2023年07月31日22時01分掲載  無料記事
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欧州

観光省大臣サンタンチェ氏 もう一つの裏の顔〜チャオ!イタリア通信 サトウノリコ

 前回の記事に引き続き、7月5日に上院でサンタンチェ氏の演説が行われた。主に報道番組「レポート」で告発された内容に対する回答とも言える。 
 
 この演説でまず最初に発言したことは、自身が「憎しみのキャンペーン」の犠牲者になっている、ということである。そして、検察からの捜査を受けたことはないと。サンタンチェ氏は「検察からの捜査を受けていない」理由として、「avviso di garanzia」と呼ばれるものを検察からを受け取っていないからだ、と主張している。この「avviso di garanzia」は保証通知と訳せるもので、検察が捜査対象となる人物に送る通知だ。ただ、実際はこの通知を受け取っていないからといって、検察の捜査を受けていないとは言いきれない。検察はこの通知を全ての事件で捜査対象者に送る必要はなく、取り調べや捜索において弁護人の立ち合いが必要な場合にのみ送ることができるとされているためだ。 
 
 少なくとも昨年11月には、検察から捜査を受けているはずだ。ビジビリア社の倒産と虚偽会計について、昨年10月5日に、ミラノ検察当局は、サンタンチェ氏だけでなく、ビジビリア社の最高経営責任者でサンタンチェ氏のパートナーであるディミトリ・クンツ氏と経営に関わっていたサンタンチェ氏の妹も捜査対象名簿に登録しているからである。さらに、元取締役であるマッシモ・チプリアーニ氏とダヴィデ・マンテガッツァ氏の2名も対象名簿に登録された。 
 
 この演説の後、報道番組「レポート」のジャーナリストが他の番組でインタビューを受けたが、サンタンチェ氏が経営に携っていた会社の元社員から告発通報が続々と来ていると話していた。 
 
 サンタンチェ氏が政治の世界に入ったのは、1995年に現在上院議長を務めるイニャツィオ・ラ・ルッサ氏の個人的協力者としてだった。その際、「国家同盟」という右派の政党に加盟しており、このラ・ルッサ氏とは政治的だけでなく、経済的にも親密な関係が続いている。今回のスキャンダルにおいても、ラ・ルッサ氏は重要人物として登場する。 
 
 その後、1999年にはミラノの地方議員となり、2001年には第4次ベルルスコーニ政権の事務次官として国会に入る。さらに、2018年に上院議員となり、2022年現政権の観光省大臣になる。 
 
 企業家としては、1983年に自身の会社を設立したのが始まりである。その後、2007年に今回のスキャンダルの舞台となるビジビリア社を設立する。さらに、その前年2006年にはKI GROUPという有機栽培食物を製造する会社を買収する。このKI GROUPはイタリアで最初に豆腐や「セイタン」と呼ばれるグルテンミートを製造販売した、イタリアでは有機栽培食物製造の先駆けとも言える会社である。 
 
 サンタンチェ氏が当時のパートナーのカニオ・マッツァロとKI Groupを買収した時、KI Group の経営者であったブラーニ家にはマイナス資本が1000万ユーロ(15億5000万円)あった。だが、サンタンチェ氏とマッツァロ氏はKI Groupを買収するにあたり、彼ら自身の資金をほとんど使ってはいない。というのも、モンテ・ディ・パスキ・ディ・シエナ(イタリアで最も古い銀行)が彼らに600万ユーロ(9億3000万円)を貸与し、その契約の中で最初の2年間は返却しなくてよいとされていたからだ。また、ローンの全額返済も10年間に延長されていた。彼らがKI Groupを買収してからの2年間は、KI Group の黄金期と言われており、この2年間で売り上げ金は5500万(85億2800万円)ユーロに至った。 
 
 その時期、サンタンチェ氏とマッツァロ氏は経営者であったが、実際の経営には関わっていなかった。それでも役職給として年間60万ユーロ(9300万円)を受け取っていた。役職給以外にも、マッツァロ氏の高級車のレンタル料や会社のオフィスとして借りていたミラノの高級マンションの賃貸料なども会社から支払われていたようだ。ちなみに、高級マンションの賃貸料は1カ月で8000ユーロ(124万円)だったそうだ。 
 
 その後、黄金期の経営に携わっていた人物が会社を辞めて、2017年にはサンタンチェ氏とマッツァロ氏が直接経営に携わることになる。その翌年となる2018年には、製品材料のサプライヤーへの支払いが滞り、借金が800万ユーロ(12億4000万円)と、売上金の4分の1にまで膨らんだ。多くのサプライヤーが中小企業であったが、各企業は支払いがされずに材料の配達をしたことから、大きな損失を被ることになった。 
 
 当時のKI Group の会計担当者の証言では、サンタンチェ氏が直接サプライヤーに連絡を取り、「来月には支払いをするから」という約束で、材料の配達をしてもらっていたようだ。サンタンチェ氏から直接電話をもらったというサプライヤーの証言では、「支払いがないので、材料の配達をストップする」と連絡をすると、サンタンチェ氏から次のような電話があったそうだ。「会社(KI Group )は家族の会社であり、自分にとっては息子の会社である。(会社の役職にはサンタンチェ氏の妹、姪、息子がついていた)倒産させるつもりはない」と。サプライヤーは、この言葉を信用をして配達を続けた。 
 
 このサプライヤーは2021年10月にKI Group からの支払いがストップしたと言っているので、それまでは何かしらの支払いはされていたのであろう。支払いがストップした際に、このサプライヤーがメールを送ると、サンタンチェ氏ではなく、彼女の息子が連絡をしてきた。このサプライヤーへの借金は13,000ユーロ(200万円)にまで膨らんでいたが、KI Group からのメールでは「2000ユーロ(31万円)をあげます」との返答があった。このサプライヤーが「からかっているのか?」と返事をすると、「すでにこちらは支払っているから」との返答があったことで、このサプライヤーはKI Group との取引を一切取りやめることにしたようだ。 
 
 つまり、サンタンチェ氏は自身の政治家という立場を利用して、KI Group のサプライヤーたち、会社員たちを騙し続けたということになる。元会社員も「国会議員が経営者になるなんて、すごいと思っていたが、会社が落ちぶれる始まりだった」と証言している。 
 
 コロナ禍の最中に、テレビ番組のインタビューでサンタンチェ氏が「自分の会社では、コロナ禍で自宅待機となっている社員(経営危機の会社が経営が元に戻るまで社員を自宅待機させること)にも給料が支払われている」と話していたが、それを見た元会社員は「給料は支払われていない」と語っていた。イタリアでは会社と社員が契約を取りやめる際に支払われるべき報酬があるが、この元社員はその報酬もKI Group から支払われていないと証言している。彼一人ではなく、報道番組「レポート」に出演した元社員3名ともが支払われていないと言っているので、他にも支払われていない社員がいる可能性があるだろう。 
 
 出版を主とするビジビリア社も同様である。コロナ禍のために会社員が働けない状況を利用して、経営者のサンタンチェ氏とパートナーで経営責任者のディミトリ氏は政府にこの社員が全く働いていないという申請をしていた。これにより、政府から給与にあたる金額が100%支払われたが、実際はこの社員はいつも通りに働いていた。では、政府から支払われた賃金はどこへ行ったのだろうか。どこかで誰かの懐に入ったと考えるのが普通ではなかろうか。そして、それは政府に申請をした経営者と考えるのが普通ではないか。 
 
 ビジビリア社は倒産の危機にあったが、ネグマというドバイにある謎の会社が資本を提供している。このネグマの弁護士が現在上院議長のイニャツィオ・ラ・ルッサ氏なのである。何かしらの怪しい繋がりを感じるのは、私だけではないと思う。 
 
 ここまで見て、サンタンチェ氏がどんな人物であるか、わかったことであろう。詐欺に近い行為をしたり、給料未払という違法行為もしている。こういう人物が国会議員しかも大臣に任命されているという事実。これが、現在のイタリアである。先日、国会で行われたサンタンチェ氏の不信任案の投票結果は、賛成67票と反対111票で何とか大臣の辞任は免れている。 


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