけであり、基本的にインタビュー等は行われない(ただし、研修先を離職している技能実習生や、短期滞在で日本に在留している場合などは詳しい事情を聞かれる場合がある)。 
 
 1988年にミャンマー全土で起こった大規模な民主化運動とその後の新たな軍事政権成立、そして過酷な人権侵害により、多くのミャンマー国民が国外に逃れたことは周知の事実だろう。例えば、多くの少数民族市民が、継続的な迫害を逃れて、タイ・ミャンマー国境地帯の難民キャンプに逃れた。そして、そのうちの一部は日本にもやって来た。早い人で1988年12月頃である。 
 
 こうして多くのミャンマー国籍者が来日し、難民認定申請を行っている。大まかに言えば、ミャンマー難民(当時はビルマ難民という呼び方が一般的だったが)は、インドシナ難民に続いて、日本にやって来た難民の大グループであった。 
 
 日本は「難民鎖国」と言われるほど、難民の受け入れに消極的な国だ。しかし、不十分な難民受け入れの中でも、ミャンマー国籍者は、相対的に見れば受け入れが進んでいる方と言えるかもしれない。2016年の国民民主連盟(NLD)政権成立以降は、ミャンマー国籍者に対する「難民認定」及び「人道配慮による在留許可」がほとんどゼロとなった。日本政府は、ミャンマーの国内状況が落ち着いたため、ミャンマー国籍者の難民該当性が著しく低下した、と判断したのではないだろうか。2016年以降は、過酷な迫害にさらされた少数民族やロヒンギャも同様に難民認定されなくなったという事実も指摘されている。 
 
 そして、2021年2月の軍事クーデター以降、ミャンマーは再び2010年以前のような過酷な軍事政権となった。今年の春に公表された法務省の統計(令和4年における難民認定者数等について)によると、ミャンマー国籍の難民認定申請者は298人、認定者数は26人となっている。単純計算すると、認定率は8%を超えており、他国籍者の認定率より高い数字となっている。 
 
 ただし、ミャンマー国籍の申請者自体は、2021年の612人からかなり減少している。本国情勢が悪化の一途を辿っているのに、難民認定申請者が大幅に減少しているのは、上記の「緊急避難措置」の付与によって、難民申請を回避する傾向にあるからだと考えられている。 
 
 とはいえ、前編でも触れたように「緊急避難措置」というのは、あくまでも一時的な制度であり、将来性は不透明である。日本政府、そして入管は、ミャンマーという国が完全な民主主義国家となるまで、こうした制度を継続していくべきではないだろうか。 
 
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熊澤 新(くまざわ・あらた) 
・「ミャンマー民主化のためのネットワーク」代表 
・行政書士(入管・ビザ関係の業務) 


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